ベンチャー企業の知的財産経営が注目されている。開発型ベンチャーであれ、ブルーオーシャン(未開拓市場)を切り開くベンチャーであれ、経営資源に限りがある小さな企業にとって最大の武器となるのはやはり知財。どのように攻め、どのように守り抜くのか。視力回復コンタクトレンズで事業を拡大するユニバーサルビュー(東京都千代田区)の鈴木太郎社長に聞いた。

 ユニバーサルビューは2001年設立。視力回復レンズのオルソケラトロジー治療を世に広めることを目的に2006年からオルソケラトロジーレンズの開発に着手。2009年に完成し、2012年から販売を開始した。鈴木社長は2006年に参画した。

 ―オルソケラトロジーとは何ですか。
 「夜寝るときに装着するコンタクトレンズで、角膜を矯正します。そうして朝起きてレンズをはずすと、日中は裸眼で過ごすことができる。近視の進行を遅らせる効果もあります。世の中から眼鏡をしている人をなくしたいと考え、5年前から販売。2012年に厚生労働省から新規医療機器として承認を受けています」

 ―東レと提携していますね。販売の実績はいかがですか。
 「折り曲げても割れず、酸素透過性に優れた特殊な素材を提供してもらっている。加えて総販売元として販売もお願いしています。われわれの社名で販売するより、東レブランドの方が効果がありますから。現在は47都道府県、300の眼科医などで扱ってもらっています。国内シェアは6割です」

 「当社の市販後調査のデータを見ますと18歳未満の子どもが全体の7割を占めてます。コンタクトレンズを装着してスポーツするのが心配といった親御さんからのニーズに応えていて、海外では近視の進行を抑制できる治療法としても普及しており、5年間の追跡調査では40%程度の抑制効果があるという結果が出ている。そのため国内でも近視の治療のために処方する眼科医が増えています」

 ―ユニバーサルビューの持つ特許はどのようなものですか。
 「角膜補正レンズのデザインで特許を取っている。つまりオルソケラトジーの効果を最大にする形状、デザイン。2001年に特許を申請し、2004年に取得した。コンタクトレンズというのは涙液と接して角膜に装着しますが、レンズの内側に特殊なカーブを作り込んでいて、装用感が良い。他社のレンズは欧米人仕様となっているため、レンズが適合しないケースが多々あります。当社では視力により60種類のレンズがありますが、眼科での検査結果をインプットすれば、患者の矯正可能性と一番適したレンズをすぐ特定できるアプリも開発しています。目のことで困っているニーズを形にすることにこだわっている」

早い段階で大企業と組むことが大事
 ―東レとの提携の経緯は。
 「素材で協力を求めたのですが、最初は門前払いでした。名も無ければ金も無い小さな会社でしたから。それでも、あらゆるルートをたどり当時の副社長にアプローチし、視力のせいで夢が閉ざされる子ども達に可能性を広げてあげたいと訴え続けました。最終的には特許を持っていたことが、認めてもらえる要因の一つにはなりました」

 「東レにとっても、事業戦略にちょうどはまったようです。コンタクトレンズにはソフトとハードがありますが、東レはハードを展開している。しかし国内2000億円市場のうち9割がソフトで1割がハード。この1割の200億円の中でさらに競合しており、何かイノベーションを求めていた。そこで我々の技術と組めば、化学反応がおきて新しい可能性が開けると認めてもらいました」

 ―医療機器の開発はコスト負担が重いのでは。
 「医療機器の申請を行うには億円単位の費用が必要です。リーマンショックに重なる不運もありましたが、臨床試験で良い結果が出て、2009年に東レと資本提携ができました。またベンチャーキャピタルからも調達ができた。それでも臨床試験で協力してくれた大学には支払いが遅れてしまい、最後は個人保証をするなど数千万円の支払いを完了させました」

 「ベンチャーにとっては、早い段階で大企業と組むことが大事です。医療機器だと承認まで時間も費用もかかり、ベンチャー1社の力では難しい。知財を固め、大企業を説得するだけのエビデンスを固める。そうして大手と組めば、大手のブランド力、販売力、マーケティング力を活かすことができる。我々も東レの素材の強さが優位性につながっています」

もし海外でも取得していれば…
 ―特許は海外でも出願したのですか。
 「この特許は国内でしかとっていない。特許取得まで時間も費用もかかり、当時は資金が足りなかった。グローバル展開も視野には入れていたが、そこまでの余裕はなかったし、海外で特許を取得するための行政の支援も現在ほどはなかった。もし海外でも取得していればライセンス収入を得る道もあったのだがと思うが仕方ない」

 「次に開発を進めているピンホールコンタクトレンズでは、国内だけでなく海外でも特許を取得している。ピンホール効果によって視力に関係なく遠近両用で使用できます。通常のコンタクトレンズで老眼に対応しようとすると、150〜170種類もの中から選ばなければならず、処方するのもたいへんだが、これだと基本1種類で良い」

 「コンタクトレンズの普及率や人口などをベースに世界18カ国で出願し、これまで15カ国で取得している。2018年はじめに慶応大学で40人規模の老眼患者で臨床研究をスタートする。世の中にないコンセプトのレンズだが、グローバルに企業と提携しながら普及を目指す。そのためには知財戦略もグローバル化しなければいけない。夢を実現するためには、すべて自前でやるのではなく、まわりをどんどん巻き込まなくてはならない。そのカギとなるのが知財です」



【ファシリテーターのコメント】
 11月、政府の知的財産戦略本部が「知財のビジネス価値評価検討タスクフォース」を立ち上げた。財務諸表に表れない知財価値の「見える化」について、政府は10年以上前からさまざまな角度で検討を重ねてきた。だが、現状で事業戦略と知財戦略をひも付けている企業は少なく、事業と結びつかない単体の知財価値は低下し、適正評価を受けにくいのが実情だ。このため業績不振企業が安価に知財を手放してしまうケースがある。
 そこでタスクフォースでは、事業が生み出す営業利益や売上高、市場規模、シェアなどを基準とし、知財の有無による「楽観」「悲観」の二つの成長シナリオを描き、その差分を知財効果として浮き彫りにする方向だ。来年3月をめどに議論をまとめる。
明 豊