脱炭素社会の実現に向け、政府は2030年代半ばまでに国内新車販売全てを電動車にする目標を打ち出した。そのけん引役は電気自動車(EV)であり、中でも性能を左右する電池技術の行方が注目される。次世代の全固体電池だけでなく、主流のリチウムイオン電池をしのぐ「革新型蓄電池」の開発も進む。戦後から電池開発を先導し、企業に橋渡ししてきた産業技術総合研究所関西センター(大阪府池田市)も革新型蓄電池に取り組む。

産総研関西センターではEV用次世代電池で複数の開発プロジェクトが進む。中でも注目は、16―20年度に実施された新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の産学連携プロジェクト「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発(RISING2)」だ。「亜鉛空気電池」「コンバージョン電池」など4つの革新型蓄電池をターゲットに、京都大学と同センターが中核開発拠点となった。

RISING2で掲げたEV用電池の開発目標は、エネルギー密度が1キログラム当たり500ワット時以上、1充電走行距離では500キロメートル以上だ。「全固体電池の先を見据えており、電極材料もがらっと変えて開発を進めている。30年代にEV搭載を目指したい」。同センター側でプロジェクトを引っ張る次世代蓄電池研究グループ上級主任研究員の栄部比夏里氏は意欲を見せる。

同センターで取り組んだ電池の一つが、正極に硫黄とバナジウムなどの金属を、負極にはリチウムを使う「硫化物電池」だ。硫黄は資源が豊富で安価、軽くて容量も大きいと電池材料で注目される。

ただ硫黄成分が溶出し、電池容量が劣化する弱点があった。これを金属と硫黄を強く結合させ、硫黄を逃げにくくする構造にする金属多硫化物を開発した。結果、電解質への溶出を大きく抑制した。

硫化物電池は理論エネルギー密度で現行のリチウムイオン電池の4倍程度とされる。「試作セルでは1キログラム当たり、500ワット時にめどをつけた」(栄部氏)。今後はメーカーへ橋渡ししつつ、改良を進めていく。

技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(大阪府池田市)が主導し、産学のオールジャパン体制で行う、EV向け全固体リチウムイオン電池の開発プロジェクトにも参画する。

産総研関西センターでは、13年から硫化物系全固体電池の独自開発を進め、17年に2センチメートル角のシート状全固体電池を開発した。実際に発光ダイオード(LED)などを光らせる性能をもつ。開発にかかわる蓄電デバイス研究グループ長の倉谷健太郎氏は、「我々が積み上げたシート化技術で、全固体電池に貢献したい」と意気込む。

電池の開発は、計算技術の発達で構造解析や材料開発の効率化が進む。ただ「最後は人海戦術で課題を一つずつつぶす作業が必要。それが面白くもあり、しんどさでもある」と倉谷氏は語る。栄部氏は「(同センターは)電池の電気化学反応を分かっている人が多いのが強み。日本企業の競争力が高まる技術を提案したい」と強調する。 (取材=大阪編集委員・広瀬友彦)
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