体の不調を一人で我慢していませんか。女性の社会参画が進むにつれ、働く女性たちの健康問題をプライベートなことと片付けず、組織として配慮する企業が増えてきた。これまでは、月経・妊娠・更年期といった話題は職場ではタブー視され、それにまつわる悩みは個人で対処するもの、と置き去りにされてきたが、女性の力を最大限に発揮してもらうため、「フェムテック」を活用して心身状態の改善を図ろうとする企業の取り組みが始まっている。

女性の心や体の健康にフォーカスし、女性も働きやすく、多様な個人が生き生きと輝ける社会を実現するためにはどのような課題があるのか、その課題に対してフェムテックがどう貢献できるのか、先進的フェムテックスタートアップ企業による製品・サービス開発や企業の活用事例などを通じて探っていく。

女性の心身の悩みを技術力で解決する

フェムテックとは、テクノロジー(技術)を用いて、女性の健康問題やライフスタイルの課題を解決するために開発された、ソフトウエア、診断キットなどの商品やサービスをいう。「female(女性)」と「technology」を組み合わせた造語で、デンマーク出身の女性起業家であるClueのイダ・ティン最高経営責任者(CEO)が、自身の開発した月経周期予測アプリへの投資を募るため、使い始めたのがきっかけとなり、2016年ごろから広がってきた言葉だ。全人口のほぼ半数を占める女性特有の悩みを解決するという点で注目され、今後の市場拡大への期待とともに、投資も徐々に増加している。

働く女性の心身の不調によりどのような影響が見られるのか。女性自身が辛い思いをしていることは言うまでもないが、実は個人の域を超えて社会にも、さまざまな負の影響が発生しているとの結果がある。

例えば、月経にまつわる経済的社会的損失が挙げられる。月経随伴症状に伴う体調不良による労働損失や、医薬品・通院にかかる費用など1年間の経済的負担は、約7000億円にのぼるという(経済産業省ヘルスケア産業課「健康経営における女性の健康の取り組み」(平成31年3月))。

また、女性のキャリアに関しては、不妊治療との両立困難による雇用形態の変更や離職、更年期症状を理由とする昇進辞退や退職など、ライフイベントを原因として、キャリアプランを断念してしまうことがある。例えば、仕事と不妊治療が両立できずに仕事を辞めた女性の割合は22・7%、また、両立できずに不妊治療をやめた女性の割合は9・7%と、合計で32・4%にものぼる(厚生労働省「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」(平成30年3月))。女性特有のさまざまな心身の変化と不調が、目指すキャリアの実現のハードルを上げていることがうかがえる。

フェムテックの誕生は、こうした女性特有の課題に対処したいという思いが背景にある。では、フェムテックはどのような解決策をもたらしてくれるのか。

女性が女性自身の体と向き合う

エムティーアイ ルナルナ事業部の那須理紗副事業部長は、「女性自身が体のことについて学ぶ機会が少ない。正しい知識を身につけることが大事」と指摘する。

生理痛やPMS(月経前症候群)で悩んでいる女性は多いものの、「生理痛を病気として捉えていない方が多い。女性だからこの痛みと付き合っていくのは当たり前と考えてしまう」という。生理痛を誰かと比べることも難しいし、そもそも病気であると思っていないと通院とも結びつかない。「生理は、ホルモンの変化によって、体調も変化するメカニズム。決して、女性のきまぐれなどではない。きちんとした体のメカニズムだということを理解することが大事」とし、まずは女性が女性自身の体について、知識を身につけることが第一歩になると話す。

同社の提供するフェムテックサービスは、女性が自身の月経周期を管理し把握することにより、体と向き合い正しく知ることをサポートしている。

男性も女性の健康問題について知ることが重要

さらに、日本総合研究所の小島明子創発戦略センタースペシャリストは、女性の健康問題の解決には、「女性の皆さんが声をあげることは大切。でも、それだけでは立ちゆかない。男性からも目を向けることが欠かせない」と強調する。

最近、男性上司や同僚が女性の健康について知る機会を設けるため、かつては女性社員向けの内容だった研修を男性社員にも行う企業が増えている。一般的に女性は、体の変化や不調など男性上司には話しづらいものだが、「研修を通じて、男性管理職の理解が進むことで職場環境が改善される。例えば、以前は、男性が多い建設現場では男女兼用のトイレしかなく、女性がトイレに行きにくい状況があった。研修の成果により、女性専用トイレが設置されるなど、男性の意思決定者の理解深化により、女性の体に配慮した働きやすい環境づくりが進んでいる」(小島スペシャリスト)。

男性が女性の健康に関する正しい知識を高めていけば、女性の置かれた状況を理解しやすくなり、職場での女性の接し方や健康問題への対応が改善するだろう。

フェムテックの中には、男性に対して女性の心身の状態を伝え、理解を促す製品やサービスもあり、これらをうまく利用することで、ストレスなく理解増進できるようになることが期待される。

日本の事情に応じた課題を明確化して、女性の健康問題を解決に導く

フェムテックの活用には、どういった課題があるのだろうか。

女性の健康相談に応じるオンラインサービスを提供するKids Public産婦人科オンラインの重見大介代表はこう語る。

「国によって、規制はかなり違う。例えば、英国や中国はオンライン診療が盛んで、1日でオンライン診療件数が数万件に達している。特に、英国はすべての診療機関を対象に、オンライン診療に関わる設備費用を国がまかなうなど徹底している」

「ただ、それぞれ国の事情もあり、日本は日本にあった形で広げていけば良い。女性の体の特徴はもちろん、家族やパートナーとの関係、医療体制など、必ずしも欧米諸国を真似すれば良いというわけでもない。例えば、産後うつなど女性の悩みや、低用量ピルが十分に活用されていないなど、日本の課題を明確にして、必要なものをそろえていくことが大事だ。政府が課題とともに、解決策や方向性を提示して、医療機関や自治体、民間企業・団体にそれぞれの役割を提示してもらえるとありがたい」と述べ、政府に対して、フェムテックをより使いやすくするような支援を希望した。

働く人、企業、国の三位一体の取り組みが不可欠

働く女性が健康課題とうまく向き合い能力を発揮するためには、女性だけでなく、男性も女性の健康問題について正しい知識を持ち、理解を深めていくことが大事だ。また、企業も、より柔軟で多様な働き方に対応した職場環境づくりを進めていく必要がある。このため、新たに登場したフェムテックというツールをいかに使いこなせるかが大きなポイントとなる。政府には、個人や企業のこうした取り組みが円滑に進展するよう、適切な後押しが求められている。三位一体の取り組みが、一人ひとりが個人の幸福(well-being)を実現できる社会の鍵を握りそうだ。


【METIジャーナル】の本文はこちら