【新たな移動】

2040年に1兆5000億ドル(約157兆5000億円)―。米モルガン・スタンレーは19年、空飛ぶクルマの市場予測で巨大な数字を打ち出した。その高い潜在性に航空機メーカーや新興企業の参入が相次ぐ。加えて熱い視線を注ぐのは自動車業界だ。市場の大きさだけが理由ではない。次世代都市を構成する移動手段の一つとして、MaaS(移動のサービス化)への布石という側面がある。

主に欧米メーカーが開発で先行する中、国内で気を吐くのは、SkyDrive(スカイドライブ、東京都新宿区)だ。23年の事業開始を目指し、8月には国内初の有人飛行試験と事業会社を含む計10社から39億円の調達を実現した。

同社が開発するのは航続距離10キロ―20キロメートルの近距離移動を想定した2人乗りの“世界最小”eVTOL(イーブイトール、電動垂直離着陸機)。コンビニエンスストアの駐車場やガソリンスタンドといった規模のスペースから飛び立てるほどの手軽さが目標だ。「日本やアジアのような国土の狭い国では、コンパクトさが日常的に利用するための強みとなる」(同社の福沢知浩社長)。このほかベンチャー企業のテトラ・アビエーション(東京都文京区)も1人乗りの小型eVTOLを開発中。米国での飛行試験許可を取得するなど、23年の実用化を目指す。一方、既存のモビリティー産業のプレーヤーも、その巨大市場を虎視眈々(たんたん)と狙う。

【トヨタが出資】

「私は空を飛ぶクルマを欲しいが、社長の言うことを聞く人は誰もいない」。19年3月、米国のエコノミッククラブでこう話し、会場の笑いを誘ったトヨタ自動車の豊田章男社長。その約1年後となる今年1月、トヨタは4人乗りの大型eVTOLを手がける米ジョビー・アビエーションに3億9400万ドル(約430億円)の巨額出資を実施した。

トヨタは設計、素材、電動化の技術開発のほか、トヨタ生産方式のノウハウを提供し、車の生産で培った品質や安全性の高さ、低コストでの量産技術で協力する。トヨタで工場統括などを担う岡田政道氏は、9月に愛知県内で行った講演で「プロペラ用モーターを開発している」と明かしており、着実に連携を進めている。

【土壌作り】

将来、インフラやサービスがつながるスマートシティーが実現すれば、モノや人の移動はさまざまなデータを生み出し、新たなビジネス創出基盤となる。つまり“モビリティー”を広く押さえた者が勝者となりうる。英調査会社IHSマークイットの川野義昭日本・韓国ビークルセールスフォーキャストマネージャーは「既存の自動車関連企業の参入は、将来どの方向に進んでも競争に乗り遅れないための土壌作りの布石ともとらえられる」と指摘する。トヨタの本格参入の狙いも、ここにありそうだ。

すでに海外では独ダイムラーや韓国・現代自動車、中国・吉利汽車などが参入。ライドシェアや自動運転を手がける米ウーバー・テクノロジーズも参入し、統合型MaaSを実現しようともくろむ。巨大市場の先にある果実を見据え、各社の開発競争は熱を帯びる。