「バーチャル展示会」が黎明(れいめい)期にある。新型コロナウイルスの感染拡大で、リアルな展示会が休止に追い込まれ、急きょオンラインで展示会イベントが開催されるケースが相次ぐ。出展者もアピールの形としてバーチャル展に関心を寄せている。バーチャル展の広がりは、仮想現実(VR)関連会社にとってはチャンスだ。実績を積み上げ、VR関連への投資につなげられるか。(取材・小寺貴之)

サブカルからビジネスへ 新しい市場、黎明期

「まだまだトライアルの段階。リアルの展示会をやってきたイベント会社がバーチャル展を模索している。ビジネスとして成功するかどうかはこれからだ」と、HTC NIPPON(東京都港区)の児島全克社長は説明する。同社は台湾HTCの日本法人。ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)「VIVE」を展開する、VRを代表する企業の一つだ。

日本のVR市場は少し特殊だ。アバター(コンピューターグラフィックス〈CG〉の分身)で動画配信するVチューバーと、そのファンがVR機器を買いそろえるなど、これまでサブカルチャーがVRを支えてきた。児島社長は「米国は法人利用が半分。自動車産業では『モデルベース開発(MBD)』のシミュレーションやデザインの確認にHMDを使っている。対して日本の法人利用は10%以下」と明かす。ゲームやアニメなどサブカル向けに企画制作してきた日本のVRだがコロナ禍を受けてビジネスユーザーが流入している。

産業界ではリアルとバーチャルの融合がトレンドだ。例年、全国で資本財から消費財まで多くの展示会・見本市が企画されており、日本イベント産業振興協会によれば19年の見本市・展示会の市場規模は1兆672億円に上るという。リアルの展示会がバーチャル展として確立すれば、VR業界にとっては底堅い市場になる。

展示ブースそのまま再現

注目されるバーチャル展だが、コロナ禍で対応期間が短かったこともあり、“移行”当初は必ずしもリアルの展示会のようにはいかなかった。VR技術を手がけるSoVeC(東京都品川区)の重松俊範取締役は「突貫工事のウェブサイトが多かった」と振り返る。イメージビデオが流れ、カタログをダウンロードするだけのサイトでは集客が難しい。

SoVeCの「そのまま展示会」(同社提供)

そこでSoVeCは、VRで展示会を忠実に再現するサービス「そのまま展示会」の提案を始めた。展示会ブースのCGデータでそのままVRブースを構築できる。アバターで来場者に接客しセミナー配信やカタログ配布、名刺交換なども可能だ。VR技術は不動産系VR開発を手がけるラストマイルワークス(東京都新宿区)のプラットフォーム(基盤)を採用した。HMDに限らず、スマートフォンやパソコンからも参加できる。

バーチャルの利点は参加する場所を選ばない点だ。工場や研究所にいる技術者と結び、テレビ会議ができる。SoVeCの上川衛社長は「リアルに近い体験で、かつオンラインの利点を生かせる」と説明する。説明員の出張費や宿泊費などを含め、「リアルの展示会より安価に提供できる」(重松取締役)。

制作問い合わせ5倍

360Channel(東京都渋谷区)は、バーチャルイベントの総合プロデュース事業「VRパートナーズ」を展開する。同社はオンラインゲーム開発を手がけるコロプラの子会社。実写の360度動画やCGのVRコンテンツを制作してきた。このノウハウを生かし、プランニングから撮影、編集、配信、効果測定までをワンストップで提供する。

360Channelはバーチャル展を総合プロデュース(VR展示会ブース=同社提供)

同事業では9×6メートルの展示会ブース制作を100万円から提案している。デザインテンプレート(ひな型)を使い、制作コストを抑えた。小松恵司部長は「問い合わせは前年比で5倍以上に増えた。ツールを組み合わせてコストをできる限り抑える必要がある」と説明する。

新しく流入したビジネスユーザーが、HMDやVRに疎い場合もある。例えばHMDを装着すれば、手元が見えず別の作業はできなくなる。メモをとることやメールのチェック、電話に出ることも難しい。展示会に参加するために数万円もするHMDを用意するビジネスパーソンは限られる。結局、バーチャルな体験よりも、資料のダウンロードや説明員への問い合わせなど、既存のコミュニケーションツールの方が効率的だと感じてしまう。

それでもバーチャルならではの利点はある。コンテンツが充実するブースに長く滞留するため、技術やシステムなど説明や理解に時間がかかる商材を売り込む余裕ができる。従来、展示会では特定の商談のために足を運び、そのついでに新しい商材を発掘することも多かった。大手のブースで集客して中小のブースに人を流す、会場内の滞留も重要だ。

HIKKY(東京都渋谷区)の舟越靖社長は、「(特定空間での)動線設計は主催者として最低限必要な要素」と強調する。動線設計やブース間の送客は、ただのウェブページでは難しい。同社はVR空間でVRコンテンツの即売会を開く。出展者も参加者も楽しめるようにVRの“ワールド”を作っていることが奏功し、即売会には合わせて約19万人の参加者があった。

HIKKYはVRコンテンツの即売会を開く(同社提供)

その場でデジタル試作・共創

バーチャルならではの体験模索も続いている。例えば共創環境の整備だ。デザイン制作ツールなどを組み合わせ、その場でイラストなどのコンテンツを一緒に創作できる。舟越社長は「共創は次に来る重要な要素」と位置付ける。製造業のMBDやクラウド設計ツールもバーチャルの付加価値になり得る。

HTCの児島社長は「流体や強度のシミュレーションなど、イメージしにくい現象を見せるのがVRの良さ」と説明する。ツールベンダーにとってバーチャル展はユーザーを増やす機会になる。児島社長は「まずはバーチャル展が成功しないと次の投資へと進まない」と指摘する。実績を積み上げ、投資を呼び込めるか注目される。

【追記】

コンテンツ界隈が求めた没入と、ビジネス界隈が求めた情報収集がマッチしていないように見えます。ビジネス系の展示会は大きなブースがたくさんの商談を入れて見込み客を呼び込み、自社のブースでは商談以外の商材を紹介します。こうして集められた人たちが会場を回遊して中小ブースを巡り、掘り出し物を探します。リアルだと自然に起きていたブース間の送客ですが、オンラインでは違うページを開くクリック一つのハードルがものすごく上がります。

他の人も見てるランキングでは、ピンとこないと思います。そしてブースでは技術やシステム、製品を眺めて自社の現場で使えるか考えます。この考えさせるための滞留時間をオンラインで確保できるでしょうか。クリック一つでページを閉じるのがあまりにも簡単で、目的の商談やセミナーの後は日々の業務に追われます。没入したいビジネスVRワールドを作るには、シミュレーションやクラウド設計ツールによる試作・共創しかないように思えます。ツールベンダーは自社でブースを出すよりもイベントサポーターとしてツールを提供する方が拡販につながると思います。