最新ロジック半導体は最小加工寸法5ナノメートル(ナノは10億分の1)で製品化され、半導体メモリーも積層化でコストが下がり、1ビット当たり1ナノ円間近だ。しかしメモリーノード(ノードとはプロセッサとメモリーの対)を縮小するには電荷容量の限界があり、10―20ナノメートル以下は難しい。

折しも量子ナノマテリアル活用の波が到来する中、我々が興味を持っているのは1粒の直径が約1ナノメートルのフラーレン(C60)だ。現在は、化粧品などに用途が限られるが、1ナノメートル殻が完全に再現性よく合成でき、安定であれば、電子スイッチ材になる。そこでフラーレンを溶解した溶液からフラーレン結晶ナノ細線を作り、電極を二つ付けた。

結晶細線は絶縁だが、電子線を当ててポリマー化すると導電性が得られる。この細線に電流を流すと負性抵抗が観測され、ナノ細線の抵抗が高抵抗と低抵抗で自在に切り替えられることを初めて見いだした。現象の解析から、ポリマーをつなぐフラーレン一つが接合をつなぐか、切り離すかでスイッチが起こることを説明できた。

このスイッチは室温で2ケタの抵抗変動で1000回の繰り返し使用に耐えられるので、不揮発性メモリーとして機能する。昨今のメモリーと比較してもノイズレベルの安定性がケタ違いに良い。現在はこの原理実験と、同時に進められている単フラーレンに付けた電極とフラーレンの接続に関する接触研究の成果を併せ、1ナノメートルメモリーへ挑んでいる。一連の研究は千葉工業大学の菅洋志教授、東京工業大学の金子哲助教と共同で進めている。

【ビット社会貢献】

未来エレクトロニクス研究は、材料主体の基礎研究と思われがちだが、単に新材料をつなぐだけでは、微細加工した固定電極間で動作させることはできない。用途に合わせて誘導体やリソグラフィーを組み合わせ、結合の化学や電荷移動の特性を設計に取り込み、無機・有機界面を調整する必要がある。それでようやく、超高真空を使うことなく室温で動作する量子ナノマテリアル素子の一つの可能性にたどり着ける。

米国のクリントン元大統領は2000年の国家ナノテクノロジー戦略で「議会図書館の蔵書全てを角砂糖1個分の記憶素子に収容する」と述べた。それには数ナノサイズで1ビットを表現するシステムが要る。1粒でスイッチできるフラーレンなら、100万個用いても数ナノ円。ナノサイズの極小物質は拡大を続けるビット社会の多様化と複雑化に貢献できる可能性を秘めている。

◇物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 MANA主任研究者 塚越一仁
大阪大学博士後期課程修了(理学)。英キャベンディッシュ研究所客員研究員、英・日立ケンブリッジ研究所、理化学研究所、産業技術総合研究所を経て現職。研究対象は原子膜・有機膜・酸化膜のナノエレクトロニクス。