新型コロナウイルスの感染拡大により、マスク不足が収束する気配は見えない。安倍晋三首相肝いりのアベノマスクの配布も始まったが不良品が見つかり出鼻をくじかれた。シャープが21日にスタートさせた個人向けマスクの販売サイトはアクセスが集中しストップするなど「マスク狂騒曲」は大きくなるばかり。一方で異業種からの相次ぐ参入で支援の輪も広がっている。日本の底力が試されている。

日本衛生材料工業連合会の統計によると2018年に国内で供給された約55億枚のマスクの内、日本製はわずか2割で残りは輸入品。マスクの原材料となる不織布も、日本企業の比率が2割でほとんどが中国産だ。中国でマスクの需要が急増したことで、日本でマスク不足が顕在化した。

マスク不足に対応するため政府は「マスク生産設備導入支援事業費補助金」を創設、いち早く動いた大手企業がシャープだった。異業種からの参入だったが約1ヶ月で生産ラインを立ち上げられたのは、親会社である台湾・鴻海精密工業が中国で始めたマスク生産のノウハウを取り入れたからだ。

電機業界ではパナソニックもマスク事業への参入を表明、5月末の生産開始を目指し、岡山工場(岡山市東区)に製造ラインを構築する。電機業界では自社工場に保有するクリーンルームを活用できる点が強みだ。アイリスオーヤマ(仙台市)も、宮城県の工場で月産約6000万枚を目指した当初計画について、2.5倍の1億5000万枚に増やすことを決めた。

あまり評判が良くないアベノマスク(首相官邸公式サイトより)

化学・繊維大手も矢継ぎ早に不織布の増産体制の整備を急いでいる。三井化学はメルトブローン不織布の生産能力を従来比1.5倍に増強。旭化成は守山製造所(滋賀県守山市)でマスク向け不織布の生産量を2倍超にした。東レは5月以降、ポリプロピレン長繊維不織布の国内供給量を、現行比約2.7倍の8000万枚分に引き上げる方針だ。

一方、絹や弾力ゴムなど自社で扱う素材や技術を用いてマスクを生産する中小企業やベンチャーも全国各地で登場している。樹脂成型を得意とする河島製作所(大阪府東大阪市)は顔の形状に合いやすく、繰り返し使えるエラストマー(弾力ゴム)製マスクを生産し、4月下旬に販売を予定している。

浴衣帯の推定国内シェア9割を持つ小杉織物(福井県坂井市)は絹製マスクの生産を始め、1日3000枚のマスクを製造。追加発注も舞い込んでいるという。LAPO(岡山県玉野市)は、高木織物(同井原市)と共同で抗菌と消臭機能を持つデニム生地のマスクを製品化した。試験機関に抗菌性試験を依頼したところ、黄色ブドウ球菌と大腸菌が8時間後には99%殺菌できたという。

使い捨てマスクを少しでも長く利用するための取り組みもある。凸版メディア(青森県弘前市)は、使用を3日間程度に延長できるあて布を開発し、ネットなどを通じて発売した。中性洗剤やせっけんで洗って、6―10回の繰り返し使用が可能。ポリウレタン素材のため通気性があり呼吸が楽でフィット性も高い。

緊急性が高い医療機関向けへの取り組みも広がっている。興研(東京都千代田区)は約3億円を投資して高品位規格の使い捨てマスク「DS2」と「N95」を増産。8月をめどに生産能力を現行比4割増の200万枚まで高める。住友化学や大和証券グループ本社などは緊急用に備蓄していた「N95」を無償で支援する。

マスクの提供は保育の現場でも進む。アパレルメーカーのゼノマ(大田区)と保育園などを運営するグローバルブリッヂホールディングス(墨田区)は、首都圏と大阪の希望する保育園に、洗えるマスク2万枚を提供する。登園自粛が奨励される一方で、医療従事者などの家族を対象に開園している保育園も多い。提供されるマスクはポリエステル製で、洗濯して20回ほど繰り返し利用できる。ウイルス除去のため包装後に80℃の加熱処理が施されている。

中国でマスク生産能力が大幅に拡大したが、世界のマスク需要はそれ以上に増えており、中国産マスクの奪い合いになる可能性が高い。日本が今後、マスクを安定供給していくには、引き続き国内での生産拡大を進めていくことが欠かせない。

保育園への支援も進む(ゼノマとグローバルブリッヂHD)