「ゲームクリエイターが車内での仮想現実(VR)や拡張現実(AR)コンテンツを制作する開発環境を整える」。シナスタジア(名古屋市中村区)の高田一輝最高コンテンツ責任者(CCO)はこう力を込める。同社は自動運転車の移動中のデータをVR化するシステムを開発しており、9月をめどにVR開発環境「ライドビジョン」をオープンソースとして公開する。

 「MaaS(乗り物のサービス化)」の拡大には、モビリティーならではのコンテンツ開発が欠かせない。動画などスマートフォンやテレビで見られるコンテンツだけでは、特別な体験を演出できない。シナスタジアが開発環境のオープン化に踏み切るのには、モビリティーコンテンツのクリエイター育成の裾野を広げる狙いがある。

 自動運転などの先進車両はセンサーの塊だ。シナスタジアは、センサーが取得する計測データから、現実世界の地形や構造物をVR化し、搭乗者が移動中の車内でヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)を装着して楽しめるシューティングゲームを制作する。道中モンスターに襲われるなど、搭乗者にとっては見慣れた道がファンタジーの世界になる。

 高田CCOは「自動運転時になぜ車両が止まったのかわからないと酔いや不信の原因になる。実際は信号で止まっても、VRでモンスターが出てきたと演出すれば納得感を引き出せる」と説明する。アバター(仮想キャラクター)とデートしたり、観光案内を頼んだりすることも可能だ。

 オープンソースでは周囲の計測データからVR空間の地形を生成したり、構造物を編集するなどの基本機能を提供する。崎山和正最高技術責任者(CTO)は「車両の加速度を利用して4DX(座席駆動映画システム)のようなコンテンツを開発できる」という。オープン化で創作者コミュニティーが広がれば、アバターや3Dモデルデータなどのシェアが進むと期待される。ゲームクリエイターから立ち上げ、ウェブデザイナーに裾野を広げていく。

 車外のコンテンツ化も有望だ。OKIは車両の四方に搭載したカメラから、レースゲームのような第三者視点の映像を生成する技術を開発した。中沢哲夫技術担当部長は「自動車部品の1次サプライヤーに採用された。省電力やリアルタイム性はお墨付きがある」と胸を張る。

 車両間で映像を共有すれば死角を補い合える。都市部などの人口密集地では飛行ロボット(ドローン)を飛ばすよりも、車両に乗り移るように映像を集める方が、安全に情報を収集できるかもしれない。車で観光地を巡ると即席のロードムービーもできる。客を乗せていないタクシーも付加価値を生み出せる。

 移動がもたらす新たなコンテンツ。その制作のための技術環境は整いつつある。最初にキラーコンテンツを作ったクリエイターが、MaaSのパイオニアになるだろう。