菅義偉政権が中小企業の生産性向上や再編を促す構えを見せている。10月からは2021年度税制改正について、与党内での議論が本格化する。政府は新型コロナウイルス感染症緊急経済対策に基づき銀行や信用金庫など民間金融機関による実質無利子・無担保融資などで企業の資金繰りを支えてきた。新型コロナの収束が見通せない中で企業の淘汰(とうた)が進めば、地域経済や雇用への影響は無視できない。(宮里秀司)

地域・雇用の影響考慮 税制改正の議論本格化

第2次安倍晋三政権において、中小企業向け設備投資促進税制の拡充や、非上場株式の事業承継税制に関する適用要件の緩和などが実施された。10月1日には事業承継時に経営者保証を解除する枠組みを定めた中小企業成長促進法が施行する。

事業承継をめぐっては会社を譲り受けた親族などが、旧オーナーの負債を個人で背負わされる問題点もあり、経営者保証の解除は大きな前進となる。ただ、中小企業の多くは資金調達が金融機関からの借り入れが中心で、財務基盤が弱いという課題もある。

承継▶経営者保証解除に注目 欠損金▶繰越控除拡充へ期待

森下正明治大学政治経済学部教授は「土地や建物、機械設備といった資産を持つ製造業などであれば会社を売れるが、負債が多く資産が少ない会社は買い手がつかない」と指摘する。事業承継に注目が集まる中で「4、5年前から廃業支援が言われ始めたが、廃業については経営者の家族や残された従業員を含めた支援策が乏しい」と、政策が行き届かない部分もある。

中小企業関係者からは新型コロナによる急激な業績悪化を受け、欠損金の繰越控除制度の拡充を求める声もある。同制度は、ある事業年度で益金(収益)よりも損金(費用)が多い場合、益金を超える部分の「欠損金」を翌年度以降に繰り越し、将来の所得から差し引ける制度。期限は10年で、欠損金の繰り越し控除について、中小法人は所得の100%を損金算入できる。

日本商工会議所は「21年度税制改正に関する意見」で、資本金1億円超―10億円以下のいわゆる中堅企業も、繰越控除限度額を現状の50%から引き上げるべきだとしている。併せて、08年9月のリーマン・ショック時に生じた欠損金が一部期限切れとなった例があることから、繰越期間の延長も求めている。

国税庁の会社標本調査では、資本金1億円以下の法人による法人税額は、18年度が4兆6000億円と全体の38・05%に過ぎない。背景として中小法人の約6割が赤字で、法人税を納めていないことがある。財務状況を見ても、中小企業全体では、負債が純資産を大きく上回っている。

黒字法人の増加カギ 実態に即した政策不可欠

国はこれまでも中小企業の生産性向上や規模の拡大により、黒字法人を増やし法人税を納める企業を増やそうと施策を講じてきた。毎年、政策的経費が税収を上回る国の財政状況を考えれば、中小企業の収益力向上は歳入増につながるという論理だ。

日銀がまとめた資金循環統計によると、20年6月末の金融機関の貸出残高は前年同月末比7・6%増の942兆円となった。金融機関を除く企業の金融資産残高は同4・8%増の1185兆円。新型コロナの影響で手元資金を積み増す動きが広がり、現預金残高は同16・3%増の308兆円。金融機関の貸し出しが増えた背景には国の政策的支援がある。これがいつまで続くかは新型コロナの収束や需要の回復次第と言えそうだ。

こうした中、菅首相は地銀の再編・統合に言及している。中小企業に対するさまざまな優遇制度や補助金・助成金が見直される可能性も出てきた。山口義行立教大学名誉教授は「銀行が統合したところで、資金の供給量は変わらない。支店や行員の数を減らすと企業の面倒見が悪くなる」と、金融仲介機能の低下に懸念を示す。

中小企業の生産性向上や規模の拡大についても「生産性が低い理由の一つに下請け問題がある。企業規模を大きくして大量生産するようになると(生産量維持のため)逆に下請けに入らざるを得ない」と矛盾をつく。コロナ禍で需要構造が変化している。「低成長下で市場が細分化している中で、小さな“こだわり消費”に対応できるのが中小企業だ」と話す。

中小企業の生産性を高め雇用拡大を目指す施策が打たれてきたが、大きな成果が出たと言える状況ではない。国内の需給構造の変化に応じた支援策も必要になる。出資規制緩和などにより金融機関の稼ぐ力を向上させ、中小企業の“脱下請け”を後押しする方策が求められる。