JOLED(東京都千代田区)による印刷方式の有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)ディスプレーの本格量産に向けた出資交渉が大詰めを迎えている。同社は1000億円の第三者割当増資を計画しており、年明けにも詳細を固めたい考え。材料・装置メーカーを中心に広く呼びかけた結果、複数の企業から出資の約束を取り付けたもようだ。しかし一部の交渉相手からは事業性を不安視する声も挙がっている。狙い通り資金調達できるかは綱渡りの状況だ。

500億円程度の調達にめど
 「出荷の規模は小さいが、成長に向けた第一歩だ」。初の製品出荷を始めた5日、JOLEDの田窪米治最高技術責任者(CTO)は万感がこもった表情をみせた。ここまで、有機ELパネルの事業化シナリオは計画通りに進んでいる。

 JOLEDは石川県の拠点にある基板サイズ4・5世代(730ミリ×920ミリメートル)の製造ラインで、印刷式有機ELパネルの少量生産を始めた。生産能力は月2300枚。現在は2019年の本格量産を目指し、第三者割当増資の実施に向けて東入来信博社長ら経営幹部が奔走している最中だ。

 現状では有機EL材料を供給している住友化学が出資する方針を固めたようだ。既存株主であるパナソニックとソニーも、増資後も持ち株比率が5%となるように追加出資をする見込み。SCREENホールディングスなどの装置メーカーも検討を進めている。すでに複数社が応じる姿勢を示しており、500億円程度の調達にはめどをつけたとみられる。

 ただし交渉は遅れ気味だ。当初は11月にも出資企業を固めたい意向だったが、その期限は年末、年明けと延びている。そこには、印刷式有機ELの事業性を見極めようとする各社の迷いが透ける。

「印刷式」事業性に不安
 「本当に技術優位性があるのか」「本命であるテレビなどを想定した基板の大型化に対応できるのか」―。出資を持ちかけられている装置メーカーの幹部は、事業性を判断するには情報が足りないと漏らす。世界初の印刷式有機ELパネルの製品化には成功したものの、それだけではまだ先行きが見通せないとの認識だ。

 別の装置メーカー幹部は「出資するということは、印刷有機ELビジネスと一蓮托生(いちれんたくしょう)になるということ。そこまで信頼できるほどの技術内容は開示されていない」と打ち明ける。

 JOLEDは中型パネルは自社生産するが、大型サイズのパネル生産は技術供与型ビジネスで事業化する計画だ。ジャパンディスプレイが年末に閉鎖する予定の能美工場(石川県能美市)を量産工場に活用することを想定。同工場の5・5世代(1300ミリ×1500ミリメートル)ラインに対応することで、量産実績をつくるだけでなく基板の大型化対応への足がかりとしたいもくろみもある。出資が先か、実績が先か。難しい局面に立たされている。

 JOLEDはすでに複数の装置メーカーに、量産に向けた装置の発注を済ませているもようだ。日本発の有機EL技術だけに「国内に根付かせてなんとしても立ち上げたい」(JOLED関係者)との思いも強い。量産までこぎ着けて事業を軌道に乗せ、“日本式有機EL”を世界に羽ばたかせることが期待される。

インタビュー・荒井俊明CTO室副室長 
 ―印刷式有機ELパネルのメリットは。
 「薄型、軽量でフレキシブルにも対応できる。また蒸着方式と異なり真空環境が不要で、有機EL材料を塗布する際に型を使わないため、必要な所にのみ有機EL材料を印刷できる。材料使用効率が高く、蒸着と比べると使用量は3分の1だ。この結果、1インチ当たりの画素数(ppi)が220―230程度であれば、蒸着式より30―40%コストを削減できる。一番のメリットは、レシピを変更するだけで同じ装置でさまざまなサイズのパネルを作れる点。型を使う蒸着式は装置の入れ替えが必要になり、コストがかかる」

 ―現状の課題は。
 「解像度や消費電力は液晶より劣っていたが、最近では追いついてきた。消費電力は08年比50分の1まで到達した。18年に目標値を達成する見通しだ。白色発光効率も、16年比で1・5倍に高められる想定だ。材料技術の著しい向上に加え、デバイス側の光の利用効率も向上した。残る最大の課題は寿命だ」

 ―高精細化へのめどはつきましたか。
 「研究開発レベルでは300ppiまでめどをつけた。今後1年程度かけて検証するが、製造設備的には問題なさそうだ。高精細化を進めても、蒸着方式よりコストを下げられるだろう。さらに400ppiの実現も見えてきた。印刷位置の精度向上や、印刷時間の短縮といった課題を解決していく」

 ―大型基板への対応は。
 「厚木技術開発センターで、10・5世代の大型基板も視野に入れた技術の開発を進めている」

 ―大型では技術ライセンス契約による事業化を目指しています。
「印刷方式で製品化できているのはJOLEDのみ。中国や韓国メーカーも興味を示している。大きなパネル工場を抱える所を候補として対話を進めているが、具体的に決まったことはない。液晶パネルの量産ラインを転用すれば、生産ラインの立ち上げ期間やコストを削減できる。使わなくなった工場のラインを印刷式有機ELパネルに活用すれば、ウィン―ウィンだ」
(聞き手=政年佐貴恵)

【ファシリテーターのコメント】
JOLEDの方々の「この技術を日本発の有機EL技術として根付かせたい」との思いは強い。一方で”日の丸”にこだわりすぎて失敗した過去に学ぶことも必要だ。せっかくここまで芽吹かせたビジネスの種をどう花開かせるか。仲間づくりも含めて慎重な舵取りが重要になりそうだ。
政年 佐貴惠