中国での石炭火力の発電抑制による電力不足問題が、原材料価格をかく乱している。現地では電力を大量消費する非鉄金属の精錬所が減産に追い込まれ、車載用アルミニウム合金の添加剤などに使うマグネシウムや金属シリコンの相場が急騰。日本のアルミ合金メーカーは年明け以降の材料調達にめどが立たず、警戒感が高まっている。温室効果ガスの排出削減を急進したことによる今回の混乱は、脱炭素社会への移行期にある国際経済の課題も浮き彫りにしている。

【環境政策前のめり】石炭火力抑制が引き金

中国では9月以降、電力不足が深刻化しており、製造業が集積する広東省や江蘇省をはじめ広範囲で経済活動が制約を受けている。中国政府が6月と8月に、エネルギー消費の削減目標に未達の地域を公表して対策強化を指示し、電源構成の6割以上を占める石炭火力発電が抑制されているためだ。

習近平国家主席が2020年の国連総会で、30年までに二酸化炭素(CO2)排出量をピークアウトさせることなどを表明したため、強力な措置が即実行に移されている。目標年限までは余裕があるものの、「(13年に国家主席に就任した)習近平氏の一強体制が地方当局の忖度(そんたく)につながり、政策が効き過ぎている」(大和総研の斎藤尚登主席研究員)との見方もある。

さらに中国では、景気の復調で電力需要が増える一方、炭鉱の安全規制の強化による石炭生産の頭打ちや、外交関係が悪化した豪州からの石炭輸入の停止などが重なって、石炭が供給不足に陥った。中国の石炭需要の約9割を占める国内炭の生産量は、6―8月が前年同期比0・6%減の9億7260万トンにとどまり、9月中旬時点の石炭価格は年初比約4割高の1トン=1137元と急進。コスト増を吸収できない電力会社が発電量を抑制している。

特に電力不足の影響が大きかったのが、精錬工程の電力消費量が多く、かつ中国の世界生産シェアが7―8割程度と大きいマグネシウムと金属シリコンだ。生産減で需給が逼迫(ひっぱく)したマグネシウムの中国輸出価格は、9月下旬に少量の取引ながら前月比約2倍の1トン=8000ドル近辺と暴騰したほか、金属シリコンは売り手の提示価格が同約3倍の同1万ドル台をつけて売買が成立しない事態に陥った。

いずれも自動車向けアルミ合金の強度を高める添加剤などに使われており、日本企業の材料調達に支障が生じる恐れが高まっている。マグネシウムの主要産地の中国陝西省楡林市では、当局が精錬所に年末までの生産削減を命じており、「命令が撤回されないとマグネシウムは中国から出てこない」(非鉄金属商社タックトレーディングの上島隆社長)とみられている。

また、国内アルミ2次合金メーカーからは「10―12月期分の金属シリコンは手当て済みだが、年明け以降の分は調達できたとしても高値となり厳しい状況だ」との声がある。マグネシウムを含め産地が中国に集中しているため代替調達先の確保も難しく、供給網の混乱が危惧される。

【選別色強まる】アルミ高止まり/銅下値探り

中国の電力不足問題を受けて、自動車や電子機器、建材など用途の広い銅やアルミの国際相場では選別色が強まった。経済活動の停滞による原材料需要の減少を懸念して銅相場は弱含む一方、精錬工程の電力消費量が多いアルミの相場は生産減も意識されて高止まりしている。

車載部品などに加工される銅は需要減速の懸念がくすぶる

銅の国際相場は足元で年初比約2割高の水準で推移し、9月以降は下値を探る局面が増えたが、アルミは足元でも高値を維持して同約4割高近辺の値動きだ。暖房需要が増加する年末に向けて電力需給の一段の逼迫が見込まれる中、「アルミ精錬への電力供給が増えることは想定しにくい」ため、当面はアルミ相場の下値は限定される展開があり得る。

一方、中国景気の先行きに対しては減速懸念がくすぶる。三井住友DSアセットマネジメントは、中国が「目先の経済成長率の維持よりも、地球温暖化対策など中長期の改革を重視する姿勢に転じた」(市川雅浩チーフマーケットストラテジスト)ことを踏まえ、中国の21年の実質国内総生産(GDP)成長率見通しを8・3%から8%に引き下げた。

ただ、中国の電力供給制約は長期化が回避される可能性もある。電力や石炭の不足は、企業活動のほか中国北部などの一般家庭の暖房にも支障を来すため、中国政府は「市民の不満解消のためにも、電力会社の赤字を補填する補助金や電力料金の引き上げといった対策を講じると予測され、電力不足は短期的な問題にとどまる」(大和総研の斎藤氏)との見方もある。

直近では、中国政府が石炭や天然ガス開発の企業に生産拡大を要請するなど電力需給の緩和に動きだしており、今後の当局の対応が注視される。

【LNGも争奪戦に】化石燃料との併用に知恵を

地球温暖化対策と経済成長維持による利益が交錯する今回の電力不足問題は、「(エネルギーの)供給減少による価格上昇と、価格上昇による景気悪化が同時に進行するスタグフレーション(景気停滞下のインフレ)が意識される状態」(マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代表)にもなった。

低炭素エネルギーでLNGの人気が高まっている(LNG運搬船)

足元では、低炭素エネルギーとして重要な役割を担う天然ガスの相場も、欧州や中国での需要増大などを背景に高騰している。液化天然ガス(LNG)は、コロナ禍で遅延したプロジェクトが25年頃に供給を開始して需給の緩和が見込まれるが、30年にかけては脱炭素要求の高まりなどを背景に「新規プロジェクトが停滞し、需給は再びタイト化する」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構の白川裕調査役)との見方もある。

脱炭素社会へシフトする過程では、再生可能エネルギーの導入を進める一方、化石燃料の安定供給を確保して経済負荷を低減する巧みな戦略が求められる。上流権益の確保やCO2の回収・貯留(CCS)技術の開発など、化石燃料の継続利用にも知恵を絞る必要がありそうだ。