2021年は、温室効果ガス排出を実質ゼロにする「脱炭素」に向けた投資合戦が幕を開ける。米国のバイデン新政権は4年間で2兆ドル(200兆円)、欧州連合(EU)も10年間で官民合計で1兆ユーロ(120兆円)と、巨額の投資目標を掲げる。日本も2兆円の基金を立ち上げる。世界全体の排出ゼロ実現には50年までに130兆ドルの投資が必要とされており、企業にとっては“脱炭素マネー”争奪のチャンスだ。

米国 クリーンエネに2兆ドル

バイデン次期大統領は、気候変動政策をまとめた「バイデンプラン」を掲げて大統領選を勝利した。パリ協定への復帰はもちろん、米国における50年までの100%クリーンエネルギー経済と温室効果ガス排出実質ゼロの達成を目標に据えた。

プランには具体策とスケジュールも明記されている。就任初日に中・小型車を100%電気自動車化し、洋上風力発電を倍増するプロジェクトの大統領令に署名する。そして就任100日以内に気候サミットを開き、主要排出国に目標強化を約束させる。国内ではクリーンエネルギー関連に4年間で2兆ドルの巨費を投じ、35年までに電力部門を脱炭素化する。

バイデン氏は気候変動対策に意欲的だが、新型コロナウイルス対策や「社会の分断」といった目の前の課題もある。就任直後の初動によって新政権における気候変動対策の優先順位が分かる。

またバイデンプランでは蓄電池や新冷媒、再生可能エネルギー由来水素、小規模原子炉などの研究テーマが並び、省庁横断の先進研究プロジェクト機関の設立も提言している。イノベーションにも積極的だが、課題は資金だ。クリーンエネルギー関連への2兆ドルの投資も含めて財源が明確ではなく、脱炭素へアクセルを踏み込めるのか微妙だ。

欧州 官民で10年間に1兆ユーロ超

一方、欧州連合(EU)は資金の手当も練った戦略を掲げる。19年12月に50年排出ゼロに向けた工程表「欧州グリーンディール」を公表し、20年1月には気候変動対策に官民合計で10年間に1兆ユーロ以上を投資すると打ち出した。公的資金を呼び水として民間資金を短期・集中的に脱炭素分野に誘導する。

EUは洋上風力発電など再生可能エネルギーで先行する

製品やプロジェクトを分類する「EUタクソノミー規則」も象徴的な金融政策だ。21年から運用し、金融機関に「脱炭素に貢献する」と認めた事業への投融資を促す。

さらに脱炭素への転換で生じる経済的な負担を金融手法で緩和する「公正な移行メカニズム」を準備している。公的資金を拠出して設立する基金もメカニズムの一つで、失業者の技能研修や中小企業支援に充てる。

また欧州グリーンディールは水素エネルギーも看板政策だ。30年までに水素製造装置の増強に最大420億ユーロを投じるなど、資金とセットとなった工程表ができている。

水素の用途も製鉄やガス製造、大型車両による輸送など、再生エネ利用が困難な産業に集中させる。EUは「公正な移行」を基本精神に据えており、二酸化炭素(CO2)を多く排出する産業も脱炭素型に転換して競争力を維持しようと考えている。

日本 基金2兆円、市場創出急務

日本は20年10月末の菅義偉首相の「50年ゼロ」宣言後、政府と産業界が脱炭素実現で足並みがそろった。ようやく130兆ドル市場の陣取り合戦に参入するが、出遅れが懸念されるのは水素だけではない。

スペインは30年までに電気自動車(EV)500万台、ドイツもEVと燃料電池車(FCV)の合計で最大1000万台の販売目標を掲げる。日本では現在、プラグインハイブリッド車(PHV)も含めた電動車は年4万台の販売ペースとなっており、乗用車全体のシェア1%。国内市場を早急に創出しないと、日本の自動車メーカーは商機を逃す。

世界的な成長が始まった洋上風力発電も国内市場の整備が欠かせない。英国は10年で9倍の980万キロワットまで導入量を増やした。日本も政府と企業による官民協議会が20年12月、30年までに1000万キロワット、40年までに3000万キロ―4500万キロワットを導入する目標を定めた。母国市場があれば、国内企業も洋上風力ビジネスに参入できる。

日本は将来のイノベーションに重心をかけすぎず、目の前の市場創出も急がないと脱炭素市場から取り残される。また政府は、2兆円の技術開発基金を設立するが、思い切った資金投入がないと米国や欧州にグリーンイノベーションで先行される。

二酸化炭素でメタンを製造する設備。国内ではカーボンリサイクルの開発が進む(国際石油開発帝石=新潟県長岡市)

DATA/50年、脱炭素へ130兆ドル

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の推定によると、2050年に世界全体の脱炭素達成にはエネルギー関連で130兆ドルの投資が必要となる。また、50年までに再生可能エネルギー関連の雇用が世界で4200万人に達し、現状比4倍に増加する。さらにエネルギー効率対策で2100万人、社会システム変革で1500万人の新規雇用も生まれる。

海外では投資額と雇用で「環境と経済の両立」が表現されることが多い。日本も脱炭素を成長に結びつけるのなら、投資額や雇用などの数値目標が必要だろう。

すでに海外では脱炭素に資金が動いている。18年の全世界のESG(環境・社会・企業統治)金融の規模は30兆ドル。日本のESG金融は世界シェアの7%となっている。日本も金融的手法と一体となった脱炭素戦略が求められる。

KEYWORD 脱炭素

温室効果ガスの排出実質ゼロを「脱炭素」と呼ぶ。温暖化対策の国際ルール「パリ協定」で「排出量と吸収量を均衡させる」と明記され、脱炭素が世界目標となった。温室効果ガスの排出によって産業革命前からの世界の平均気温は1度C上昇した。地球温暖化の影響と考えられる異常気象が起き、豪雨や台風被害が相次いでいる。気温上昇を1.5度C未満に抑え、自然災害を緩和するために国際社会は2050年までの脱炭素実現を目指す。