需要喚起へ官民一体

新型コロナウイルス感染拡大による需要消失に直面した観光産業が復活を狙い、立ち上がり始めた。運輸、宿泊などが各業界ごとのガイドラインに従い、感染防止に配慮した“新しい生活様式”の旅行を模索している。官民一体型キャンペーンには期待するものの、スタートの遅れで、夏の繁忙期を逃すわけにはいかない。渡航制限の解除が見込めず、当面は外国人客を望めない中、日本人の旅行需要喚起に知恵をこらす。(小林広幸)

1泊2万円割引/クーポン

新型コロナによって落ち込んだ観光消費を取り戻そうと、収束後の開始を念頭に企画された官民一体型の旅行需要喚起策「GoToトラベル」。田端浩観光庁長官は「観光需要を強力に喚起し、地域経済を支援する」と施策の意図を説明する。約1兆3000億円の予算を背景に、国内宿泊旅行約7300万人泊(総宿泊数)、日帰り旅行約4800万人分の需要回復を狙うものだ。

2019年2―5月の宿泊・日帰り旅行者数実績に対する50%相当として割り出した。日本人の国内旅行をターゲットにした前例のない規模のキャンペーン。旅行需要の押し上げに、全国の観光関係者は期待を寄せる。

内容、実施方法はまだ流動的だ。旅行代金の50%相当、1人1泊当たり最大2万円分の旅行商品割引と観光地の土産物店や飲食店、観光施設、交通機関で使えるクーポンの発行を予定する。事務局を公募して立ち上げ、全国の自治体や観光関係者に事業内容を説明して参加事業者を募集する流れを想定。事業開始まで公募から2カ月前後かかる見通しだ。

しかし委託費をめぐる“仕切り直し”により開始時期が8月以降にずれ込む可能性がでてきた。厳しい経営状況に直面する宿泊業ほか観光事業者も数多い。今回の需要喚起策に光明を見いだし、夏の繁忙期でフル活用を待ち望んでいただけに不安の声も聞こえてくる。

実施に当たっては地域間バランスへの配慮が欠かせない。新型コロナの影響は全国に等しく及び、地域経済は疲弊している。再開が早かった地域や集客施設だけが恩恵を受けるようでは不公平だ。田端長官は「感染症封じ込めの実態をにらみながら特定の所に偏らないよう進捗(しんちょく)管理を図っていく」と説明する。

キャンペーンで地域と連携(熊本駅=イメージ)

国内旅行再開 19日以降、徐々に挽回へ

国内旅行の再開は、19日に予定される都道府県をまたぐ移動の自粛要請解除以後、段階を踏んで進むとみられる。日帰りを含む近場の旅行から、宿泊を伴う遠距離の旅行、個人旅行から団体旅行。日本旅行業協会(JATA)の田川博己会長(JTB会長)は「集団で動く修学旅行ができるようになれば、すべての旅行は再開できる」と話すが、道のりは遠そうだ。

移動需要はビジネス客から回復が始まっている。航空大手の国内線は復便の兆しが見えてきているが、全面再開はまだ先だ。一方、JR各社の新幹線・特急は7月から、ほぼ通常ダイヤに復帰する。

JR東日本の深沢祐二社長は「県間の移動では、GoToトラベルとタイアップした商品を作りたい」と話す。夏の繁忙期に向けて観光列車の再開や臨時列車の設定も検討中だ。JRが観光施策を打ち出すタイミングこそ、国内旅行本格再開の、のろしとなりそうだ。

このにぎわいは過去の姿となる。新たな旅行需要喚起へ官民で知恵をこらす(東京・浅草)

JR各社の“顔”でもあるクルーズトレインは、JR九州「ななつ星in九州」が7月14日から定員を約半分に減らして再開する。JR東「トランスイート四季島」は8月中旬以降の再開を検討中。JR西日本「トワイライトエクスプレス瑞風」は車両の定期検査に入るため、再開は12月以降となる見通しだ。

JR6社の取り組み 観光地・鉄道、PR動画

JR旅客6社は全国の観光地や鉄道の魅力を伝える動画「旅に出られる日を願って=写真」を共同で作成し、動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開を始めた。各社の会員制交流サイト(SNS)経由限定で視聴できる。「再び旅に出られる状態となった時に、鉄道を選んでほしい」との趣旨で企画した。

各地の感染拡大状況などを鑑み、公開時期の足並みこそそろわなかったが「人が集って動くことの素晴らしさを、社会が受容できるようなタイミングで」(JR東幹部)6社共同のキャンペーンなども計画している。

自治体とキャンペーン

JR旅客6社と自治体の連携による大型観光キャンペーン「デスティネーションキャンペーン(DC)」は10―12月に“せとうち広島DC”が計画されている。地元のJR西は「DCを観光活性化の一つの契機としていきたい」として準備中だ。新しい観光クルーザーや観光列車を投入するほか各地でイベントを予定。感染症対策のため、地元や旅行会社と企画内容を見直しているところだという。JR西はDC以外の需要喚起策も計画しており「地域の状況に応じた取り組みを段階的に実施」と反転攻勢に備える。

ワーケーション 長期滞在、新スタイル

今夏の旅行は、家族と過ごす休暇を兼ねて旅先で仕事する“ワーケーション”の普及が一つのテーマだ。テレワークに慣れたことで従来に比べてハードルは低くなった。長期滞在型の家族旅行という新たなスタイルが定着すれば、訪日客に過度に頼らないリゾートも実現できそうだ。

「休みの取り方を分ければ、いつでも旅行できる」(田川JATA会長)と指摘するように、ワーケーションは観光業界が抱える最大の悩み“繁閑の差”の解消にも効果が見込める。田端観光庁長官も「有給休暇の取得やテレワークしながら(休みが)一緒でないスタイル。国民全体でやらなくてはならない問題だ」と話す。

自然豊かな環境で仕事をするワーケーション(休暇村気仙沼大島=宮城県)

全国の国立公園に宿泊施設「休暇村」を展開する休暇村協会の河本利夫理事長は「自然の中で食事を楽しみ、リフレッシュしてもらえるテレワーク」を訴求する。

滞在用とは別に仕事専用の部屋を確保する宿泊施設もあるほか、プリンスホテルのようにコテージ滞在型ワーケーションを提案するケースもある。

環境省は新型コロナ対策の2020年度補正予算で「国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進」を盛り、キャンプ場などで無線通信環境整備を支援していく考えだ。

魅力磨くには…

ウィズコロナの旅行について、観光産業に携わる多くの人が「質の高いものになるだろう」と口をそろえる。各地の事業者は、収束後の旅行再開に備えてサービスや観光地の魅力の磨き上げに努めてきた。

田川JATA会長は「質の高さと金額は裏表だったが必ずしもそうではなくなる」と見る。ライフスタイルと旅行が密接となることで、これまで以上に旅行の目的が重視されるようになって、本質が問われる時代へと変化しそうだ。