無線通信技術の発展と拡大により、我々の身のまわりには電波を利用したさまざまな機器があふれている。そして無線機器からの電波は電波防護指針に基づき、人体に悪影響を及ぼさない範囲で利用されている。しかし、欧州の一部では第5世代通信(5G)携帯電話からの電波に対する健康不安が、5Gの展開の障害となっているという情報もあり、わが国でも一部には不安の声があがっている。

このような不安の理由の一つとして、電波は確実に身のまわりにありながら、目に見えないためにどのような強さなのか分からないということがある。そこで、さまざまな発生源からの電波環境を網羅的に把握してデータを蓄積し、電波ばく露レベルの情報を広く提供できるようにすることが求められている。本研究はこのような目的で、2019年度に開始された。

これまでに首都圏の市街地2カ所と郊外2カ所、都心の地下街で、電波ばく露レベル分布の測定を行い、同じ場所で05年度と06年度に総務省が報告した測定結果との比較を行った。その結果、前回測定時から特に地下街では電波ばく露レベルの増加が確認されたが、その大きさは電波防護指針値の数千分の1以下であるといったデータが蓄積されつつある。

また、家庭内では携帯電話基地局よりも無線LANアクセスポイントからの電波ばく露が大きい場合があること、ただしその大きさは電波防護指針の1万分の1程度にすぎないことなどが明らかになっている。21年度からは、電波環境モニタリング用電測車により、数万キロメートルの走行距離に及ぶ広範囲の測定を実施中である。

これまで携帯電話端末からの電波と疾病の関連について、多くの疫学研究が行われてきたが、実際の電波ばく露量に関する情報が著しく不足した中で評価がなされてきた。本研究は、電波の安全性に関する疫学研究のばく露評価にも役立つものであり、電波の安全・安心な利用に貢献することが期待されている。

電磁波研究所 電磁波標準研究センター・電磁環境研究室 上席研究員 多氣昌生
1981年東京大学大学院博士課程修了。東京都立大学勤務を経て、19年同名誉教授。同年より現職。生体電磁環境、生体電磁気学の研究に従事。工学博士。