造船業界が再起をかけて再編に踏み出す。国内首位の今治造船(愛媛県今治市)と同2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU、横浜市西区)が、1日付で資本業務提携し新会社を設立する。強大な中国、韓国勢を前に、三井E&Sホールディングス(HD)と常石造船(広島県福山市)も合従連衡で対抗軸を打ち出す。過去20年間で主役が交代した同業界は再び激動期に入り、次世代船の開発では異業種との連携も進む。

中韓に対抗、効率化急ぐ

2000年代初めに国内勢の建造量をリードしていたのは重工大手だったが、10年代に上位が専業系に入れ替わった。首位に躍り出たのが買収で成長した今治造船で、今度はJMUとの1、2位連合で中韓勢との激しい競争に挑む。

今治造船がJMUに3割出資するとともに、両社の商船分野の営業と設計を統合した新会社を設立する。造船業界にとっても、再編による巻き返しの試金石に位置付けられるだけに、提携の成否は国内勢の方針に少なからず影響を与える可能性がある。JMUが舞鶴事業所(京都府舞鶴市)での商船の建造を終了することを決めたが、両社の造船所のあり方は課題といえる。

三井E&SHDは造船子会社が常石造船から出資を受ける協議を同社と進めており、10月の出資完了を目指す。三井E&Sが今後も親会社の立場を維持する方針。一方、同社の千葉工場(千葉県市原市)での建造を3月末に終了する。

世界的に船腹量と供給力が過剰な状態が続いたのに加え、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う受注環境の悪化で、国内の手持ち工事量は大幅に減少している。造船所の業務効率化や生産の見直しは業界全体の喫緊の課題だ。日本造船工業会の斎藤保会長(IHI相談役)は「造船所のデジタル化で生産性を高める必要がある」と指摘する。

再編とともに、各社も痛みを伴う構造改革は避けては通れない。10年ごろに大量建造されたことによる代替需要を取り込む体制を整えることが求められる。日本の“お家芸”復活には経営者の覚悟が問われそうだ。

VBが電動船を企画

二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す動きが活発化し、造船業界もゼロエミッション船を開発して競争力を高めようとしている。ただ、船舶の技術革新に結びつく発想にたけているのは、造船会社よりも海運ベンチャーかもしれない。

電動タンカーの推進システム

商船三井や三菱商事などが出資して2019年に設立したe5ラボ(東京都千代田区)は、船舶の電動化に乗り出している。東京湾内を航行する電動タンカーを企画、デザインし、川崎重工業が大容量のリチウムイオンバッテリーや推進制御装置などで構成する推進システムを手がける。建造するのが興亜産業(香川県丸亀市)と井村造船(徳島県小松島市)だ。

e5ラボは環境問題への対応など、内航海運が抱える課題の解消を目指している。内航船のうち約5000隻の貨物船やフェリーが今後10年以内に入れ替えが必要という。航続距離や航続時間の観点から電動船のニーズを取り込む余地は大きい。

また電動の大型バラ積み船のコンセプトも公表し、実現に向けて三菱造船(横浜市西区)などと連携する。同社の中山喜雄取締役常務執行役員は「e5ラボは(事業などの)スピード感があり、プロモーション能力も高い」と舌を巻く。e5ラボの求心力と造船会社の技術を通じて電動船の開発が加速する。

一方、次世代燃料に挙げられるアンモニアを利用する船舶をめぐっては、伊藤忠商事や今治造船などが25年をめどに開発を目指しており、日本郵船やJMUも研究開発を始めている。異業種が結束して環境対応の大きなうねりを乗り越える。

e5ラボ社長・一田朋聡氏 船舶に必要なアプリ展開

e5ラボの一田朋聡社長に今後の展開などを聞いた。(孝志勇輔)

―設立の狙いは。
「船の電動化やデジタル化を通じて、海運を魅力ある産業に進化させる。日本にとっては船がライフラインだが、今のままでは脆弱(ぜいじゃく)な状況だ。強固な海運(の体制)を再構築する」

e5ラボ社長・一田朋聡氏

―内航船の現状は。
「船舶の“高齢化”が進んでいる。約5000隻の貨物船やフェリーは竣工から15年以上経過していて、使用の限界は25年程度とされている。これらの船をリプレース(更新)する必要がある。CO2の排出対策や船員不足も課題だ」

―船舶の電動化を主導しています。
「我々の立ち位置は電気推進船の企画・デザインで、出資を受けている旭タンカーが電動タンカー2隻の建造を発注した。しかし、電気だけで動かそうとすると航続距離や時間が課題で、普及が遅れてしまうことも考えられる。リチウムイオン電池とディーゼル発電機を併用するハイブリッド船も計画している」

―電動化により災害対策での活用も期待できます。
「発注したタンカーのバッテリー容量は電気自動車100台分に相当する。約100世帯に供給して、4日間程度の電力を賄える」

―造船会社などとの連携も進んでいます。
「電動のバラ積み船の構想を出したが、実用化には三菱造船のエンジニアリング技術が必要だ。我々が取り組むことに賛同してもらえるパートナー企業を集めて、知恵を出し合いながら付加価値を生み出す。海事産業全体で、新たな動きを盛り上げていきたい」

―船舶のデジタル化のニーズが高まることも見込まれます。
「電動化とデジタルの親和性は高い。人工知能(AI)やロボット技術を活用すれば、船員の負担軽減につなげられる。プラットフォーム(基盤)を用意し、船に必要なアプリケーション(応用ソフト)を展開することを考えている。船をロボット化する」

データ/手持ち工事量 減少一途

日本船舶輸出組合(JSEA)によると、2020年11月末の輸出船の手持ち工事量は約1400万総トンだった。15年末の約3900万総トンから4割以下に減少し、約1年分の工事量しか残っていない。安定操業の目安の工事量は2年分とされており、大幅に下回っているのが現状だ。

公的支援を受ける中韓勢の攻勢で競争がゆがめられ、日本勢は苦境に立たされており、コロナ禍がさらに追い打ちをかけた。日本造船工業会の斎藤保会長は「新造船の商談は停止状態で非常に厳しい」と危機感をあらわにする。顧客と対面の受注活動が一般的だっただけに、海外との往来が制限されているのが影響している。

一方、経済再開に伴って落ち込んでいる海上の荷動き量が反転すれば海運市況が好転することも予想される。これにより新造船の需要も徐々に持ち直す見込みだ。

KEYWORD/ゼロエミッション船

環境負荷の低減に向けて、温室効果ガスを排出しない船舶を指す。国際海事機関(IMO)は温室効果ガスを2050年までに08年比で50%削減し、21世紀中のできるだけ早期に排出をゼロにする目標を打ち出している。これまで船舶に硫黄酸化物(SOX)の除去装置などを導入して対応してきたが、今後は燃料に重油を使わない船舶の開発が進みそうだ。電動化やアンモニア燃料船を実用化する動きが広がるが、コスト面が普及に向けたハードルといえる。