最近、仕事や生活の場で「SDGs(エスディージーズ)」という言葉をよく見聞きするようになった。“持続可能な開発目標”と訳されるSDGsは、近年、企業にとって経営戦略上の重要目標となりつつある。生産現場においても例外ではないが、現場にとっての意義や価値は十分に理解されているとはいいがたい。本連載では、とある町工場の夕陽丘製作所のエピソードを通じて、SDGsとは何かから、取り組むプロセス、ポイントを解説していく。

主な登場人物
萬代総務部長:古町工場長の指示でSDGs担当者に。52歳。
古町工場長:取引先の役員からの話でSDGsに興味を抱く。59歳。
燕さん:経理部。工場で最もSDGsに精通する25歳。
妙高生産部係長:生産部の若きリーダー。30歳。

夕陽丘製作所は、SDGsを活用した新しい目標の検討で盛り上がっている。SDGsを理解した古町工場長も、思い切った社内改革を考え始めた。

 古町「生産部が化学物質管理を強化するといったのを聞いて、ハッとさせられたよ」
 萬代「SDGsのゴール12に『化学物質の健康への悪影響を最小化する』とあり、それで生産部は安全データシート(SDS※)を必ず入手する目標をつくりました。化学物質の性質に関心を持ち、自分たちでも健康被害を防ぐ意識を高めるためです」
 古町「化学物質は法令を守って管理していたらOKと思っていた。それに従業員の健康も大切と理解はしていても、具体策まで考えていなかった」
 萬代「私も健康診断で十分と思っていました」
 古町「ゴール3にも、予防や治療を通して非感染性疾患(がん、循環器疾患など)による若年死亡率を減らす目標がある。職場でも運動不足や寝不足、偏った食事を改善できる工夫をして、従業員の病気を予防したい」
 萬代「従業員の健康増進が生産性向上にもつながるとして国が『健康経営』を呼びかけています。当社でもできそうですね」
 古町「『働き方改革』もだ。思い切って検討したい。これまで生産計画を決めてから従業員の出勤を決めていたが、従業員の働きやすい時間に合わせた生産計画に見直せないか」
 萬代「まさに発想の転換ですね。思い切った改革になりそうです。それにしても工場長、SDGsに詳しくなりましたね」

こうして夕陽丘製作所の各部署で取り組むSDGs活動が決まった。次第に取引先にも伝わり、評価されるようになる。

※製品に含まれる化学物質の危険性などの情報を記載し、取引先に提供する文書。国は指定の化学物質以外でも自主的に提供・入手するように呼びかけている。

<解説 今の活動で相乗効果を導き出す。新しい社会要請にも先手で対応>

「健康経営」「働き方改革」「女性活躍」と、企業に取り組んでほしい社会要請が続々と登場しています。以前からの「環境経営」や「CSR」も含め、要請が来るたびに対応を考えていたら、経営者は事業に集中できません。振り回されっぱなしだと、どれも中途半端になります。

実は、どの要請もSDGsに入っています。「健康経営」などの用語がそのまま掲載されてはいませんが、SDGsのターゲットには要請と共通する目標があります(表)。極論かもしれませんが、SDGsを理解して施策を打っておくと、新たな要請にも余裕を持った対応ができます。

また、SDGsを参考にすると、要請を個別に理解し対応する労力も省けます。たとえば化学物質管理と健康経営です。2016年に労働安全衛生法が改正され、職場で使う化学物質が健康被害を引き起こす可能性を調べる「リスクアセスメント」が義務化されました。

一方で、健康経営は義務ではありません。リスクアセスメントを「化学物質管理」だけにとどめず、「従業員の健康のため」と理解すれば、あえて健康経営の新しい取組みを検討する必要性が薄れます。新しい用語が出てくると「個別」と思えてしまいますが、実施済みの活動があるはずです。SDGsは環境問題も健康や労働の課題も網羅しています。複数の要請の「共通性」に気づくためにSDGsが有効と考えます。

もちろん、健康経営をより深めていくことも大切です。経済産業省は東京商工会議所とともに、中小企業の健康経営の実践例と効果をまとめた『健康経営ハンドブック』を発刊しています。残業を減らして睡眠の質を改善できた印刷会社、血圧測定で数値が高いとトラックに乗車させない運送会社などが掲載されています。わかりやすいので参考になると思います。

最後に、複数の要請に対して効率的に効果を生んだ事例を紹介します。

CSRコンサルティングのクレアン(東京都港区)は、社員35名のうち7名が週3〜4日出勤や6時間勤務を採用しています(2020年3月の取材時点)。薗田綾子社長が社員と面談し、1人ひとりの働き方を決めています。
 「働き方改革」のようですが、女性社員が増えて「女性活躍」にもなっています。働き方改革はテレワーク、女性活躍は時短勤務と対応を固定化しがちですが、すべての社員が利用できる制度にしたことで、優秀な人材も獲得できたそうです。

ポイント
●SDGsと社会からの要請の共通性を理解し、新しい要請が登場しても慌てない
●SDGsを理解し、複数の要請に共通する目的や効果を考える
●要請と対応を固定化せず、複数の効果を生むような柔軟な制度にする

松木 喬(まつき たかし)
 日刊工業新聞社 第二産業部 記者、編集委員
2009年から環境・CSR・エネルギー分野を取材。現在、日刊工業新聞「SDGs面」(毎週金曜)の取材・編集を担当。主な著書に『SDGs 経営“社会課題解決”が企業を成長させる』(日刊工業新聞社)。新潟県出身。


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工場管理 2020年8月号  Vol.66 No.10
 【特集】中小製造業の生産技術力を鍛える!〜人手不足に打ち勝つ工場づくりのカギ〜

人手不足が深刻化する中、将来的には少ない人数で効率良く工場運営をすることが理想的だ。新型コロナウイルスの感染拡大も工場少人化に拍車をかける要因となった。その実現には自動化・機械化を取り入れた生産ラインの構築や人手作業の脱却が必要であり、生産技術力が決め手となる。
 しかし中小製造業においては、生産技術の専門部隊を組織化せず製造担当者が兼務しているケースが多い。将来の工場のあるべき姿を見据えると、工場づくりに欠かせない生産技術力を磨くことが急務である。特集では、生産自動化の基礎から導入のプロセス、生産技術の土壌を築くための現場マネジメントなど多角的な視点から、生産技術力を強化するための方法を解説。生産性向上を実現した実践事例も紹介する。

雑誌名:工場管理 2020年8月号
 判型:B5判
 税込み価格:1,540円

※第9回は8月25日頃公開予定