2023年に創業100周年を迎えるタイガー魔法瓶(大阪府門真市、菊池嘉聡社長)。保温と加熱の熱コントロールのコア技術を武器に、電気ケトルや土鍋炊飯器など数々のロングセラー商品を生み出してきた。企業理念「本質をきわめた独創性」のもとで、商品開発で積極的に知財投資をする。(大阪・池知恵)

ブランド確立

土鍋一筋15年―。これまで50以上の特許を取得してきた炊飯器の土鍋シリーズは、06年からの累計販売台数が100万台を突破した主力商品だ。ステンレスや金属と異なり、陶器のため熱伝導性を高めることが難しく、各社が開発を断念する中、技術開発に磨きをかけてきた。今では「土鍋といえばタイガー」と言われるまでにブランドを確立した。

一方、ここまでの成長には紆余(うよ)曲折があった。法務知財チームの高田宏マネージャーは、「炊飯器などの調理家電は技術面での革新的な進歩がなく、特許技術が取得しにくい状況だった」と明かす。実際、ここ10年で特許出願数は減り、技術を権利化で保護しにくい現状がある。そこで特許で権利化できない部分を、意匠や商標で補う知財ミックスの戦略を強化した。

土鍋で米粒同士が傷つかずにふっくら炊き上がる技術の一つに、泡を作る「波紋底」がある。コメを炊いた際に対流させ、細かな泡を発生させるために、鍋底に波紋をデザインした。その波紋の形状や数、間隔などを全体のデザインとして意匠を権利化した。

高火力と遠赤効果、泡立ちでおいしく炊き上げる(土鍋釜の内部)

他にも、商品や機能のネーミングには特に力を入れる。料亭のような炊き上がりができる機能「一合料亭炊き」や「ご泡火(ほうび)炊き」といったユニークな機能名がそろう。こだわりの理由として、「『タイガーといえばこれ』、というブランドの確立に非常に重要な役割を果たした。顧客の購買動機にも強くかかわる」(高田マネージャー)と語る。

土鍋シリーズに関していえば商標は100件以上にのぼる。調理家電は競合が多い分野のため、商品の形やデザイン、機能性、ユニークな商品名が顧客を引きつけるためだ。

“こと”の開発

商品のデザイン力強化は海外展開にもいきた。ここ10年で全体の売り上げに占める海外比率が約10%向上し、知名度を上げつつある。中国では、炊飯器の中でおかずも同時調理できる土鍋炊飯器を販売する。おかずを入れるクッキングプレートは、ごはんの上に汁が垂れない構造になっており、その品質の高さが好評を博している。

意匠と商標に力を入れ、商品の独自性でブランドを確立してきたが、現在は「“こと”の開発に力をいれている」(同)。アプリケーション(応用ソフト)を活用し遠隔で炊飯の操作をするなど、近年はソフト面のサービスを充実させつつある。ただ自社にリソースがないため、「他社の技術を活用し自社製品に生かす」(同)など知恵を絞る。

20年に新オフィスに移転した。オープン空間で社員の創造性を高める仕掛けも作る。今後もデザイン性と独自性を追求し、他社との差別化を図る。