スーパーマーケットなどの小売店で、レジに並ばず決済できるシステムが急速に普及し始めた。イオンリテール(千葉市美浜区)やトライアルカンパニー(福岡市東区)などが、来店客がデジタル端末で商品のバーコードをスキャンしながら買い物できるシステムをそれぞれ構築し、導入店舗を増やしている。レジ待ちのストレスが解消される利点が来店客に評価され、各店舗の利用率は上昇している。新型コロナウイルス感染拡大による非対面・非接触の需要拡大もその追い風だ。

一方、コロナ禍はリアル店舗にとって向かい風にもなった。他人との接触を避けるため、滞在時間を減らす行動変容が起きたり、ネットスーパーの利用が増えたりしている。その中で、小売各社はレジレス決済機能を持つデジタル端末のさらなる活用により、リアル店舗に足を運ぶ価値を高める手段を模索している。(取材・葭本隆太)

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導入促進へ確信を得た

「これなら全国どこでも使ってもらえる」―。スーパーマーケット運営のトライアルグループで技術開発を主導するRetail AI(東京都港区)の永田洋幸最高経営責任者(CEO)は確信した。レジに並ばず決済できるカート「スマートショッピングカート(SSC)」について、首都圏で初めて導入したスーパーセンタートライアル長沼店(千葉市稲毛区)の利用率が3月までに40%程度に上昇したからだ。本社のある九州エリアでSSCを先行導入した店舗と遜色ない水準に達した。

SSCは、買い物カートにタブレット端末とバーコードリーダーを搭載している。商品のバーコードをスキャンし、かごに入れると商品の一覧や合計金額などをタブレット端末に表示する。トライアルのプリペイドカードを事前に読み込ませることで決済まで行える。

スマートショッピングカートに備え付けられたバーコードリーダーで来店客自らスキャンする

トライアルは業界に先駆け、18年2月にレジレス決済システムの導入を始めた。従業員の負担軽減やレジ待ちストレスの解消などを狙った。その結果、SSCの利用率は日ごと上昇し、来店頻度が導入していない店舗に比べて13.8%高まる効果も表れた。永田CEOは「買い物は本来、ストレス。SSCはそれを軽減できるため(非導入店舗よりも)来店しやすくなる」と推察する。

SSCは4月2日現在、35店舗で展開しており、21年度中には61店舗での導入を目指す。また、システムの外部販売も積極的に進める。すでに丸久(山口県防府市)に提供し、北九州市内のスーパーで利用されている。

驚きの効果が出た

スーパー大手のイオンリテールもレジレス化を加速している。貸し出し用の専用スマホで商品バーコードを読み込み、レジに並ばず決済できる「どこでもレジ・レジゴー」の導入を19年5月に始めた。22年2月末までに100店舗に広げる。近くアプリ化も行い、来店者自身のスマホで同様の機能が使える体制を整える。

レジゴーはスマホのカメラで商品バーコードを読み取る(左)。商品を一覧表示で確認できる(右)

レジゴーの利用率は15―25%。やはり、レジ待ちストレスの解消が評価されているが、思わぬ効果も表れた。顧客単価が15%程度上がったのだ。レジゴー推進役の山本実執行役員は、驚きを隠さない。

「導入3店目くらいで有人のレジに比べて明らかに(顧客単価が)高いと感じました。これまで20店舗以上で導入しましたが、いずれの店舗も二桁高い。(スキャンした商品を一覧表示できる機能の効果か)調味料など買い忘れが起きやすい商品の買い上げ点数が上がっています。導入当初はむしろ下がると予想しました。精算時に自らバーコードをたくさんスキャンしたい人は少ないですから(備え付けの)セルフレジは単価が落ちます。レジゴーもセルフレジの一種なので同じと考えていました。(売り上げを上げる効果があるということで)今では各店舗への導入を推進する上で重要な数字になっています」

戦略を大幅に変更した

コロナ禍による非対面・非接触の需要拡大は、SSCやレジゴーの利用拡大を後押しした。一方、コロナ禍を機に戦略を大きく変えた企業もある。マルエツやカスミなどを傘下に持つユナイテッド・スーパー・マーケット・ホールディングス(U.S.M.H)だ。20年3月に本格展開を始めたレジレス決済機能を持つスマホアプリ「スキャン&ゴー」の導入スケジュールを大幅に前倒しした。同社の満行光史郎プログラムマネジャーが明かす。

「コロナ禍によって顧客はもちろん、従業員の間にも(他人との)接触に対する不安が生まれました。当初は20年中にカスミの数十店舗で導入する想定でしたが、そんな悠長なことは言っていられないと。顧客や従業員の不安を解消できるならと、21年度中に原則全店(約520店舗)に導入するようかじを切りました」

導入店舗を一気に増やしているため、現在のスキャン&ゴーの利用率は1%弱に過ぎない。それでも「顧客にとって便利になるよう機能を充実すれば、利用率は上がっていく」(満行プログラムマネジャー)と展望する。その充実策の一つとして、22年2月までにネットスーパーの機能を持つアプリ「オンラインデリバリー イグニカ」との統合を計画する。

もう一つの顔

各社のレジレス決済システムはもう一つの顔を持つ。デジタル端末のスクリーンはメディアになり、メーカーの広告配信などに使える。来店客の購買状況などに合わせた商品提案ができる。

トライアルではすでに購買データなどに応じたクーポン付きの商品提案を行っている。例えば「ヨーグルト」のバーコードをスキャンすると、同時によく買われる「シリアル」を提案する。U.S.M.Hは利用者の年齢に応じたクーポン発行などを始めており、イオンリテールも実施を予定する。

ヨーグルトをスキャンすると、シリアル商品をリコメンドする(トライアルのSSC)

この仕組みにメーカーの関心は高く「店舗は顧客が商品に一番近い場所。買う直前に訴求できるメディアは魅力的」(菓子メーカー大手の担当者)といった声が上がる。

コロナ禍は来店客の買い物行動を変容させた。店舗での滞在時間は減り、ネットスーパーの利用は増えた(※1)。その中でも小売各社は、リアル店舗は新しい商品と出会えるなど「買い物体験を楽しめる場所」という特有の価値を持つと考えており、デジタル技術でそれを高めようとしている。手元のデジタル端末を活用した、よりよい商品提案はその手段の一つになると見通す。イオンリテールの山本執行役員が力を込める。

「日本には店舗に足を運び、新しい商品を発見したり、従業員と話をしたりする文化が根付いており、簡単には壊れません。だからこそ、コロナ禍を機にその文化とデジタル技術を融合させたい。(レジゴーを活用して)レジに並ぶストレスの解消だけでなく、例えば、よりよい商品の組み合わせを提案したり、来店客が探している商品の場所に自動で案内したりして、楽しい買い物体験を段階的に実現させたい」

大きな効果は出ていない

一方、来店客にとってそうした広告表示は、わずらわしいものにもなり得る。自分の購買データを基にマーケティングされることに不快感を感じる人もいる。

実は、トライアルはかつて購買データなどを活用したクーポン付き商品提案の機能を前面に、次世代のショッピングカートを構築しようと試みた。15年ころに実証実験を始めたが、「クーポンの利用は増えず、失敗だらけでした」(永田CEO)と振り返る。当時のクーポン付き商品提案は、必ずしもよい買い物体験にならなかった。

そして現在も「(クーポン配信による)効果は少しずつ出てきたが、大きな変化はない」(永田CEO)と明かす。その上で「どのようなクーポン(の出し方)が望ましいのか、検証を繰り返して精度を上げたい」と意気込む。

どのような商品提案が望ましいのか、はたまた、買い物中に手元にあるデジタル端末にどのような機能を持たせると買い物体験がよりよくなるのか、各社の試行錯誤は続く。

※1ネットスーパーの利用状況:コロナ禍における首都圏のネットスーパーの受注件数は前年比で大幅に増えた。流通経済研究所(東京都千代田区)の調査によると、20年2―10月まで毎月おおむね前年比3割以上増えており、最も伸び率が高かった4月は同165.8%だった。

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