短尺動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を巡る問題が注目を集めている。ドナルド・トランプ米大統領が国家安全保障上の問題を理由に、「TikTok」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)と、コミュニケーションアプリ「WeChat」などを運営するテンセントの2社との取引を禁じる大統領令を発令したからだ。TikTokに関しては、Microsoft、あるいは別の米国企業への米国事業買収を容認しており、決裂した場合は利用禁止を示唆している。

TikTokは2017年に「リップシンク(口パク)動画」を投稿するプラットフォームとしてスタート、その後エンタメや生活情報などコンテンツが多彩化し、iOSとAndroid版のアプリの累計ダウンロード数が20億を突破(Sensor Tower 2020年4月発表)したほどの人気アプリだ。国内では2019年にMAU(月間アクティブユーザー)が950万を越えており、若者だけでなく、30〜40代の人にまでユーザー層は拡がっている。

国内でも米国の動きに追随し、自民党の議員連盟がTikTokを念頭に中国系アプリの利用制限に向けた提言をとりまとめると発表した。もし規制されることになった場合、日本のビジネスにどのような影響を与えるのか。

無名のミュージシャンからヒット曲を生み出す

TikTokのメインコンテンツは楽曲に合わせたダンスだ。オリジナルの振り付けは少なく、アプリ内で流行っている楽曲と振り付けを真似して投稿されることが多い。独自のコンテンツを生み出す必要がないことが投稿のハードルを下げており、さらに模倣が少しずつアレンジを加えて拡がる「meme(ミーム)」現象が起きるため、一体感も生まれる。

このTikTokからヒット曲が生まれている。瑛人による「香水」だ。事務所にもレコード会社にも所属していなかったアーティストの楽曲はTikTokで注目され、5月にはBillboard JAPAN HOT100、ならびにオリコン合算ランキングで1位を獲得している。有名音楽番組へのテレビ出演も果たし、現在もランキング上位をキープ、勢いは止まらない。TikTokユーザーが弾き語りをしたり、曲に合わせたダンスを披露したりすることで急速に流行が拡がった。

TikTokでは過去にも音楽業界をにぎわせた。倖田來未が2010年に歌った「め組のひと」がTikTokで突如流行、2018年6月に音楽ストリーミングサービス「LINE MUSIC」でランキング1位を獲得した。「め組のひと」は元々ラッツ&スターが1983年に発売した楽曲で、TikTokでの流行により、リバイバルがさらにリバイバルとなった格好だ。

TikTokが楽曲のヒットを生み出すことは国内に限った事例ではない。無名のアーティストでもヒットのチャンスを掴めること、そしてすでに著名なミュージシャンでも大きなマーケティング効果が見込めるプラットフォームであることは間違いない。

広告嫌いにもリーチしやすいシステム

TikTokは「ミームが起きやすい」と前述した。このように、他のユーザーが真似して作ったコンテンツを「UGC(User Generated Contents)」と呼ぶ。UGCは広告に絶大な効果がある。TikTokの広告配信枠は、「起動画面」「インフィード広告」「ハッシュタグチャレンジ」「スタンプ」が提供されているが、公式動画が3本の動画を投稿した場合、UGCが生まれると動画の投稿数が約1万本、再生回数は1000万〜1億回になることもある(TikTokによる)。

特に「スタンプ」を使った広告は、通常の投稿のようにTikTokの世界観に溶け込む。洗口液「リステリンホワイトニング」のキャンペーンを行ったジョンソン・エンド・ジョンソンは、歯を白く見せるスタンプを配布し、広告も出稿した。やがてユーザー達がスタンプを使って投稿を開始、スタンプの利用者数は17万人にも上ったという。キャンペーン期間中の動画再生回数は3200万回、シェア回数は8700回となり、リステリンホワイトニングの売り上げは30%増加した。このUGCによる拡散力は、他のSNSではあまり見られない。従来の広告を嫌う層にも自然に受け入れられ、クチコミに似た効果ももたらされる。

一部自治体で凍結

TikTokは若い世代にリーチしやすいプラットフォームだ。この層へアプローチしたい企業や自治体、行政の参加も目立っている。8月3日には「#TikTokでニュース」と題し、国内外の大手メディアが公式アカウントを開設した。

また、神奈川県、埼玉県、東京都、大阪府、広島県、神戸市などの自治体、厚生労働省などの行政機関がTikTokと連携し、広報活動やキャンペーン施策の情報発信に使っている。東京都のアカウントでは都知事が新型コロナウイルス感染症対策について動画で呼びかけるなど、TikTokの即時性を活かした利用を行っている。

TikTokは「おすすめ」にフォロー以外の動画も表示する。TikTokのユーザーは、おすすめの動画を数秒見たら飛ばして次の動画を閲覧していく。おすすめされる動画は必ずしも人気の動画とは限らず、作られたばかりのアカウントや閲覧数の少ない動画も表示する。たまたま表示された動画を見て、興味を持ったらプロフィール画面から公式サイトや他のSNSに遷移するという「入り口」となる効果もある。ニュースや自治体の動きなど、若い世代が興味を持ちにくいジャンルでも、偶然見た動画で興味を持つ可能性がある。そうした効果を狙った連携だ。

しかし、今回の買収騒動により、埼玉県、大阪府、神戸市がアプリの使用を止めている。住民から不安の声が寄せられ、自治体としても安全保障の確証が得られるまでは凍結という判断となったためだ。

エンタメ業界には大打撃

今後、国内でのTikTok利用が停止されていく可能性はある。その際、打撃を受けるのは、ビジネスに利用していたエンターテインメント業界や、若い層にリーチしたい商品を販売している企業ではないだろうか。

コロナ禍で音楽業界はコンサートの収益が見込めず、ネットでの発信が大きな意味を持っている。もちろん、YouTubeやInstagramなど、他のプラットフォームでの発信は引き続き行えるが、TikTokならではの流行発生の機会を失う。TikTokは先月、ライブ配信機能「TikTok LIVE」を開始したばかり。お笑いやクリエイターなど、音楽以外のエンターテインメントにもその影響は及ぶと考えられる。

もし国内で利用停止となれば、ビジネス面の損失だけでなく、TikTokを楽しんでいる多くの若者が悲しむことも明白だ。TikTokは安心・安全なプラットフォームを目指し、子どもたちを守るためのフィルタリング機能や親子ワークショップを積極的に行ってきた。TikTokが今後どうなるのか、注意深く見守っていく。

(文=ITジャーナリスト・鈴木朋子)