現下の車載用半導体不足は半導体サプライチェーン(供給網)の急所をつかれた。川上に位置する半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)などへの生産集約は自動車メーカーの分散購買の死角となった。

2020年末から対応に追われた自動車各社は東日本大震災の起きた10年前を思い出したに違いない。車載用半導体世界大手だったルネサスエレクトロニクスが国内8工場で被災した。特に主力の那珂工場(茨城県ひたちなか市)は車載用マイコン全体の約25%を生産しており、影響が深刻だった。今回の半導体供給不足による車生産調整という流れは既視感を抱かせる。

「震災が半導体調達の重要性を理解させる契機になった」と当時のルネサス関係者は振り返る。その後のルネサスは震災による供給危機をきっかけにTSMCなどへの生産委託拡大へかじを切った。事業継続計画(BCP)の観点からも合理的な経営判断だったが、ファウンドリーに生産が集中する歪(いび)つなサプライチェーン形成につながった側面は否定できない。

今回の半導体不足は完成車メーカーを頂点とする自動車産業のヒエラルキーが変わる転換点かもしれない。今後も電動化や自動運転で車載用半導体需要はうなぎ上りで、ファウンドリーの存在感は巨大化するばかりだ。

TSMCは5月からの増産に向けて準備を進めている。材料などの現地サプライヤーに対しては対応を急かすだけでなく、「『購入価格を下げろ』と言ってきた。自動車会社の購入価格が安いからだって」と取引業者幹部はあきれる。その一方で顧客へ値上げを示唆するTSMCのしたたかさが際立つ。

一方、10年前の教訓が生きた場面も最近あった。20年10月に旭化成の半導体工場で火災が発生した。自動車の安全走行システムなどに使う半導体を多く手がけていた。自動車メーカーなどの担当者がそろって火災発生直後に宮崎県延岡市へ現地入り。「現地で集まって、車載用へアロケーション(割り振り)をした」(事情通)と在庫確保の初動は速かったようだ。その結果、電子楽器や音響機器など非車載向けの半導体が不足する“副作用”も出てはいるが。

「自動車業界はすぐに国にも支援を働きかけるなど、産業全体としての動きがすごい」(同)と修羅場の経験値が他業種と桁違いだ。旭化成製品の在庫を確保したほか、ルネサスなど複数の半導体メーカーでの代替生産にめどが付いたことで、工場火災の影響は軽微で収まりそうだ。