これまでのコンピューターでは計算時間がかかりすぎる問題を解決する手段として、期待される量子コンピューター。その量子コンピューター向けのソフトウエアを手がけるのがエー・スター・クォンタム(東京都港区)。船橋弘路最高経営責任者(CEO)は「量子コンピューターの利便性をエクセルのように身近にしたい」と語る。同社の戦略を聞いた。

量子コンピュータとは?

量子コンピューターはエネルギーの最小単位である、量子を利用した計算機だ。大きな特徴はその計算速度にある。現在のコンピューターでは、0か1のどちらかのビットを計算前に規定する必要がある。そのため、全ての入力を計算した後、答えを導く。一方、量子コンピューターでは0でもあり1でもあるという「量子重ね合わせ」の状態を使い、並行計算を行う。これにより、格段に早く答を導くことができる。

半導体の集積率が18カ月で2倍になる「ムーアの法則」が限界点を迎えつつあり、現在のコンピューターとは異なる方式である量子コンピューターの研究が盛んになっている。技術的に大別すると、膨大な組み合わせから最適解を導くのに適した「アニーリングマシン」と、汎用計算を得意とする「ゲートマシン」がある。

実用化へ先行するのはアニーリングマシンだ。カナダのD−wave社やNECなどが商用の量子コンピューターを発表している。ゲートマシンでも、日本IBMが東京大学と共同で稼働を開始した。量子ビット数や誤り訂正の課題は残すが、研究や活用方の模索が続けられている。

日本IBMの量子コンピューター「IBM Quantum System One」

配達、広告で応用

エー・スター・クォンタムでは、アニーリングマシンを使い、組み合わせ最適問題に特化したソフトウエアを開発。無数のパラメーターを抽出し、そこから計算式にあたるイジングモデルを作り、その計算式を量子コンピューターで演算して答を導く。

イジングモデル:自転する「スピン」が格子状に並んだ計算システム。スピン同士は磁石のように相互に作用し、引かれ合うときは同じ向きに、反発する際は逆を向く。これらスピン1つ1つにデータを設定し、全体のエネルギー総和を用いて問題を回答する仕組み。

出資先として名を連ねる電通グループとは、テレビ広告枠の運用最適化と高速化を担う。日本郵便とは、拠点から荷物を積んだトラックが複数の郵便局を巡る最適な順路を計算。荷物の量だけではなく、駐車の可否などの変数も考慮し、配達の効率化を目指す。年間100億円のコスト低減も可能と試算する。

同社は配達ルートの最適化に取り組む

どの業務もこれまでは経験のある人物が時間をかけて行ってきたもの。船橋CEOは「量子コンピューターを使えば、運用の高速化だけではなく、人手不足にも対処できる」と話す。また、アニーリングマシンだけではなく、人工知能(AI)やアルゴリズムも合わせて使う。これは量子コンピューターが技術的にまだ「不完全」であるためで、他の技術を組み合わせて補完する。

船橋CEO(写真は提供)

「コンピュータ」普及の再現を狙う

現在のコンピューターは基本ソフト(OS)で動作するように作られている。ただ、黎明期は用途別にコンピューターが製造され、使用されていた。専用のマシンを動かすために、専用のソフトが必要であり、互換性に乏しかった。そこに風穴を開けたのがリナックスなどのオープンソースだ。マシンの種類を問わずに動かすことのできるオープンソースはその後、OSへと進展した。また、マシンの性能向上に伴ってソフトの利便性が向上するようになったのも特徴だ。

量子コンピューターの事業展開に向け、同社はこのコンピューターの歴史の再現を狙う。様々な種類の量子コンピューターとアルゴリズムを組み合わせ、クラウド上にデータを分析するプラットフォームを構築。企業ごとのニーズに応じて、ソフトを作り課題を解決することを目指す。これにより、マシンの性能が上がればソフトの処理速度は向上する。船橋CEOは「マシンの性能が向上するたびにソフトを買い換える必要がなく、顧客の利便性にもつながる」とメリットを話す。

現在は、物流や広告、保険事業者向けに事業を行っているが、2022年度にはシステムインテグレーター向けに汎用SaaS(サービスとしてのソフトウエア)をリリース予定だ。今後は「一般ユーザー向けのシミュレーションソフトを展開し、量子コンピューターの利便性を広げていきたい」(船橋CEO)と展望する。

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