水素100%直接還元製鉄を目指す

鉄鋼大手3社は、2050年の脱炭素に向けた技術開発を本格化する。大本命の水素100%直接還元製鉄を目指しつつ、移行期の技術として二酸化炭素(CO2)を減らす技術、電炉の大型化などに取り組む。人口減や海外の地産地消に伴う鋼材需要減が見込まれる中「量から質への転換」に迫られ、中国勢などとの競争も激化する。脱炭素には巨費が必要で、各社はさまざまな知恵やノウハウを持ち寄るなど連携の加速が欠かせない。(編集委員・山中久仁昭)

コストかかり、収益化遠く

高炉休止などで生産能力の過剰分を削り、製品単価や高付加価値品比率を高めて収益を改善し、脱炭素のための財源を確保する―。日本製鉄、JFEスチールなどが21年度に始動した新たな経営計画は、こんな共通した方向性を持つ。自動車や産業機械向けを中心にコロナ禍の影響から需要が持ち直し、業界は業績回復にまい進している。

こうした中、脱炭素は重い経営課題だ。鉄鋼業界からのCO2は日本の排出総量の約14%、産業部門だけで見ると全体量の約4割を占める。中でも高炉で鋼をつくる大手3社のウエートが高い。当初2100年としていた業界の脱炭素目標は、20年の政府方針に沿って50年前倒しされた。経営計画にCO2削減目標を盛り込み、日本製鉄は30年度に13年度比30%、神戸製鋼所は同30―40%減らす。JFEスチールも24年度に13年度比18%削減する。

水素活用に時間…電炉で“つなぎ”

脱炭素には多額の費用を要するが、生産コストの低減や付加価値向上にはつながらないという。日鉄は研究開発に5000億円規模、設備の実用化には4兆―5兆円規模がかかると試算。JFEスチールは30年度までに約1000億円の研究開発費が必要と読む。日鉄の橋本英二社長は「前人未到の革新技術が必要」と強調。各社首脳は50年までの道のりと足元の需要対応を勘案し「複線的なアプローチが欠かせない」と口をそろえる。

最終目標である100%水素還元には、水素の吸熱反応で奪われる熱の補償など多くの課題を解決しなくてはならない。ゼロからの出発とはいえ、大手3社は前段階の研究を続けてきた。

過去10年超、製鉄所で生じた水素を活用しCO2排出を30%削減する国家プロジェクト「コース50」に取り組む。この延長で今後は外部の水素でCO2を一段と削減する「スーパーコース50」も予定している。

「コース50」の試験高炉(日鉄君津地区内)

3社、技術・ノウハウ総動員

各社は100%水素還元までのつなぎの一手段として、電炉で高級鋼の生産を目指すと表明した。いわば高炉と電炉のハイブリッド戦略。石炭由来のコークスを使う“悪者扱い”の高炉に対し、電炉は電気を使うためCO2の排出が少ない。ただ、得意とする高級鋼の生産には、原料の鉄スクラップに含まれる不純物の除去、生産性を考えた炉の大型化が不可欠となる。

さらにJFEスチールは高炉排ガス中のCO2を水素と反応させてメタンを合成(メタネーション)し、還元に使う「カーボンリサイクル高炉」、神鋼は100%子会社の米ミドレックスが開発した還元鉄のソリューション展開を掲げるなど、独自色を打ち出している。長年培ってきた技術やノウハウを総動員して脱炭素に立ち向かう決意の表れである。

オールジャパン 対中国で連携、競争力底上げ

注目されるのが国の対応だ。これにより、水素の低価格・大量供給の体制確立、技術支援は進むのか―。経済産業省は2兆円のグリーンイノベーション基金を使い、製鉄会社の研究開発を支援する。今秋の公募では業界から複数の技術テーマが提案される見込み。

一見異なるテーマも水素関連技術として括れるが、どの技術が有望かは官民とも見当さえつかないのが現状だ。基金枠には当然限りがあり、各社は提案内容を吟味している。

“外圧”の感もある脱炭素だが、日鉄の橋本社長は「中国勢などに対し、競争力回復の観点から大きなチャレンジとなる」と前向きだ。JFEスチールの北野嘉久社長は「現高炉法でのCO2削減が急務。オールジャパンで取り組まなければいけない」、還元鉄技術を持つ神鋼の山口貢社長は「当社の鉄鋼生産の知見を生かせる」との認識を示す。

神鋼子会社が受注しアルジェリアに建設した直接還元鉄プラント

業界にとって最大のライバルは世界の約6割の粗鋼を生産し、存在感を高める中国勢だ。中国政府は鋼材輸出時の増値税の還付撤廃、脱炭素の取り組みを促す環境規制で、過熱気味の生産を抑える政策をとっている。だが、多少“修正”されたとしても鋼材の高水準な生産は続きそうだ。

中国の旺盛な鋼材需要が鉄鉱石や石炭、鉄スクラップの価格高止まりを招き、世界の鉄鋼メーカーは製品への価格転嫁に懸命だ。中国の国営製鉄所は圧倒的な資金力を武器に、脱炭素でも覇権を握ろうとしている。

これまで世界的な技術開発力を自負してきた日本勢はコロナ感染が続く環境下、国や業界、個社といった各レベルでの開発の加速化が求められる。前人未到の技術、巨額の投資、グローバル競争を乗り越えるには「従来にない発想で業界内の連携を進めることが欠かせない」(業界関係者)との指摘もある。脱炭素が新たな業界再編の端緒になる可能性は否定できない。

私はこう見る “全日本鉄源会社”設立を

 

【SMBC日興証券シニアアナリスト・山口敦氏】

鉄鋼業界の脱炭素に向けた技術開発には巨額の資金が必要で、効率化とは無縁の世界だ。現時点では複線的に取り組むしかなく、寄り道をしても最適解を得ないといけない。資金がかさむから大手3社は協力する方が良い。かねて「コース50」など国家プロジェクトで連携するが、今回は「メタネーション+CCUS(CO2回収・利用・貯留)」「天然ガス使用の直接還元鉄」など各社のテーマはバラバラ。手を携えて研究・検証を行い、良い方法で市場に物を出していくべきだろう。

脱炭素は業界再編の契機になる。余剰生産能力をなくし、粗鋼を競争力のあるところに集約し生産する“全日本鉄源会社”を共同で設立することを提唱したい。組むべき部分で組み、下工程部分で競争していけば収益は高まる。

国は鉄鋼業が大事というなら、独占禁止法の弾力的運用などをすべきだ。世界首位の宝鋼集団の開発投資は、中国政府がすべて拠出している。日本が脱炭素競争に負けたら経済の安全保障が揺らぐ。政府は水素の供給などを含め、しっかり支援する必要がある。技術開発の成果としての低炭素鋼材には税金を上乗せするなど、顧客から開発費用を回収する仕組みは考えられると思う。(談)