金融商品取引法(金商法)違反の疑いによる前会長のカルロス・ゴーン容疑者の逮捕は、日産自動車の内部統制などコーポレートガバナンス(企業統治)のあり方も厳しく問われることになった。個人の不正があらわになる一方、社内でなぜ不正を防げなかったのか、ガバナンスのほころびが露呈した。ゴーン容疑者のカリスマ性にとらわれ、内部統制が不全になっていた懸念がある。再発防止にも、ガバナンスの再構築が急務だ。

内部統制が機能していない
 今回、不正の焦点の一つとなったのは、将来に先送りした役員報酬を有価証券報告書(有報)に記載すべきだったのかという点だ。会計監査に詳しい青山学院大学名誉教授の八田進二氏は、「役員報酬の情報開示はガバナンス状況を見る上で大切な情報である」とした上で、「その情報が虚偽だったということは日産の内部統制が有効に機能していなかった」と分析する。

 当然、役員報酬の決定プロセスやその情報開示には他の取締役が関わるほか、監査役はこれに干渉できる。しかし、今回は機能しなかった。取締役会の内部統制だけでなく、監査役会や監査法人による内部統制の監査も有効ではなかったことを意味する。
 確かに、有報に記載された役員報酬を「どこまでチェックするか」というのは判断が難しい。ただ、金商法が成立した当時からすでに有報の信頼性をどう担保するかが議論されていた。信頼できる情報を発信する社内体制をどう構築するか重要であり、内部統制やその監査が肝と位置づけてきた。

 そのため、問題となっている有報上の役員報酬の虚偽記載は、まずは取締役会の内部統制が機能していれば不正を防げた可能性はある。ただ、権力が過度に集中していたとされるゴーン容疑者に対し、取締役であっても口出しすることは容易ではなかったことが想像できる。日産幹部は、「再建の立役者であり、畏敬の念で思われていた」と振り返る。

救世主の堕落・健全性の喪失
 ゴーン容疑者はルノーから日産に送り込まれて以降、業績をV字回復させ、世界的な経営者へ一気にのし上がった。この時、米国の会計業界では有名だった「ビッグバス・アカウンティング」と呼ばれる手法を使ったと言われている。会社を大きな風呂(ビッグバス)に例え、蓄積した汚れを洗い流すイメージで、経営不振に陥った企業に招かれた経営者が就任直後に在庫の減損処理やリストラをすることで、その後の業績回復を際立たせるやり方だ。
 この手法は当時からすでに米国では「損失過大になる」との批判もあったが、ゴーン容疑者はいち早く日本で実践し、日産を掌握。この成功体験により、社内での神格化が進んだ。一方、業績が回復するに連れ、執行のトップと取締役会の議長を兼務するなど、日産の内部統制は健全性が失われていった。
 さらに日産は監査役会設置会社であり独立の指名・報酬委員会を持たない。取締役会ではゴーン容疑者の意向が強く反映される形で議論が進んでいたとみられる。三菱自動車の再建などを手がけたニューホライズンキャピタルの安東泰志会長は、「構造的にも権力が集中する状態だった」と指摘する。内部告発による今回の事件をきっかけに、社外取締役を含む取締役会が持つ内部統制の機能を取り戻すことが喫緊の経営課題といえる。

監査役や監査法人の存在が重要
 一方、本来なら権力者の“暴走”を食い止める役割として監査役や監査法人の存在が重要となる。内部統制やその統制環境を監査する立場だからだ。だが、今回のように複数人が関わっていたとされる場合、会社側の情報を基にした会計監査だけでは不正を見つけることは難しい。今後は会社の情報をうのみにせず、監査役や監査法人同士が情報を交換するなど、「連携する必要がある」(八田氏)。多角的な視点でチェックを行い、内部統制を補完できるか、厳格な監査体制の構築が必要だ。


監査する者は「職業的懐疑心を持て」
 会計監査に詳しい青山学院大学名誉教授の八田進二氏に今回の事件と日産の内部統制について聞いた。

 ―ゴーン容疑者の逮捕については虚偽記載は形式犯であり、金額的にも少ないと海外メディアなどからは批判されています。
 「(有報の虚偽記載罪の罰則は)決して軽くない。06年成立の金商法は、それまでの証券取引法と比べて2倍となる『10年以下の懲役か1000万円以下の罰金』に大幅に改正された。日本では殺人罪などと同等以上の罰則だ。それぐらい重い犯罪と認識すべきだ」

 ―有報で1億円以上の役員報酬を開示するのはなぜでしょうか。
 「米国などと違い、高額報酬の抑制が目的ではない。ガバナンスの状況を把握するためであり、投資家にとってはそれが健全に機能しているかどうかを見る一つの指標だ」

 ―先送りされたとされるゴーン容疑者の役員報酬をめぐり、法曹界から「実際に支払われた現金ではない」ため、不正にあたらないのではという意見があります。
 「役員報酬の数字とは原則として会計的に確定している数字であり、事業年度内で会計処理をしなければいけない。また、役員報酬は通常、株主総会で総額を決議し、取締役会などで配分を決める。つまり、事業年度内に取締役会で決定されたものは本人から返上などがない限り、変動はあまり考えられない」

 ―13年に日産の監査法人がオランダ子会社への投資について、「実態が不透明だ」と指摘していたとされます。
 「事実なら残念だ。端緒をつかんだのであればもう一歩踏み込み、徹底的にやるべきだった。職業的懐疑心を持って、会社の対応に納得がいかない場合は抜き打ち検査なども行うことが必要だ」

 ―仮にオランダ子会社への投資などに対して特別背任罪などが認められた場合、投資判断を許した取締役会に責任は生じるでしょうか。
 「当然、その可能性はある。ただ、特別背任罪の適用は過去の事例から言っても難しいかもしれない。だが、取締役と監査役には相応の責任がある」

【ファシリテーターのコメント】
ゴーン問題で揺れる日産自動車は6日に出荷前の完成車検査で新たな不正が見つかったとされ、泣きっ面に蜂の状態だ。経営管理組織から生産現場まで広がるコーポレートガバナンス(企業統治)不全が深刻化している。ただ、「ガバナンスがダメ」。企業の不正があるたびに出てくる言葉だが、具体的にその企業のガバナンスの、どこがダメで、どうすればいいのかを明確にするのは難しい問題だろう。分かっていてもチェックや監視するための土壌を構築し、実際にそれを実行し続けるなど、有効性を継続させることも簡単ではない。一方、現代ではそのガバナンスがステークホルダーにとって大きな指標になり、有報の役員報酬から企業の透明性を判断されることもあるという。加えて、現代の投資家にとって、ESGや健康経営など単純な業績だけではない点も投資判断の材料になり得る。企業がガバナンスを構築しつつ、健全性や透明性、誠実さをどうアピールしていくかという意味では、日産のゴーン問題から学べることは多い。
渡辺 光太