半導体新工場、2兆円の大型投資

米インテルが起死回生の大型投資で盟主復活を目指す。200億ドル(約2兆1800億円)を投じて半導体工場を新設し、半導体受託製造(ファウンドリー)事業への参入も表明。1990年代からのパソコン全盛期をけん引した王者だったが、スマートフォンが台頭した直近10年間はその勢いを失った。技術開発でも台湾積体電路製造(TSMC)などに後れを取る。バイデン政権の国内生産回帰政策に乗ってかつての輝きを取り戻せるか。(編集委員・鈴木岳志、張谷京子、高田圭介)

ファウンドリー参入 TSMCの牙城に挑む

インテルは米アリゾナ州チャンドラーに半導体の新工場を建てる。回路線幅が7ナノメートル(ナノは10億分の1)以下の製品を生産し、2024年から稼働を始める計画だ。

最近のインテルは苦境続きだった。20年には7ナノメートルの技術開発遅れが明らかになった。立て直しのために、元最高技術責任者(CTO)のパット・ゲルシンガー氏が21年2月に最高経営責任者(CEO)に就任した。ただ、ファウンドリー世界最大手のTSMCはすでに5ナノメートル品を量産しており、追いつくのは容易ではない。

今回の大型投資の背中を押したのは間違いなく米国政府だ。中国との技術覇権争いを繰り広げる中で、軍事用を含めた半導体の重要性を再認識してサプライチェーン(供給網)の見直しに乗り出した。

今後の社会経済を大きく変えうる人工知能(AI)や第5世代通信(5G)、IoT(モノのインターネット)技術の善しあしは半導体が握っている。まさに“国際戦略物資”だ。

トランプ前政権が同じアリゾナ州にTSMCの半導体工場誘致に成功したため、今回はそれに対抗したバイデン政権の動きとの見方も出ている。

米国には、自社工場を持たないファブレス半導体メーカーがクアルコムやエヌビディアなど数多い。そのため、米国内でのファウンドリー需要は他国と比べて高く、TSMCや韓国・サムスン電子、そしてインテルの新工場・増産投資は合点がいく。

一方で、国際戦略物資の重要性に気付いたのは米国だけではない。日本や欧州もTSMCなどの誘致を諦めていない。日本政府は競争力の高い製造装置や化学産業との連携をテコに工場建設を働きかける。欧州には半導体大手の独インフィニオンテクノロジーズやスイスのSTマイクロエレクトロニクス、蘭NXPセミコンダクターズがおり、当然ファウンドリーを活用している。

今や世界の勢力図が半導体を軸に大きく変わろうとしている。

「製造装置」活況続く

半導体の需要拡大を受け、半導体製造装置市場は活況が続いている。5Gの普及やデータセンターなど向けの先端半導体需要がけん引し、市場拡大が続く見通しだ。

エレクトロニクス関連の国際団体である米SEMIが20年12月に公表した市場予測では、21年の世界半導体製造装置販売額が前年比4・3%増の719億ドル(約7兆8500億円)、22年は同5・9%増の761億ドル(約8兆3000億円)。3年連続で過去最高を更新する見込みだ。

日本製半導体製造装置の世界シェアは3割。先端半導体の生産に欠かせない「極端紫外線(EUV)露光」の周辺工程でも、日本の装置メーカーの存在感は大きい。

最も重要な露光装置は蘭ASMLが市場を独占するものの、検査や感光剤(レジスト)の塗布・現像など周辺装置分野では日本勢が高いシェアを持つ。

東京エレクトロンは、EUV向けコータ・デベロッパ(塗布現像装置)でシェア100%。レーザーテックは、光源にEUVを使ったEUV露光用フォトマスク(半導体回路の原版)の欠陥検査装置で、シェア100%だ。EUV光は欠陥の検出感度が高いのが特徴だ。

インテルは新工場で、EUV露光装置を導入予定。周辺装置を手がける日本のメーカーにとっても、プラスになりそうだ。

日本メーカー、“失われた30年”

この30年間は日本の半導体メーカーにとっても“失われた30年”だった。現在、世界トップ10に入るのはNAND型フラッシュメモリー大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)のみ。

そのキオクシアは主力の四日市工場(三重県四日市市)で新しい製造棟を建設中だ。製造棟として同工場で過去最大規模となる。建屋と関連設備だけで約3000億円かかり、順次導入する製造設備を含め総額1兆円規模のプロジェクトだ。

イメージセンサー世界最大手のソニーも長崎県諫早市に建設中の製造棟の稼働開始が間近だ。大口顧客だった中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)との取引が米国の制裁で難しくなったが、稼働計画の大幅な変更はしないようだ。

一方、日本の半導体企業の代表格だったルネサスエレクトロニクスはこの10年間、工場の統廃合を優先し、大規模な設備投資をしてこなかった。得た資金はM&A(合併・買収)に振り分けて成長を目指した。同社は主力の那珂工場(茨城県ひたちなか市)の300ミリメートルウエハーラインで19日に火災が発生して今なお生産を停止中だ。1カ月以内の生産再開を目標として示したが、その実現性に懐疑的な声は多い。

政府も危機感 先端技術開発 外資にも門戸

半導体をめぐる不透明な状況に政府も重い腰を上げ始めた。経済産業省は24日に半導体業界やユーザー企業などを交えた検討会議を立ち上げた。梶山弘志経産相は冒頭に「時代の流れに日本だけが取り残されるようなことはあってはならない」と語気を強めた。5月までに製造・技術面の確立、データセンターなどのインフラ整備、ソフトウエアやITベンダーなど周辺産業を巻き込んだ基盤強化の方向性をまとめる。

背景には菅義偉政権が柱に掲げるグリーン化やデジタル化の流れに行き着く。温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す上で「経済と環境の好循環」を生み出す成長分野に半導体業界を位置付ける。経産省担当者は「知恵を生かせるなら外資も我々の施策の対象になる」とTSMCやインテルなどと水面下で日本への誘致を進めてきた。2月にTSMCは茨城県つくば市に先端半導体製造の技術開発拠点となる子会社の設立を表明した。

経産省は先端半導体技術確立へ新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発基金を20年度第3次補正予算で900億円積み増し、支援拡充へ動く。23日にはパイロットライン(試験ライン)設置による産業技術総合研究所など4者共同の前工程関連の製造技術開発に支援を決めた。一方で昨今の供給不足の対応に「様子見」(別の経産省担当者)とならざるを得ない状況も生じ、刻々と変化する対応の難しさもにじませる。


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