都市間を“空の道”でつなぐプロジェクトが動きだす。先端ロボティクス財団(東京都中央区、野波健蔵理事長=千葉大学名誉教授)と千葉市、横浜市は17日、飛行ロボット(ドローン)で東京湾を縦断する長距離飛行の実証実験を21日に実施すると発表。千葉市―横浜市を飛行する計画で、飛行距離は約50キロメートルと大都市圏では世界最長になるという。野波理事長は「飛行機と船舶が行き交う東京湾の縦断飛行に成功すれば、ニューヨークや上海など世界の大都市上空の飛行が技術的に可能なことが実証される」と期待をかける。(千葉編集委員・中沖泰雄、編集委員・嶋田歩、千葉・八家宏太、横浜・市野創士)

カイト翼で長時間飛行

当日は9時に横浜市金沢区幸浦を離陸し、10時に千葉市美浜区の稲毛海浜公園に着陸する。航空機と船舶が発信する位置情報などをドローンが受信し、これを基にルートを設定。羽田空港を離着陸する航空機や東京湾に停泊する船舶上空を回避しながら自律飛行する。10日に実施した電波通信テストでは今回のルート飛行に成功した。千葉県と神奈川県は東京湾岸道路や東京湾アクアラインで結ばれているが、実験では渋滞のないルートで両政令指定都市をつなぐことになる。

実験は無人地域での目視外飛行であるレベル3で行う。時速50キロ―60キロメートルで高度100メートルを飛行する。使用するドローンはスカイリモート(熊本市中央区)製で、カイト(たこ)状の翼を搭載するカイトプレーンと呼ばれる機体。カイトの使用によって長時間飛行が可能で、ドローンが故障した場合でもカイトが抵抗力となり落下速度を落とし、安全性を確保できる。

今回の飛行が成功すれば今秋から新型機で東京湾縦断飛行を再開し、横浜市―千葉市間を複数回飛行して機体の信頼性と安全性、耐久性を検証する。川崎市―千葉市間など新たな地点での飛行や、複数のドローンによる編隊飛行といった計画もある。2023年春以降にはドローンによる物流を事業化する考えだ。

野波理事長は「東京湾上空でドローン物流ハイウエーを構築するなど、まずは世界から一目置かれるドローン物流を日本で構築する」と抱負を述べた。今後は大規模災害時の被災地調査や救援物資搬送、過疎地域への宅配など可能性を総合的に検証していく。

千葉市の戦略 ドローン産業の成長拠点形成

千葉市は16年に国家戦略特区の指定を受けた。幕張新都心(千葉市美浜区)で「近未来技術実証・多文化都市」実現に向け、ドローンによる宅配など先端技術の実証実験を実施してきた。実験フィールドの整備や企業立地補助などを通じ、関連産業の集積を目指している。

市はドローン活用を推進するため、18年3月に国と共同で「ちばドローン実証ワンストップセンター」を設置。法令上必要な手続きに関する情報提供や関係各所との調整など、実証実験に意欲を持つ事業者を一元的に支援している。これらの支援で整備した環境をテコに、宅配や物流などの実証実験を進めてきた。

また、千葉大学が19年に設立した「千葉大学インテリジェント飛行センター」では、動物の動作に着想を得た次世代型ドローンの研究や関連人材の教育など、ドローンが産業として成長する土壌を整えている。

実証実験に使用するドローン

横浜市の戦略 ドローン活用社会モデル構築

横浜市は実証実験に「I・TOP横浜実証ワンストップセンター」を通じて参加する。ドローンの離陸場所は、ESR(東京都港区)が所有するディストリビューションセンター(物流施設)の計画地。将来はここがドローンの一大発着地になるかもしれない。

I・TOP横浜は、企業が人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)、小型無人機などを活用した実証実験を希望する際、関係機関との調整をワンストップで行う。今回の実証実験でも各種の調整を行った。

横浜市を含む神奈川県は東京圏国家戦略特区の一部。地域を挙げてイノベーションを推進しており、県は19年度に23事業を「ドローン前提社会の実現に向けたモデル事業」に採択。20年度は「ロボットプロジェクト推進事業」として、綜合警備保障(ALSOK)によるドローンを用いた「河川維持管理ソリューション」を選んだ。21年度も1件程度を採択予定で、ドローンを活用した新しい社会の実現を目指している。

ドローンの都市間飛行のノウハウ蓄積によって、離島・山間部への輸送もさらに容易になる

拡大する市場 本格普及には時間、自治体の財政支援必要

ドローンをめぐっては、有人地帯上空の目視外飛行を可能にする航空法改正案が、6月に参議院本会議で可決された。ただ、有人地帯上空の飛行には搭載荷物落下や機体の墜落リスク、住民のプライバシーへの配慮、騒音など課題は多い。規制緩和で市場が広がるのは確かだが、活用範囲は一部に限られるため、本格普及には時間がかかりそうだ。

現時点でドローンの利用や実証実験が進むのは離島や山間部、過疎地への物資輸送に加え、老朽化した橋げたなどのインフラ点検、水田で農薬や肥料をまく農業用、観光地の景色撮影に使う空撮用などだ。世界ではこれ以外に軍事用途や警備用途での活用が進む。

過疎地物流やインフラ点検で共通するのは周辺に施設や住民が少なく、上空飛行のプライバシーや騒音問題に悩まされる可能性が低いことだ。ただ、山間部や過疎地では1日の利用件数は自ずと限られるため、物流費にドローンコストを上乗せできるかという課題がつきまとう。商用サービスの導入に向けたハードルは高いのが実情だ。

一方、緊急手術の輸血用血液や離島への物資輸送など、コストを度外視してもドローン輸送が有利なケースはある。いずれにせよ、生活インフラを維持するコミュニティーバスのように、自治体による財政面の支援が必要になりそうだ。

山奥の橋げたや送電線などのインフラ点検、コンビナートの煙突やプラント点検、農業などは利用者がはっきりしているため、こうした問題は少ない。人手不足と高齢化を背景に、これら市場は成長が見込める。