インド理解のキーワードは「多様性」とよくいわれる。日本の9倍の国土に、13億人が住む。多様な気候・風土、多民族、多宗教、多言語、2000―3000あるというカースト(ジャーティ)集団など、多様性は半端でない。

筆者は、2003年9月に、ジェトロ・ベンガルール(旧バンガロール)事務所の海外投資アドバイザーとして着任し、以降同事務所の初代事務所長を拝命。その後、会社設立・税務・会計事務所のJCSSコンサルティングに勤務し、2月上旬までの計16年間、ベンガルールに滞在し、このほど帰国した。それ以前の、デリー大学留学、三菱商事勤務時代のカルカッタ(現コルカタ)駐在を合わせると、インド滞在は21年になり、インドとのビジネス歴は53年間に及ぶ。

筆者のインド人の心をつかむ最大の武器は語学力とインド文化の尊重だ。英語以外に、ヒンディー語を学んだ。コルカタでは、ベンガル語を習得した。ベンガルール駐在時には、カルナタカ州の言語であるカンナダ語、さらに、隣のタミルナドゥ州の言語、タミル語も学んだ。相手がタミルナドゥ州政府の役人であれば、タミル語を交えて話す。ヒンディー語はインドの公用語ではあるが、誇り高き南部のタミル人の多くは、ヒンディー語をインド北部の地方語と位置づけ、積極的に話そうとしない。

インドでのビジネスの成功のためには、英語に堪能でなければならない。その上で、現地の言語を操れば、多くのインド人が敬意を表すことになる。しかしながら、多くの日本人駐在員は、現地のヒンディー語、あるいは滞在している州の言語に関心をもたない。バンコクにいる日本人はタイ語を覚える努力をする。インド人にとって英語は植民地支配者の言語なのだ。だから、インド固有の言語を話す外国人に敬意を表すのだ。

次に重要なのは、インドの文化・社会・時事問題などに関する造詣である。インドの取引先とは、単に仕事の話をするだけではない。インドの文化、宗教、歴史からその時々のトピックスに至るまで理解し、あるいは、相手に質問をして、豊富な話題を提供する。すると相手には、日本人がいかにインドを知り、インドを愛しているかが伝わる。自国への造詣の深い外国人に、インド人は心を動かされる。

カルナタカ州政府の人たちには、カンナダ語で語りかけた。そしてその人たちの心を惹きつけておいて、日本側の考え方への理解を促した

年に一度開催される日本祭り「ジャパン・ハッバ」で、カンナダ語の歌を披露した。学生時代のグリークラブ経験を生かし、毎年レパートリーを増やした。そしてこの場面が地元のテレビで放映され、筆者を知る人は一挙に増えた。テレビには4度出演した。演歌を歌う外国人を日本人が喜ぶように、カンナダ語の歌を歌う日本人は、現地の人の心を捉える。乗り合わせたタクシーの運転手にも何度となく声をかけられた。

そしてこのことが、仕事への追い風となった。カンナダ語の歌を歌う日本人として、カルナタカ州政府をはじめとするさまざまな組織から親しく迎えられている。

◇インド総合研究所社長 久保木一政