資金・専門人材でタッグ

大学の発明は、それを核に大学発ベンチャー(VB)を設立して技術移転するのが選択肢の一つとなる。東京大学は関連VBが約400社、時価総額は1兆円超と飛び抜けた成績を誇る。その一翼を東京大学TLO(東京都文京区、山本貴史社長、03・5805・7661)が担う。2事例から東大のVB連携の強さを見ていく。(編集委員・山本佳世子)

【特許取得支援】

スマートフォンなどで使われる全地球測位システム(GPS)や衛星測位信号は便利な一方、偽の位置情報によるなりすましの危険性がある。うその所在地を示し配達品の横領をしたり、自動運転車でテロを引き起こしたりする可能性もある。

東京大学空間情報科学研究センターの柴崎亮介教授とマナンダー・ディネス特任准教授らはこの危険性を防ぐ技術を開発した。「衛星測位信号の隙間に、暗号のカギとなるデータを電子証明として埋め込む。利用は開封用の信号を受け取ったユーザーだけとなる」とディネス特任准教授は説明する。2017年から特許の国際出願をした。

しかし大学の研究資金ではカバーできない試作やデモの実施がネックだった。ここで効いたのが東大産学協創推進本部の第1期「GAP(ギャップ)ファンドプログラム」に採択されたことだ。東大TLOの山本社長は「米国でVBが盛んなのは産学をつなぐギャップファンドが多数あるからだ」と強調する。

19年2月に東大発VBのロケーションマインド(東京都千代田区)が設立され、発明者2教員も社外取締役になった。「VBは資金も知財専門人材も乏しく、東大TLOは強力なパートナー」(桐谷直毅社長)という。

このタッグにより大企業と東大の共同特許から、大企業の持ち分をVBで引き取った。大企業の各事業部で知財活用の予定がないと確認し、出願費用を払うことで了承となった。現在は実証試験の一方、各国で特許の審査が始まっている。

【理想の形構築】

東大の強みの一つは多様な人とのつながりだ。17年2月に設立した東大発VBのヒラソル・エナジー(文京区)の李旻社長は、東大産学連携本部(現産学協創推進本部)で特任研究員を務めていた。研究室の成果を聞いて回る中で、発明者の大学院情報理工学系研究科の落合秀也准教授らと出会い、社長の道を選んだ経緯がある。

太陽光発電パネルは故障や汚れなどの不具合で計算通りの性能が出にくいことがある。同社はパネルごとにセンサーを付けてIoT(モノのインターネット)で監視し、改善提案まで行う。落合准教授は「発電で備えた電力線を活用し、パネルの情報を(電力関連の)信号ノイズに埋もれさせずに長距離送れる回路設計とした」と技術のポイントを語る。

顧客である山梨県企業局のもとで、出力1メガワット級の実証実験に成功した。李社長は「VBの事業化と大学の使命にはズレがある。大学の知財を活用しつつ、自立できる独自開発も進める」と、東大関係者として理想の形を構築しようとしている。

顧客である山梨県企業局の米倉山実証用太陽光発電所(ヒラソル・エナジー提供)