新型コロナウイルス感染症に関する間違った情報や誤解を招く情報を見聞きした人のうち、「正しい情報である」等と信じて共有・拡散したことがある人は35.5%―総務省の調査(※)でこんな事実が明らかになった。コロナ禍におけるデマの拡散や炎上が問題になったが、実は気づかないうちに拡散に加担しているかもしれない。
 SNS時代の情報の「伝え方」、それと対になる「受け取り方」を国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授に聞いた。(取材・昆梓紗)

フェイクニュース拡散するのはどんな人?

―欧米ではフェイクニュースの研究や対策が進んでいますが、日本の動きは。
 2016年のアメリカ大統領選で大きな問題となったフェイクニュースですが、総務省では2018年10月に「プラットフォームサービスに関する研究会」を立ち上げ調査を進めています。今年6月には「新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査」を行いました。
 私の研究チームでは、昨年よりフェイクニュースに関する研究を進めています。

―フェイクニュースを信じてしまう人は多いのでしょうか。
 ジャンルを分けた実際のフェイクニュース9本を使って調査を行いました。その結果、10代の25%が1つ以上を信じて拡散していたことがわかりました。全体年代では14.3%でした。
 ただし、10代はSNSを使っている時間が長いのでフェイクニュース接触機会が多く、拡散しているということも。その理由として、フェイクニュースを見抜く力に年齢はあまり関係ありませんでした。
 調査で使用したフェイクニュースに関しては、75%の人が嘘だと見抜けていませんでした。ここで重要なのが、事例に上げた9本はすべてファクトチェック機関がチェック済のものだということです。

出典:「Innovation Nippon 調査研究報告書 日本における フェイクニュースの実態と対処策」

―信じるだけでなく、「拡散」してしまうのは大きな問題です。
 「拡散」で一番多かった行動が「友人・家族に直接話す」で16.3%でした。拡散を防止するにはSNSでの行動を見ればいい、という簡単なものではないことが明らかになりました。
 フェイクニュースを拡散しやすい傾向を調査したところ、自己評価が高い人、政治的に極端な人は拡散してしまう傾向がありました。ほかにメールマガジンやメッセージアプリの利用時間が長いと拡散する傾向が高い。これは両者が閉鎖的な環境なため、エコーチェンバー(自分の見たい情報のみを選ぶことで思考が強化されること)が起こって情報の真偽が検証できなくなっていると想定されます。

出典:「Innovation Nippon 調査研究報告書 日本における フェイクニュースの実態と対処策」
 逆に、ネット歴が長い人、情報リテラシーが高い人はフェイクニュースを拡散しにくい。情報が無数にある状態に慣れているので、学習効果でフェイクニュース判断が適切にできていることがうかがえます。しかし、ITリテラシーが高いからといって騙されにくいわけではありませんでした。

―ネット上には情報が多数あるにもかかわらず、エコーチェンバーになってしまう背景は。
 情報が無数にあるネット上だからこそ、エコーチェンバーになってしまうともいえます。自分で情報をピックアップする過程で、知りたい情報のみを選択するだけでなく、検索アルゴリズムやレコメンド機能がその人にあった情報を上げてくる。そうなると嗜好と異なる情報を得るというのはかなり難しくなってきている。「フィルターバブル」などと呼ばれる現象です。

どうしたら防げるか

―情報真偽の判断スキルを養うには。
 情報の免疫力をつけることが重要です。
 具体的には、以下に気を付けるとよいでしょう。

1.拡散したいと思った情報は他の情報源もあたること
2.発信元やいつ書かれたかを意識する
3.データの加工が恣意的かどうか自分で考える
4.感情的になったときにすぐに拡散しない(SNS上で多く拡散されるのは怒りの感情が伴ったもの。許せないと思ったときこそ、立ち止まる)

 そして、情報を拡散する際には、自分が自信を持っている時ほど注意すること。
 さらに、社会心理学では、交流の多い家族や友人の意見ほど信じやすいといわれています。メッセージアプリやリアルな会話であっても、その内容をさらに他の人に伝えたいと思ったときこそ真偽を気にするようにするだけで、デマの拡散防止効果は高いと思います。

―リテラシーを高めるための教育とはどういったものでしょうか。
 どういった教育内容にすべきかといった研究を進めています。情報の発信に関しての教育だけでなく、「受信」の教育がきわめて重要。情報の偏りやエコーチェンバーについて、認知しているだけでも行動は大きく変わってくるので、この啓発活動が必要です。
 フェイクニュースを拡散しにくい傾向に影響を与えたリテラシーを下の4つの中から調査したところ、「情報リテラシー」のみが拡散しにくくする影響を与えていることがわかりました。

出典:「Innovation Nippon 調査研究報告書 日本における フェイクニュースの実態と対処策」
 また、普段から多様な情報源から多様な情報を接し、自分で考える癖をつけること。特に中高年では得た情報を鵜呑みにしている事例が多いです。いままでマスメディアに接していたマインドのままネットの情報に接するのは注意が必要。また最近ではマスメディアでも視聴者を煽ったりすることも散見されます。
 最も重要なのは、真偽不明な情報を拡散しないこと。調べたり、自分で考えても真偽がわからない情報はたくさんありますが、それを拡散しなければネガティブな影響は起きません。

―学校教育などではリテラシー教育はされていると思います。
 ネットを介した犯罪への対策や、最近では誹謗中傷に関しての教育などが行われていますが、情報の選択的接触やデマに関する教育があまりなされていないように感じます。
 また大人に対する教育は不十分です。最近「高齢者のネトウヨ化」が問題視されています。定年退職後に時間ができて、はじめてネットをよく使うようになると情報をそのまま信じてヘイト的な行動をしてしまうことが起こるようです。
 また携帯キャリア各社も講座などを開いていますが、募集型の啓発活動には限界があります。そこにアクセスしていない人の方が問題なので。
 1つ有効だと思うのが、マスメディアを使う方法。特にテレビは60〜70代がメインターゲットとなってきているので、情報リテラシーやファクトチェックに関する番組を作るというのも手です。韓国では実際にファクトチェック番組を制作していて、人気を博しています。総務省で最近出したレポート(※)でも、啓発活動に何が重要かという質問で2番目に多かった回答が「テレビで報じてほしい」というものでした。ニーズはあると思います。

気づかず拡散に注意を

―情報の「拡散」というとネット上で発信するイメージが強く、リアルでの会話やメッセージアプリが「拡散」に含まれると思っていない方も多そうです。
 海外ではメッセージアプリでのデマのやりとりから、殺人にまで発展するという事件が起こっています。日本では「4月1日に東京がロックダウンする」というデマがLINEで流れました。
 フォロワー数百人、数千人にツイートするより数は少ないかもしれないですが、リアルの会話やメッセージアプリは情報が浸透しやすく、拡散行動としては影響力が大きくなります。これが重なると社会的な影響が起きるかもしれないということを皆が知るべきだし、政府が何か行う際も留意する必要があると感じます。

―ここ数年でデマや炎上が変化してきたと思われることは。
 LINEグループなどで、かつてのチェーンメール的なものが増えてきました。利用者やグループの数が増加したことが背景にあります。
 また、マスメディアとソーシャルメディアの「共振」現象が増加していると、法政大学の藤代裕之准教授は指摘しています。最近テレビなどで、ネットで話題になったものを持ってくるというケースが増加しています。すると今度はマスメディアで報じられたものを見た人がネットに書き込む。この繰り返しで共振するように情報が広がっていきます。
 帝京大学の吉野ヒロ子准教授がネット炎上について調査した際、炎上認知経路はツイッター23%、テレビ57%でした。ようするに、ネット情報はツイッターだけで広がっているときはそれほど影響がなく、もっとも影響を持つのはマスメディア、とりわけテレビが報じたときだといえます。
 コロナ禍でのトイレットペーパー不足はこの典型的な例だと考えています。「トイレットペーパーがなくなる」と発信した元ツイートは拡散されておらず、テレビで報じた後に社会的影響が広がりました。特にトイレットペーパー買い占めはネットをあまり利用しない中高年以上が中心だったといわれているので、マスメディアの報道の影響が大きかったといえます。この現象への対処方法はかなり難しく、品切れになったという報道ではなく豊富に生産しているという映像を主として報道する、そもそも報道しないという選択肢もあるでしょう。

―拡散におけるマスメディアの力は依然大きいですね。
 総務省の調査で、若者であってもマスメディアを「信用できる情報」と回答する人が多いことが明らかになりました。共振現象は今後も続くと考えています。

(※)「新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査」(2020年6月総務省)

山口真一 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授
慶大院経済学研究科修了。専門は計量経済学。研究分野はネットメディア論、データ利活用戦略など。主な著作に『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)などがある。経済学博士。