「より安全な農薬を世の中に出していく」。こう意気込むのはアグロデザイン・スタジオ(千葉県柏市)の西ヶ谷有輝社長。国連の持続可能な開発目標(SDGs)への関心が高まるなか、農業でも環境負荷の低減と食品安全の両立が求められる。同社は従来とは一線を画す方法で、農薬開発の変革を目指す。

カギはたんぱく質の構造解析

これまでの農薬開発は候補の化合物を害虫や雑草などに添付し、多くの対象物に効果を示す化合物を採用する方法がとられてきた。この方法の場合、「なぜこの化合物が効いたのか」というメカニズムが分からない。そのため人に対しても化合物が働き、健康被害を起こしてしまうリスクを抱えていた。アグロデザイン・スタジオは「構造ベース創農薬法」という技術で、より安全な農薬を開発する。カギを握るのは、たんぱく質構造解析だ。

植物タンパク質ALSの構造(同社提供)

近年、新薬の中心になっているのはバイオ医薬。これは病気の原因になっているたんぱく質の構造を解析し、たんぱく質だけに作用する薬を設計することで薬効を高めつつ、副作用を減らす。同社はこの手法を農薬に応用する。植物などが持つ、たんぱく質をコンピューターで解析。このデータをもとに人は持っておらず、植物だけが持っているたんぱく質にだけ作用する農薬を設計する。こうすることで人への安全性を担保しながら、害虫や雑草にピンポイントで農薬が効くようにする。

構造設計を加速

同社のラボ

現在の候補品(パイプライン)は殺虫剤や土壌の硝化菌を殺菌する「硝化抑制剤」など六つだ。同社は候補薬の薬効を試験したのち、製造販売をライセンスアウトする方針。そのためたんぱく質の解析や実験データこそ、同社の競争力の源泉だ。西ヶ谷社長は「これまでの農薬開発ではあまり使われていなかったコンピューターによる構造設計を加速させる」と話し、植物特有のたんぱく質の構造解析を進める。2022年度は300のたんぱく質の構造解析を目標に掲げる。すでに人工知能(AI)開発のプリファード・ネットワークス(東京都千代田区)と組んで、除草剤抵抗のある変性酵素に有効な阻害剤を創出した。計算科学を駆使することで、安全性の向上と開発期間の短縮を目指す。

「企業と研究機関の架け橋になりたい」

西ヶ谷社長

医薬の世界では大学発スタートアップなどが作った薬の種(シーズ)が、メガファーマーによって製品化されるエコシステムが存在する。ただ農薬の場合、その事例は少ない。そこには農薬企業と研究機関との間に認識の隔たりがあるからだ。製造を見据えながら分子を設計したり、特許出願において互いのノウハウが共有されていない現状がある。西ヶ谷社長は「将来は農薬企業と研究機関の架け橋になりたい」と話す。最終目標は研究成果をライセンスアウトして、社会実装するエコシステムを農薬の世界でも実現することだ。

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