経営の根底に「化成萬物」

―創業家の精神とのつながりは。

「当社の旧社名にあった『化成』は、中国の古典『易経』をもとにした創業家4代目岩崎小弥太の造語で、宇宙万物の生成発展を意味する。この化成という言葉を使った『化成萬物』が当社の精神だ。万物は移り変わっており、それに合わせて新陳代謝すべきだという意味と私は捉えている。当社の中核事業の化学にも、変わるという意味があるが、化学に限らず経営にも当てはまる」

―2007年に社長に就任されました。

「保安事故など多くの問題に直面し、非常に苦しい時期だった。会社を根底から変えないといけないと強く思った。それが私のトップマネジメントの原点であり、その根底に化成萬物がある」

―三菱グループ各社の会長・社長で構成する「三菱金曜会」の役割をどう考えますか。

「一つは異業種交流の場だ。化学業界内の交流はあっても、金曜会のように証券や保険などのトップと定期的に交流できる機会はあまりない。また、三菱グループ各社の社長候補を集めて現役トップの講演などをする合宿形式の『トップセミナー』もあり教育の場でもある。さらに、三菱グループは三菱ブランドを共有している。三菱ブランドは国内外で信頼されており、金曜会はこの大切さを共有する場でもある」

―三菱グループがここまで大きくなった背景は何でしょうか。

「それぞれの業界でグループ会社が頑張っているというのが原点だろう。それを喚起するものとして(三菱グループの理念である)『三綱領』がある。一つの(共有する)精神的なバックボーンがあって、かつては大きな問題が起こると金曜会が中心になって助け合ったということもあったのではないか。優秀な人材が確保できるような戦略もあったと思う。ただすべては過去の栄光であって今後は分からない」

―と言いますと。

「約150年前の明治維新のころからの殖産興業や富国強兵といった国策に合わせて三菱グループは成長してきたが、これらはリアルの世界だ。21世紀はデジタルの時代であり、バーチャルの世界が広がる。まったく違う指針で動かないといけない。バーチャルの世界への切り込みが三菱グループはまだまだ弱い。重化学工業という重いモノを背負っているだけに大いなる課題だ。これからは集団としての強さが求められるのではなく、創造性豊かな個がないと生き残れない」

*取材はオンラインで実施。写真は三菱ケミカルHD提供