2020年初頭に中国・武漢市での大流行で始まった新型コロナウイルスは、人々の流れを変えた。大勢の人が集まるイベントやコンサート系は軒並み中止になり、居酒屋やレストラン店舗は業態転換を余儀なくされた。外国人旅行客に頼っていた観光業や百貨店も、戦略の軌道修正を迫られた。ただ、こうした状況はある意味で変革のチャンスでもある。ロボットは非接触で24時間稼働が可能で、メリットに着目した利用者とメーカーには“新市場”が開けそうだ。(編集委員・嶋田歩)

■外食向け “価格の壁”越える

感染防止や非接触のニーズは、飲食業やホテル業などで顕著だ。キュービットロボティクス(東京都中野区)は20年7月から、東京・二子玉川の玉川高島屋6階の店舗で、配膳ロボットを実験している。テーブルまでのサラダ料理の配膳を、店員に代わってロボットが行う仕組みだ。天井に貼った位置マーカーをロボットが赤外線センサーで確認し、自動走行する。テーブル番号を押すだけでロボットが客のテーブルに向かう。人が群がるサラダバーの感染防止で客に安心感を与えられるほか、相手がロボットなので気兼ねせずにおかわりを注文できる利点もある。

コネクテッドロボティクス(同小金井市)は駅ナカのそば店向けに、そばゆでロボットを開発している。生そばをゆでる、洗う、冷水で締める3工程を自動化。熱い湯気や熱湯で店員がやけどを負う危険性が減り、空いた時間を店内除菌清掃や接客作業に振り向けられる。壁面にロボットを取り付けることで、狭小店舗でも店員の仕事を妨害しない。

アンドロボティクス(同港区)はJR東日本の高輪ゲートウェイ駅(同)で、飲料・食品の提供サービス実験を行った。無線通信技術で自動走行する搬送ロボット「フルテラ」を使い、リモコンで商品を注文した客に飲食物を届けた。配達する人件費の節約に加え、非接触のため、コロナ感染の可能性を低減できる。

外食業向けのロボットの場合、目下の最大の問題は“提供価格”だ。「3年レンタルで月15万円以下が、導入の壁になっている」と、キュービットロボティクスの中野浩也社長は明かす。外食はもともと「ワンコインランチ」の言葉に代表されるように低価格競争が激しく、わずか10円の値上げでも客は離れる。コロナ禍で客足と売り上げが大きく落ち込んだ今、事業者の設備投資にかける目はさらに厳しくなる。500万円を切る安いコストでロボシステムの開発が求められる。

コネクテッドロボティクスのそばゆでロボット

1月に販売を始めるソフトバンクロボティクス(同港区)の飲食店向けロボットも、レンタルの月額料金は9万9800円と10万円以下だ。これと同レベルの料金でないと、外食業界に拡販するのは難しい。低コスト化の努力が不可欠になる。

ロボットメーカーの中にはこうした実情を受けて中国製や台湾製のロボットを使うところも多い。ただ事業者の中には、中国製に不安感を持つ人も少なくない。アフターメンテナンスやセキュリティーの面からもできれば国産を採用したいところだが、国産メーカーが販売するロボット価格と中国、台湾製の価格とは大きな開きがある。

外食産業の中にはコロナ禍で客足が落ち込んだため、持ち帰り(テークアウト)の弁当やからあげ店に業態を変えるところも結構ある。この弁当やからあげもロボットが苦手とする分野だ。「からあげはジューシーで持ち上げると油分が落ちるのに加え、1個ごとに形状や大きさが違うため、ロボット化は難しい」とコネクテッドロボティクスの佐藤泰樹取締役最高執行責任者(COO)は話す。

コンビニエンスストアやスーパーの総菜コーナーで売られる弁当類は、さらに難易度が高い。1週間や1カ月といった短い周期で具材がコロコロ変わるため、それに合わせてロボットのティーチング作業をやり直さなければならない。幕の内弁当で梅干しを中央の位置にはめるなど、きめ細かな配慮も必要だ。ハンバーガー店やうどん店のように基本食材は同じで、トッピングを人手で行って差別化が図れる業種はロボットが対応可能と言える。コーヒー店のカフェロボットも同様だ。

■教育・介護向け “1対1の対話”重視

教育分野では、ソリューションゲート(同荒川区)が学習塾向けに、先生ロボット「ユニボ先生」を開発している。得意科目は小学校の算数。卓上サイズで、顔の部分が黒板代わりのディスプレーになっており、1対1で子どもと対話しながら指導ができる。

コロナ禍で、学校の教育状況は大きく変化した。感染防止のため教室の対面授業は制限され、パソコンやスマートフォン端末を通じたオンライン授業の比率が高まった。オンライン授業だと好きなときに学べる利点がある一方で、勉強ができる子とそうでない子の差は開きがちになる。できる子はどんどん先へ進むのに対し、できない子は単元内容が理解できず、ついていけなくなる。

算数は科目の中でも、差が開きやすい教科だ。分数や図形の面積、方程式、グラフなど理解できないままだとその先の単元に進んでもさっぱりわからない。結果的に“算数嫌い”や“理数系嫌い”を量産する羽目になる。理解できない単元の繰り返し学習が不可欠だ。

ユニボ先生は顔が黒板代わりのディスプレーになっているので、個別指導が得意だ。分数や図形面積の求め方など、動画像の色の変化で説明できる。速さと移動距離の問題なら「時速6キロメートルだよね。だとすると2時間半ではどれ位、移動できるかな?」という具合。教室の授業と違い、皆の前で当てられて間違っても恥をかく心配がないため、子どもも安心して答えられる。

スマホやビデオ対応の教育ツールも市販されているが、一方通行になりやすいのが欠点だった。「ユニボ先生ならばそうした悩みを解決できる」と鈴木博文社長は説く。名門校を目指すエリート向けの学習塾だけでなく、普通の子どもたちの塾にも需要が見込める。

小学生向けの「ユニボ先生」。得意科目は算数

介護や老人福祉分野も、ロボットの成長が見込める市場だ。どちらもヘルパーや看護師の行き届いたサービスが不可欠だが、コロナ禍で接触が制限されている。年末には政府や東京都などの知事は正月に帰省をしないよう呼びかけた。地方で1人や2人暮らしをする高齢者は、子どもや孫の顔も見られず、身体機能の衰えや気力の低下、認知症の進行が心配される。

サイバーダインは高齢者の筋力低下を防ぐ目的で、リハビリ用パワードスーツ「HAL」の貸し出しを始めた。エアロビクスのように講師と端末画面を通じて、運動トレーニングの指導が受けられる。ユカイ工学(同新宿区)はコミュニケーションロボット「ボッコ」を活用し、離れた場所で暮らす高齢者向けのおしゃべりサービスを始めた。一人ひとりの高齢者に合わせて会話内容を完全にカスタマイズし「春江さんは美空ひばりの歌がお気に入りだよね」などと、相づちが打てる。毎日決まった時刻に服薬の内容などを知らせ、老親監視にも使えるのがミソだ。

病院などで噴霧消毒作業をする自動走行ロボット

病院や福祉施設の除菌・消毒作業では、ZMP(同文京区)やスマートロボティクス(同千代田区)、テムザック(福岡県宗像市)、サイバーダインなどが自動走行ロボットを相次ぎ投入している。あらかじめ決めたコースを定時に巡回して消毒液や紫外線を照射、感染予防対策に役立てる。スタッフの移動が少ない夜間などに作業を行い、仕事の邪魔にならないようにする。消毒作業の様子を訪れる客に見せることで、感染防止対策ができていることをPRする効果もあるという。