ソニーが自社開発したコメのもみ殻由来の炭素材料「トリポーラス」の用途拡大に取り組んでいる。すでに消臭効果を生かして繊維やボディーソープに採用されているが、同社による実験で、水中のウイルスを吸着することが分かったほか、文化財を腐食するガスを薄める利用法も発見。未利用の生物資源であるもみ殻を高付加価値素材としての活用を目指す。(編集委員・松木喬)

 トリポーラスは表面の微細な穴でにおい物質などを吸着する。原理は活性炭と同じだが、穴のサイズが異なる。活性炭は2ナノメートル以下(ナノは10億分の1)の穴が多いが、トリポーラスは2ナノメートル以下、2ナノ―50ナノメートル、50ナノメートル以上と小・中・大の3種類の穴がある。活性炭の穴では除去が難しいたんぱく質、菌も吸着できる。

 ソニーは大阪ガスケミカル、東京大学の古米弘明教授らとトリポーラスで水中のウイルス(MS2、直径27ナノメートル)を取り除く実験をした。するとウイルスの99%以上が除去され、トリポーラスが吸着したことを確認した。浄水用途のヤシ殻由来の活性炭はほとんど吸着できなかった。

 現状、浄化設備ではウイルスを紫外線(UV)や薬品で殺菌している。トリポーラスの利用でUVや薬品が不要になると、簡易な浄化設備は電気なしで運転できる。ソニー知的財産センターの田畑誠一郎氏は「途上国の無電化地域で水の浄化に使える」と成果を語る。

 また、米ソニーピクチャーズの美術館で行った検証ではトリポーラス入りの箱やシートの試作し、フィギュアなどを展示したケース内に設置。すると数日後、ケース内の酸性ガス濃度が下がった。文化財は酸性ガスにさらされると変色などの腐食が進むが、トリポーラスの穴に詰めたアルカリ薬品が酸性ガスを中和した。同社では「トリポーラスが文化財の保護用途にも役立つ」(田畑氏)とする。

 ソニーは電池材料を探す課程で、もみ殻を薬品や水蒸気で処理したトリポーラスを開発した。1月から商品化で協業する企業を募集しており、ミツヤコーポレーション(堺市中区)はトリポーラスを練り込んで防臭効果を持たせた繊維を開発。ロート製薬はにおいの原因菌を捕捉するトリポーラス配合のボディーウォッシュを商品化した。

 もみ殻の排出量は世界で年1億トン以上。トリポーラスの採用商品が増えると、もみ殻を有効活用でき、稲作が盛んな途上国で新たな雇用を創出する可能性がある。電機メーカーのソニーが開発した異色の素材が、大きな価値を生み出しそうだ。

【ファシリテーターのコメント】
                    
日刊工業新聞 記者