ファーストフード店、コンビニの総菜棚などでよく見かけるようになってきた大豆ミート。大豆から油を圧搾し加工したもので、ハンバーグやキーマカレーなどのメニューに肉の代用品として使われる商品が増えている。「言われなければ肉と間違える」という声も聞く。2019年頃からメーカーの参入が相次ぎ、30年には市場規模が20年予測比2.3倍になるという調査結果もある。なぜ今注目されているのか。(取材・昆梓紗)

狙うは「フレキシタリアン」

「ハムカツ」「からあげ」「ナゲット」が人気―。伊藤ハムが2020年3月に発売した「まるでお肉!」シリーズは、大豆ミートを使用した調理品。他社が発売していない揚げ物系が、一番魅力度が高かったメニューだ。現在販売中の7種類のうち、5種類が揚げ物。同社が大豆たんぱくを主原料とし、食肉を使用しない商品はこれが初めてだという。
 「肉を得意とする当社だからこそできる、本物(の肉を使ったメニュー)に近い味と食感にこだわりました」と加工食品事業本部事業戦略統括部の弥冨紀子氏は胸を張る。しかし、一番初めの試作品は「びっくりするぐらい“大豆そのもの”の味だった」という。もともと食肉加工品の副原料として大豆たんぱくを使用していた実績はあったものの、メインで使うとなると、大豆特有の風味に対するマスキングや味の強弱の調整などに苦労した。また、肉ならではの繊維感や歯ごたえの再現も不可欠だった。

伊藤ハム「まるでお肉!大豆ミートのハムカツ」

「本物に近いおいしさ」を目指したのは、「ふんわりと健康を意識している人」をメーンターゲットにしたことが理由の1つだ。
 大豆ミートは従来、健康意識の高い人やベジタリアン、ヴィーガンがメイン購入層だった。しかし19年頃から裾野が広がり、場合によって肉と植物性代替肉を選択する「フレキシタリアン」と言われる人がじわじわと増えてきた。「ここ3年ほどの動きとは比べものにならないほど、20年春ごろから市場が一気に拡大しました」(弥冨氏)。「まるでお肉!」も売上目標の2倍で推移している。
 ただ、市場が拡大しているとはいえ、まだ「知る人ぞ知る」商品。大豆ミートを身近な商品にするためにも、食卓に取り入れやすい馴染みのメニューや味、温めればすぐに食べられる手軽さで展開していくことが必要だと見る。現在、大豆ミート関連家庭用商品としてのシェアは38%(※1)。21年は商品の種類を増やしていくという。

マルコメ(長野市)では、業界に先駆けて15年に大豆ミート商品を発売した。健康意識の高い人は自炊するニーズが高いことを受け、余計なものを加えず、自分で調理できるような素材としての商品を展開している。封を開けてそのまま調理できるレトルトパウチ、乾燥、冷凍など幅広く、「回鍋肉」「麻婆豆腐」など、大豆ミートと調味料などがセットになった商品も用意している。発売当初はヴィーガン、ベジタリアンの人が購入することが多かったが、徐々にそれ以外の人が幅広く購入するようになった。大豆ミート商品の売上は20年4〜9月で計画比150%と大きな上げ幅となった。

マルコメ「大豆のお肉」レトルトタイプ
 ただし、今まで市場になかった商品のため、「売り場」が定まっていないことが課題だ。実際にスーパーを覗いても、大豆ミートがどの売り場に陳列されているのか探すのに手間取ってしまう。マルコメでは商品の特徴によって、精肉や、日持ちのしない日配食品、青果、乾物など複数の売り場に展開。「商品の認知経路としても、売り場は重要。今後精肉売り場への陳列を増やしたい」(マルコメマーケティング部の其田譲治氏)。

現在はじわりとブームが広がっている状態だが、市場調査会社のシード・プランニングは、国内の植物由来の代替肉市場について、20年が346億円、10年後の30年には20年予測比2.2倍の780億円に拡大すると予測する。
 ただし、欧米におけるブームのように、日本でも同じように肉を植物性代替肉に置き換える流れが加速するかは未知数だ。例えば、日本人の肉の消費量は増加傾向にあるとはいえ未だアメリカ人の半分以下。『肉を食べすぎている』という問題意識は持ちにくいのではないかという意見もある(※2)。

罪を「おゆるし」

一方、訴求力の高い動機付けがある。それが「罪悪感」だ。
 マルコメでは、新型コロナウイルス感染対策の外出自粛期間中の「食事への罪悪感」について調査を行ったところ、半数以上の55%が、20年2月以前と比較して罪悪感が増したと回答したと発表。罪悪感の少ない「ギルトフリー」の食材として大豆ミート、砂糖がわりに使用する「糀甘酒」を訴求している。

罪悪感と植物性代替肉(たんぱく)が結びついた商品として象徴的なネーミングを採用したのが、亀田製菓の「おゆるしジャーキー」。
 「『おゆるし』の名称は、ギルトフリーに遊び心を交えて伝えることを狙い、罪悪感なく楽しめるおやつになればと名付けました」(亀田製菓食品事業部開発チームの近藤葉月氏)。コロナ禍により「家飲み」や間食の機会が増えたものの、健康も意識したいというニーズが高まった。これを受けて、「おつまみやおやつでもギルティフリーを実現できれば」との思いを込めた。
 「おゆるしジャーキー」は大豆たんぱくに調味液をしみこませて乾燥しジャーキー風にしたお菓子。18年にファミリーマートの一部店舗で実証的に販売を開始し、そこでの知見を活かして20年10月から本格的に販売開始した。当初は比較的年齢層の高い消費者を意識し、「大豆でつくったやさしいおつまみ」という名称で展開していた。しかし、女性客や若年層が購入する傾向が強く、そこによりフォーカスした形にリニューアル。名称もより目に留まりやすいよう「おゆるしジャーキー」と改めた。

亀田製菓「大豆でつくったやさしいおつまみ」
亀田製菓「大豆でつくったおゆるしジャーキー」

食が社会課題解決に

ただ、ギルトフリー商品によって「おゆるし」される罪悪感は、健康に対してだけではない。亀田製菓では「おゆるしジャーキー」を環境に配慮した商品としても訴求したい考えで、特設サイトでメッセージを伝えるなどの取り組みを行っている。「畜肉よりも大豆の生産は環境負荷が低い。身体にも環境に配慮した商品を選ぶことは、ストレス解消にもつながるのでは」(亀田製菓の近藤氏)。
 肉を主に取り扱う伊藤ハムも大豆ミート商品の開発に乗り出した背景には、SDGsへの配慮がある。「開発当初は社内から『うちは何屋なんだ』という声も聞かれました。ただ、(環境に配慮した)将来を考えた時、たんぱく質摂取における選択肢の1つとして大豆ミートを考えようという前向きな姿勢で、当社としては取り組んでいます」(伊藤ハムの弥冨氏)。

SDGsに関連した、エコ・サスティナブルのニーズは、欧米で18年ごろから増え始めていた。日本人の食に対するニーズは「おいしい」「ヘルシー」に終始しがちな一方、欧米ではそれだけでなく、地球環境やファッション性をも意識して食を楽しむニーズが相まってフェイクミート等がブームになっていた。「日本で欧米のような価値観が広まるのはもう少し時間がかかると思っていたが、コロナ禍により早まった」とマルコメ其田氏は分析する。
 コロナ禍によって社会課題に目を向ける機会が増加し、健康に結びつきやすい食も個人に閉じられたものではなく社会とより密接につながるものになりつつある。食と環境、これら2つへの罪悪感が、大豆ミートの急速な市場拡大の背景にある。

(※1)QPR 2020年4月〜10月 伊藤ハム米久ホールディングスにて大豆ミート関連家庭用商品を抜粋
 (※2)日本植物蛋白食品協会