企業活動において経営判断を早めたり、リソースを最適配分するため、他社との連携する流れが強まってきた。そのため海外への製造委託やライセンス契約など契約を厳格に管理する必要がある。それは中小企業も例外ではない。ただ、法務部門を持たない企業にとって容易ではない。そこで注目されるのが、ITを使い法律業務を効率化する「リーガルテック」。業務効率化だけでなく法務部門がなかったり、規模が小さかったりする企業では新人教育や、ノウハウの蓄積に役立てる動きが広がる。黎明期のリーガルテックを追った。

法務ノウハウの蓄積

リーガルフォースのサービスイメージ

「裁判になった際に、法律知識を自社で持っておく必要性を痛感した」。グラファイトヒーターを手掛ける千石(兵庫県加西市)の石原裕康経営企画部部長は、契約問題で起きた他社との裁判をこう振り返る。この裁判を機に導入したのが、リーガルフォース(東京都江東区)の契約書レビューサービス「リーガルフォース」だ。契約書を他社と締結する前に、人工知能(AI)によるレビューが受けられる。契約書が自社にとって有利なのか、不利なのかをソフトウエアが判断する。搭載されたひな形を使うことで、一から契約書を作成する手間も省ける。契約書を確認する時間の削減に加え、専任担当者の不在を補う役割を担う。千石も法務部門の専任者がいなかった。現在はリーガルフォースを使い、自社にとって不利な契約書を結ぶリスクを減らしているという。

リーガルフォースはノウハウの継承という用途でも使われる。スクリーン製造のオーエス(大阪市西成区)は自社に知財担当と契約書の担当を1人ずつ抱える。同社はベテラン社員の技能を継承する目的で同サービスを導入した。現在は毎月20件ほどの契約書締結までのやり取りの情報を蓄積する。AIでの効率化を実現しつつ、過去のやり取りを契約書締結の教育に使う。同様に同サービスを導入する電子部品材料メーカーのナミックス(新潟市北区)もリーガルフォースに蓄積した契約書レビューを新人教育に生かしている。

価格やサービスで競う

AIを使った契約書のレビューや作成、契約締結、締結前後の案件管理の一連の流れは「契約ライフサイクルマネジメント」と呼ばれる。それぞれの工程がバラバラになることなく、一気通貫で行えることでケースごとにノウハウを整理できる利点がある。リーガルテック各社も自社サービスと他社サービスを組み合わせて、一気通貫の体制を構築する。リーガルフォースは契約書をレビューする機能と管理ができる機能を自社でそろえる。電子契約などは他社と連携して補完する。角田望最高経営責任者(CEO)は「契約書のレビューと管理を一気にできれば、リスク軽減やノウハウの蓄積にいかせる」と強調する。

GVA assist

競合も業務ノウハウの蓄積を商機として着目する。GVA TECH(ジーヴァテック、東京都渋谷区)は契約書レビューサービス「GVA assist(ジーヴァアシスト)」を展開する。同サービスは導入企業の法務部門が持つ、「自社専用のひな形」を参照してレビューを行える点が強みだ。康潤碩(カンユンソ)取締役は「これまで属人的な要素が強かった法務業務のノウハウが継承できるようになる」と説明する。新人教育などのオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)の効率化を想定する。自社のひな形がある大企業をターゲットに、2023年末に800社から900社の契約を目指す。価格は月額3万円(税別)から。また契約書レビューを簡単に行える点をいかし、法務以外の部門での利用も訴求していきたいという。

リセ(東京都中央区)は中小企業向けに契約書レビューサービスを展開する。同社は、各種ひな形や契約書の条項の見落としリスクなどにフォーカスする。機能を絞り込むことで月額2万6000円(税別)からと価格を抑えた。担当者の古田哲也氏は「中小企業は総務部門などが法務機能を兼ねている場合が多い。そうした法律知識が少ない担当者が持つ、見落としの不安を軽減する」と話す。同サービスを通してリスク確認といった法務業務の経験を後押しする。日本語だけでなく、英語の契約書にも対応しており、今後対応できる言語数を増やす。

専門知識を補完するために導入が進む、リーガルテック。ただ、黎明期ゆえに今後の利用拡大に向けて必要機能の絞り込みは欠かせない。ジーヴァテックの康取締役は「今後数年間は新規顧客の流入だけでなく、ほかのサービスへの乗り換えも相当数ある」と流動性を指摘する。また、現在は価格が提供企業ごとに数万−数十万円と開きが大きい。顧客管理システム(CRM)のように普及するには、金額の差を機能やサポートといった要素で、説明ができるようするに必要がある。

契約レビュー以外のサービスも

各種法律情報を横断で検索できる

また現在は契約書レビューがリーガルテックの主な市場だが、異なる用途で使えるサービスの登場も待たれる。リーガルスケープ(東京都文京区)は法律に関する書籍などを検索できるサービスを開発。同サービスは、ある書籍を引用した書籍をまとめて検索できる「逆引き」の機能を備える。これまでさまざまな媒体に点在していた法律情報を一覧で検索できるようにし、リサーチ業務の効率化を目指す。津金澤佳亨最高執行責任者(COO)は「法律事務所や大手企業だけでなく、法務部門を新設する企業での利用も増えてきた」と話す。

 

矢野経済研究所(東京都中野区)はリーガルテックの市場規模を23年に18年比で約1.5倍の353億円と予想する。特に電子契約サービスがけん引するとしている。この流れを取り込むためにも、リーガルテック各社には事業規模ごとのユースケースや利用シーンの拡充が求められる。