フクダエンジニアリングは、大手部品メーカーであるエフテックのグループ企業として、自動車の足回り部品や二輪車の燃料タンク向けのプレス金型を主に手がけている。プレス成形シミュレーションを駆使した金型の工程設計やレイアウト設計に長年のノウハウがあり、それらを活かした厚板の深絞り部品を得意とする。早くから設計の3 次元化に取り組んでいるのも特徴で、現在は設計から機械加工まで一貫して3 次元図面を活用できる体制を整えている。

中野哲也さんと豊田直人さんは同社の金型製造部門に所属する若手技術者だ。中野さんは機械加工の全体を統括する機械係長として、豊田さんは金型の仕上げ担当者として金型の品質向上やリードタイム短縮に注力している。部品のハイテン化が進み、金型づくりの難易度が上がりつつある中でそれぞれの業務に向き合う2人を取材した。

フクダエンジニアリング(以下、FEG)は1983年、エフテックの金型製造部門が分社化して誕生した。埼玉県加須市の本社工場に加え、2001 年にメキシコのケレタロ州に金型製造やプレス部品生産を手がける工場を、2008 年に中国山東省煙台市に金型設計を担う設計事務所を開設。エフテックおよび国内・海外の部品メーカー向けを中心に、社外での製作分を含めて年間約500 型を供給している。中野さんと豊田さんが勤務する本社工場では、成形難易度の高い大型部品に用いられる3,000〜3,500 tのトランスファー金型を主に製造している。

埼玉県加須市の本社工場。ここでは、大型部品に用いられるトランスファー金型を主に製造する

印刷業から金型の世界へ

中野さんは2005 年に中途採用で入社した。商業高校を卒業して印刷機のオペレーターとして働いていたが、「仕事が終わるまで帰れない」という働き方に疑問を感じ、転職を考えていた。そんなときにFEG の契約社員の募集を知り、年間休日数の多さや有給休暇取得率100% という魅力的な条件にくぎ付けになった。金型はまったく知らなかったが、「機械を扱う仕事であれば何とかなる」と考えてこの世界に飛び込んだ。

契約社員としての1 年間は、小型マシニングセンタ(MC)を使った穴あけ加工を主に担当しながら、ワイヤ放電加工機や汎用フライス盤、ラジアルボール盤などさまざまな機械の使い方を習い覚えた。正社員となった2 年目からは大型MC を任された。1 年目は単品部品の比較的簡単な加工がメインで、図面を読んで理解する力が低くても何とかなった。だが、大型MC の担当者は図面をしっかりと理解したうえで、金型の複雑な形状加工もこなさなくてはならない。畑違いから来たので、図面を読んで理解できるようになるまでは苦労の連続だった。加工ミスもたくさん経験したが、「なぜ失敗したのか」をとことん追求し、上司がどのように対応しているかをメモすることで、同じ失敗を繰り返さないよう努めてきたという。

大型MC を7 年間担当した中野さんは、CAD/CAM を使ったNC プログラムの作成担当を経て、2020 年に機械係の係長に抜擢された。各加工機の稼働日程やNC プログラムの作成日程を考え、金型加工方法を決定して現場に指示を出し、その合間に若手の教育もするという多面的な仕事だ。設計部門や仕上げ担当者など他部署とのやり取りも多い。

2020 年に機械係の係長に抜擢された中野さん。作業日程の考案や金型加工方法の検討、若手の教育などさまざまな仕事をこなす

そうした中、心がけているのが基本的なホウレンソウ(報告・連絡・相談)である。「金型はいろいろな部署と連携してつくり上げる。ホウレンソウがしっかりできていれば、何かあったときでも他部署に相談をもちかけやすい」(中野さん)。機械加工でミスをしたときは、設計部門に相談して「どう直せば早く済むか」をアドバイスしてもらう。また、仕上げ担当者から「金型のこの部分を追加工してほしい」と頼まれたときは、その情報を設計部門にフィードバックして次回の金型設計に活かしてもらう。日々の密なコミュニケーションこそ金型づくりに欠かせないと考えている。

プレス工場で金型の魅力に開眼

「小さい頃から自動車が好きで、何らかの形で自動車にかかわる仕事がしたかった」と話す豊田さんは、千葉工業大学工学部を卒業して2016 年にエフテックに入社した。エフテックグループでは、専門学校や大学の新卒採用はすべてエフテックで行い、その後グループ企業に「出向」させる形をとっている。豊田さんもエフテックにまず採用され、本配属の前に1 年間の研修を受けることになった。

研修では、エフテックの各現場を見る機会があった。中でも印象に残ったのが同社の亀山事業所(三重県亀山市)にあるプレス加工現場である。巨大なプレス機に取りつけられた金型のスムーズな動き。1 枚のパネルからつくられる複雑な形状の足回り部品。「すごい! おもしろい! と夢中になった」(豊田さん)。研修が終わる頃には、「金型業界で働こう」と決めていた。希望どおり2017 年にFEG の一員となり、製作課仕上げ係に配属。以来、金型の仕上げを担当している。

トライ用プレス機にセットした金型を確認する豊田さん。どこを修正するかの判断は、ほぼ迷いなくできるようになった

仕上げ係は、金型部品を組みつけてトライ用プレス機で試し打ちを行い、顧客の要求する精度の部品を成形できるまで金型を仕上げていくのが仕事だ。同社の主力製品であるトランスファー金型は、抜き・曲げ・絞りなどの異なる工程の単発型を1 台のプレス機に並べて複雑な部品を成形する。仕上げ係では、部品ごとに担当を割り振るため、例えば7工程あるトランスファー金型であれば7 型を1 人で担当しなければならない。それだけに、担当した金型が期限までに仕上がり、トラックで運ばれていくのを見送るときは何とも言えない充実感があるという。

「どの部分をどう修正するかの判断はほぼ迷いなくできる」と話す豊田さん。心がけているのは「確認をおろそかにしないこと」。細かなことでも一つひとつ確認しながら作業を進めることで、「金型のどこに不具合があるのか」の見極めがつくようになってきた。入社4 年目ながら現場の主力に育ちつつある。

リードタイム短縮に挑む

同社では金型製造のリードタイム短縮に力を入れている。その一環として中野さんら機械係で取り組んだのが焼入れ後の高硬度鋼の直彫り加工である。従来の金型加工では、①荒取り加工後に②熱処理(焼入れ)を行って硬度を高め、③研磨、④仕上げ加工と工程を進めていた。しかし、この方法だと荒取り加工と仕上げ加工で2 度の段取り作業が必要となる。また、焼入れ後に大幅な修正加工を指示されるケースが多く、そのたびに硬度を下げるための「焼なまし」を行うため、時間、コストともにムダが発生していた。

そこで中野さんは、焼入れ後の63 HRC 程度の鋼材を荒加工できる工具の開発を付き合いのあった工具メーカーに依頼。最初は「無理だろう」と渋い顔をされたが、半年ほど経ってテスト工具がもち込まれた。使ってみると思いのほかよく削れる。2020 年9 月に正式導入し、荒取り加工から仕上げ加工までを1 チャッキングで行うめどをつけた。中野さんは、金型加工の技術上の課題を1社単独で解決するのは難しくなりつつあると指摘。「これからは、工具メーカーやソフトメーカー、機械メーカーなどと連携して金型づくりを行える企業が伸びるのではないか」と話す。

リードタイム短縮に向けて機械係ではフレキシブル生産システム(FMS)の活用も構想している。大容量のパレットストッカーやパレット搬送装置、ロボットなどを組み合わせることで、モールドベースの加工とそこに組みつける単品部品の加工を並行して行い、大幅なリードタイム短縮を目指す方針だ。

豊田さんが所属する仕上げ係でも、リードタイムに直結する修正回数の増加が課題となっている。背景にあるのが部品のハイテン化だ。車体の軽量化を目的に、足回り部品にも850 MPa 級のハイテン材が使われるようになり、金型で成形してもスプリングバックによって意図する形状が得られないケースが増えている。赤色顔料を使ってパネルと金型の当たり方をチェックし、必要に応じて手作業で修正するのは仕上げ係の仕事だが、修正が増えれば時間も余計にかかる。

金型製作のリードタイム短縮に向けたさまざまな取組みが進む

豊田さんは、「いかに効率良く、形状をくずさずに修正するか」を念頭に置きながら、各種ハンドグラインダーを使い分けて作業を進めている。設計部門へのフィードバックも重視し、修正した金型形状を設計部門に戻し、次回から機械加工してもらうことで仕上げの効率化も図っている。また、同社では人の手が加わった部分を非接触3 次元測定機で測定し、金型の3次元モデルに反映させるリバースエンジニアリングにも取り組んでおり、金型のスペア部品加工でリードタイム短縮の効果が出ているという。

チャレンジ精神を胸に

FEG は、「創造力とチャレンジ精神をもって、革新的な生産システムを全世界に供給する」を目標に掲げる。そのチャレンジ精神が垣間見えるのが、金型設計を中国の設計事務所に100% 任せている点だ。2008 年の開設時に新卒の中国人スタッフを採用し、ゼロから育ててきた。国内の設計部門は上流工程である工程設計やレイアウト設計に集中でき、より付加価値の高い金型を提供できる。こうしたチャレンジ精神は現場にも根づいており、高硬度鋼の直彫り加工やFMS、リバースエンジニアリングへの挑戦に現れている。

チャレンジングな取組みを続ける中野さんは、「若いスタッフに仕事の楽しさを伝えられる技術者になりたい」と話す。2020 年から係長となり、若手に指導する機会が増えた。自分自身の成長過程を振り返ると、そこには仕事の楽しさや喜びを教えてくれた上司の姿があった。「上司は単に仕事をこなすのではなく、『工具ごとに切削条件を変えて試してごらん』と試行錯誤する喜びを教えてくれた。自分もいつかそうなれれば」(中野さん)。

豊田さんは、「できるだけ多くのことを吸収して、『豊田に任せてみるか』と思ってもらえる技術者」を目指したいと語る。そのために、さまざまな経験を積む必要を痛感しており、特にスーパーバイザー(SV)として金型の立上げに携わりたいとの希望をもっている。「金型の立上げを監督するSV には、現地で不具合が発生したときに臨機応変に対応する力が求められる。自分に足りない部分はそこだと思うので、いつかSV を経験してみたい」(豊田さん)。

常に進化が求められる自動車部品金型製造の分野で技術革新を目指してチャレンジを続けるFEG。2人のような伸びしろのある技術者がその成長をけん引していく。

会社概要
所在地:埼玉県加須市鴻茎3206-3
電話番号:0480-70-1171
代表取締役社長:小林敏美
資本金:9,000 万円
設立:1983 年
従業員数:72 名
事業内容:自動車部品向けプレス金型の設計・製造
雑誌紹介
雑誌名:型技術 2021年3月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円

内容紹介
型技術 2021年3月号  Vol.36 No.3

【特集】金型加工の段取り改善に役立つ最新ツールと活用法
 金型のような一品ものの加工では、頻繁な段取り作業がリードタイム削減のネックとなります。ワークや工具の取付け、加工原点の設定や工具径補正など各作業に細かい配慮が求められ、経験の浅いオペレーターだと必要以上に時間がかかってしまうケースもあります。そこで重要になるのが、ツールプリセッタやパレット交換装置などを活用した「外段取り化」です。
 特集では、金型加工における段取りの重要性を改めて考えます。段取り作業の効率化に寄与する最新ツールや活用法、現場の効率アップを目指す金型メーカーの事例も取り上げます。

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