複数の移動手段を組み合わせてスムーズに利用できる「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」。前回記事では、欧米各都市の先進的な取り組みを紹介したが、日本でもここへきて取り組みが活発化している。業種や競合関係を越えてMaaSを軸に結集する動きや地域が直面する課題解決の可能性をMaaSに見いだす姿からは、「移動革命」が社会や産業構造にもたらすインパクトの大きさを感じさせる。

プラットフォームづくりに挑む
 「自動車業界がオープンな形で協業する第一歩を踏み出せた」。2019年3月末、トヨタ自動車の豊田章男社長はこう語った。
この日、開かれたのは、トヨタとソフトバンクの共同出資会社「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」の事業戦略説明会。この席上、日野自動車とホンダ、モネによる資本・業務提携が発表され、さらに次世代の移動サービス開発へ向けた「なかまづくり」を進めるコンソーシアムの発足も表明。約90社が名乗りを上げた。

 「モネは20年後の日本で最も役立つ会社でありたい。MaaSプラットフォーマーの中心になれるよう育てていきたい」。モネ・テクノロジーズ宮川潤一社長は将来をこう展望する。

 MaaSはデジタルの力を活用して、さまざまな移動手段をスムーズに利用できるところに革新があるだけに、データを軸とした合従連衡はめまぐるしい。

 5月末には、小田急電鉄がMaaSアプリ向けのデータ基盤開発で、日本航空やJR九州との提携を発表。今秋にはこのアプリを利用した実証実験を神奈川県・箱根エリアなどで始める予定だ。隣接する静岡・伊豆に目を転じれば、JR東日本と東急電鉄がタッグを組み、MaaSによる観光振興に取り組んでいる。

その先にある次世代モビリティー
 MaaSは移動サービスを単に「つなぐ」だけではない。自動運転やAI(人工知能)といった先端技術を活用し、路線や時刻表を需給に応じて最適化、効率的な配車を行う仕組みはすでに実証の途上にある。さらに既存の移動サービスの高度化・高付加価値化にとどまらず、その先には自動運転といった次世代モビリティーの普及が見込まれるところに可能性を秘めている。

 とりわけ公共交通の世界では、慢性的なドライバー不足に加え、都市部では道路渋滞や鉄道の通勤通学ラッシュ、地方部では公共交通網の維持や移動そのものの縮小といった課題に直面する。

 利用者の事前予約に応じて運行されるオンデマンド乗合バスや自動運転タクシーなどの普及が進めば、既存の公共交通サービスに変わる地域住民の足となり、移動需要を喚起する。全国で移動をつなぐMaaSアプリの実用化のみならず、新たな移動サービスの導入をにらんだ実証実験が相次ぐのは、自治体のそんな期待の表れである。

 「ほとんどが顔見知りの地域住民の間では、相乗りに対する抵抗感がほとんどなく、供給が追いつかなかったほどのニーズがあった」。タクシー配車システムを手がける電脳交通(徳島市)が今年3月、NTTドコモと組んで山口県阿東地域で行ったオンデマンド型タクシーの利用ニーズを探る実証実験。近藤洋祐社長は結果をこう受け止めている。

その上で「無線とメモ書きで配車していたタクシー業界そのものが自己変革し、データ連携の素地を作ることがMaaSの一翼を担う第一歩となる」と語る。

 日本に押し寄せるMaaSのうねりを前に、国も動きだした。経済産業省と国土交通省は、新たなモビリティーサービスの社会実装を通じた移動課題の解決や地域活性化に挑む地域や企業を後押しするプロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」を始動した。

 MaaSにまつわる情報や先進事例を共有し、企業や自治体の連携を促すことで取り組みのすそ野拡大を狙う。6月21日に開催されるキックオフイベントは官民が一体となって挑む「移動革命」の号砲となる。

【ファシリテーターのコメント】
モネ・テクノロジーズの宮川潤一社長のインタビューも今回の政策特集の後半に掲載予定です。
神崎 明子