「あらゆる産業をソフトウエアのように進化させる」−。人工知能(AI)開発のIdein(イデイン、東京都千代田区)の中村晃一代表はこう力を込める。クラウドサーバーにデータを送らないことで、処理コストを抑制できる技術にエッジAIがある。ただAIモデルを動かすデバイスや運用のコストが普及の障害になっていた。イデインは安価なデバイスで実装できる技術でソフトウエアの普及が遅れる業界に攻勢をかける。

普及の足かせはコスト

エッジAIの強みはデータ処理の早さだ。カメラやセンサーなどデバイス側で処理するため、クラウドサーバーで処理する場合に比べ通信遅滞を減らせる。この特性を生かせば、自動車や製造現場、店舗のように迅速なデータ分析が必要な分野で応用できる。

一方、普及の足かせになってきたのはコストだ。デバイスや処理通信、運用のコストが高く、複数台導入することが難しかった。イデインはこのコストの問題を解決し、データ分析を用いた業務改善の高速化をあらゆる産業へ展開することを目指す。

安価なデバイスでAIを実装

同社のエッジAIを搭載したデバイス

同社は安価なオンボードコンピューターにAIを搭載。プログラムをコンピューターが読み取れる0と1のデータに変換する「コンパイラー」を工夫することで、処理速度を高める。通常、安価なコンピューターの中央演算処理装置(CPU)では処理できない高機能なAIを、画像処理半導体(GPU)の処理能力向上やメモリーの有効活用を図ることで可能にする。これによりデバイスの価格を数千円にまで抑えた。中村代表は「安価なデバイスで高性能のAIを動かすコンパイラーが競争力だ」と話す。

AIを搭載したカメラが人を認識するイメージ

またデバイス側で画像処理をすることで、クラウド処理をするのに比べ通信費も減らせる。運用の中で取得したデータをAIモデルに反映し、追加学習もできるようにする。

同社が提供するプラットフォーム「Actcast(アクトキャスト)」も特徴の一つ。このプラットフォームを利用すれば、遠隔で複数のAIデバイスを管理できる。ソフトウエアのアップデートや状態確認のために設置場所に出向くことを減らせるため、運用負荷を減らせる。

小売店などに導入すれば迅速なデータ分析が可能になる。例えば、店舗のカメラやデジタルサイネージに、AIデバイスを設置。これまで難しかった顧客の属性やデジタルサイネージの視聴効果などを計測する。このデータを用いることで、店舗のレイアウト変更や商品展開に生かせる。IT産業では当たり前のデータを使った改善を、リアルでも再現できる。また、エッジAI上で顧客属性などのデータを処理することでセキュリティーへの耐性も高まる。

「エッジAIのインフラ」を目指す

中村代表

2020年に正式リリースしたエッジAIサービスは、22年に入り小売大手などから大型受注を獲得。22年4月までにデバイスの納入数は1万5000台まで伸びた。年内にもAIが自動で学習するシステムをリリースする予定。さらなる需要の獲得を目指す。

今後は製造業やモビリティー分野で応用する。現実世界をデジタル空間で再現する「デジタルツイン」を実現し、人の動きなどをデータ化する。中村代表は「データを使った改善のサイクルで、産業構造の変革を実現したい」と力を込める。自社のプラットフォームでAIを動かすアプリケーションを自由に売り買いできる基盤も整える。将来は「エッジAIのインフラ」を目指す。

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