米IBMが経営改革で大なたを振った。売上高の4分の1を占めるITインフラサービス部門を分社し、一定の関与を継続しつつも、独立した上場会社として2021年末までにスタートさせる。収益率が低い同部門を連結から外すことでIBM本体の利益率は上がる。市場は好感し、IBMの株価は上昇基調に転じた。分社化の表明だけで派手な企業買収より大きな効果を示した今回の経営改革。その背景には“IBMマジック”が見え隠れする。(編集委員・斉藤実)

「今回の決定は未来への道のりの始まりに過ぎない」(アービンド・クリシュナIBM最高経営責任者〈CEO〉)。IBMの本質は巨大な研究開発力を持った戦略会社。パソコンなどのハード製品や半導体事業などを次々と売却してきたが、その本質は変わらず、創業以来、自らの姿を蛇腹(じゃばら)のように変化させてきた。

今回の分社もその一環といえるが、事業売却ではなく、新会社は独立した上場会社とする。IBM色を薄めるための手立てともいえ、「名を捨てて実を取る」戦術が読み取れる。

IBMは米レッドハットを約340億ドル(約3兆5700億円)で買収し、クラウドサービスやオンプレミス(自社保有)によるハイブリッド(混在)環境を束ねる“空中戦”で戦う武器を持った。

だが、クラウド市場ではGAFA(米大手IT4社)を頂点に、IBMがタッチできない新しい市場が形成されている。新会社は、その新市場に“地上戦”で挑む構えだ。

アマゾンウェブサービス(AWS)やマイクロソフト(MS)、グーグルなどは、自社でITインフラの構築サービスを持っていなかったり、基幹システムの運用を任せるには経験不足だったりする。新会社はIBMで培った豊富な経験を武器に、GAFAなどとの協業に打って出る。「新会社がIBMの看板を捨て、中立性を担保すれば勝算は成り立つ」(業界関係者)。

空中戦と地上戦をつなぐカギとなるのが、レッドハットが提供するコンテナ型仮想基盤「オープンシフト」。アプリケーション(応用ソフト)が、クラウドでもオンプレでもどこでも動く共通基盤を横串で提供できる。

その価値を空中戦のみで訴求しても、なかなか前に進まないが、地上戦で別動隊(新会社)が新しい需要を刈り取っていけば一石二鳥の効果が見込める。

先端領域で競いながら、泥臭い戦術で後方から攻め上げる―。新会社は大化けする可能性を秘める。

新会社には9万人がIBMから移籍する予定。売上高は推定190億ドル(約2兆円)。クリシュナCEOは新会社の行く手には「1兆ドル規模の市場が広がっている」と展望する。