「維管束(いかんそく)」という言葉を聞いてピンと来る人は、かなりの生物通ではないでしょうか。とはいうものの、維管束のことは理科の授業で小学高学年か中学生のうちに、誰もが一度は習っていた事柄なのです。

植物の生命インフラ

維管束は、上に伸びる(立ち上がる)植物にとって、必要不可欠な組織の1つです。根から吸収した水分や養分を、重力に逆らって葉先まで行き渡らせたり、逆に葉でつくられた光合成産物(炭水化物)を、光合成ができない根や種子などに運んだりする通道インフラの役目を担っています。

根から吸い上げた水分の通り道のことを道管(どうかん)、炭水化物を運ぶ経路は篩管(しかん)といい、これらを総称して維管束と呼んでいます。維管束は根から茎、葉の隅々まで張り巡らされ、人間でいうところの血管の機能に例えることができそうです。

そんな維管束の働きを応用した「実験」について、目にしたことがある人は少なくないかもしれません。切り花に色素を吸わせることで、道管輸送の様子を観察させる自由研究キットがいくつも販売されています。おうちで簡単に体験することが可能なのです。

ガーベラの染め分けはなぜできる?

こうした実験が、大学の中高教員養成の場でも再現されています。早稲田大学の富永基樹准教授は、教育学部理学科の教職課程でガーベラを染める実験を通じて、生物学研究の基本を教えています。理論はもちろんですが、将来、中高の教員になったときに実験が率先できるスキルの習得も狙ったものです。

ガーベラの茎を2つに割り、それぞれに違う色素を吸わせると、1時間ほどして花が2色に色づき始めます。水が通る道管は、根から花までパイプラインのような長い通路でつながっているため、こうした染め分けが可能になるのです。

茎を二分し、別々の色素を吸わせることで染め分けをしたガーベラ。道管輸送の様子が一目でわかる(撮影:早稲田大学教育・総合科学学術院生物学教室 永藤彩花)

「植物は、湿度や光など周りの環境を正確に感知し、花の気孔の開き具合を変化させて水の吸い上げを調整しています。これらはすべてタンパク質による働きです。目に見えないタンパク質の働きを、単に文献で説明するだけでなく目で見える実験を一緒に行うことで、生物のマクロな現象とミクロな機能をつなげて理解できるようになるのです」と富永准教授はその意義を語っています。

「マクロな現象とミクロな機能の理解に目で見る実験が大事」と説く富永准教授

地上で生きていくために維管束を発達させた

植物の先祖だった藻類は、コケのように地べたに這いつくばる形で、水辺から陸上に進出したと考えられています。そんな植物が光を求めて立ち上がるときに、維管束という通道インフラの整備は欠かせないものでした。

そのような植物が進化するメカニズムを、富永准教授はこのほど書籍にまとめました。生物の面白さやスゴさを、1人でも多くの人に知ってもらいたいとのことです。

「図解よくわかる植物細胞工学」、富永基樹著、日刊工業新聞社刊
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