カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けて二次電池の重要性が高まっている。電気自動車(EV)では航続距離増加を目指し、開発競争が続く。最終製品に加え、電池向けに各種材料を提供するサプライヤーにも大きなビジネスチャンスが広がっている。この状況は材料スタートアップも同じだ。”巨大市場”のシェア獲得に向けた競争が始まっている。

「社会実装を急ぐ」危機感が背景

黒田CEO(同社提供)

「今、社会実装を目指さなければ間に合わない」。グラフェンメソスポンジ(GMS)と呼ばれる炭素材料を開発する3DC(仙台市青葉区)の黒田拓馬最高経営責任者(CEO)は危機感をにじませる。

同社の始まりは技術の社会実装を目指すプログラムだ。そこに参加していたのが、東北大学でGMSの研究をしている西原洋知教授。当時サムライインキュベート(東京都港区)に在籍していた黒田CEOが、西原教授に声をかけ起業した。当初は23年ごろの起業を目指していたが、黒田CEOが「(材料の)次世代電池への採用を見据えると、早くやるしかない」と西原教授を口説き落とした。

富士経済(東京都中央区)の調査によれば、駆動用の二次電池市場は35年に26兆4660億円へと拡大すると予想する。20年比で約8.5倍の規模だ。リチウムイオン電池の性能向上に加え、全固体電池などの次世代電池の開発も進む。黒田CEOは次世代電池の普及時期を念頭に「それまでに生産体制を築かなければ、シェア競争にも参加できない」と指摘する。起業を急いだのもこのためだ。同社は次世代電池が普及するタイミングに合わせ、炭素材料を電池へ搭載することを目標にする。

GMSとは

GMSの模型(同社提供)

GMSはスポンジのような3次元構造を持ったグラフェンだ。特徴として活性炭などと比較して、エッジサイトが少なく化学的劣化を抑制できる。また電極の熱膨張を吸収することで、充放電による構造変化に強くする。この性能を電池寿命の向上や大容量化に生かす。

グラフェンは従来から電池の性能を引き上げると、実用化を期待されてきた。ただ量産時に集積化すると、黒鉛化してしまいグラフェンが持つ性能が落ちてしまう欠点があった。3DCでは3次元の構造体にグラフェンを成長させることで、この課題を克服した。六角形に結びついた3次元のセラミックスの鋳型に、グラフェンシートを化学気相成長法(CVD)で成長させる。この構造体からセラミックスを除去することでGMSを製造する。黒田CEOは「製造プロセスはある程度確立されている」と自信を見せる。

キャパシタから次世代電池へ

先んじてGMSの応用先として狙うのがキャパシタだ。キャパシタの電気容量は炭素材料の表面積で決まる。ただ表面積を大きくすると、電池の寿命が短くなる「トレードオフ」の関係にあった。同社はGMSの特性を使って、電圧を高めたりエネルギー密度を向上させて、このトレードオフを解消する。24年に製品の投入を目指す。同時期に月産2トンの生産能力の確保も想定する。すでに電池メーカーなどと共同研究を始めている。

その先には30年代の実用化が見込まれる次世代電池の市場だ。リチウムイオン電池ではシリコン負極材に、電子の伝導性を高める導電助剤としてGMSを使う。全固体電池でも正極硫黄の導電助剤に応用する。GMSの構造変化に強い利点を生かす。

トヨタ自動車は20年代前半に全固体電池を搭載したハイブリッド車(HV)を投入する予定。日産自動車も28年に全固体電池をEVに搭載する計画だ。実際に自動車への搭載を目指すには設計段階で実績を築く必要がある。3DCもキャパシタなどへの採用で量産実績を作ることが、重要とにらむ。22年内にも生産ライン構築のため資金調達を実施する計画だ。

黒田CEOは「リチウムイオン電池を開発した日本が、市場が最も大きくなるタイミングで競争に参加できないのは悔しい」と吐露する。それでも「次世代電池のマーケットでシェアをひっくり返すしかない」と意気込む。

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