製品コストの中で、部品コストと金型コストは設計者しか管理できないコストであり、コストを見積もることと、それを企画から量産開始まで管理することは、製品化においては必須の業務である。量産開始時に部品コストが、企画と設計構想で決めた値より高くなっていると判明すると、売れば売るほど損をしてしまったり、設計し直しになってしまったりする。そうしたことをなくすため、コスト管理を行う。これに関しては、第3回連載でお伝えした。

 

図1にコスト見積もりの適切なタイミングを示した。1回目のコスト見積もりは、企画の後の設計構想のときに行う。この時点では3次元データや2次元図面は未作成なので、製品全体と部品のイラストを描いたもので見積もりを行う。この見積もりは、設計者自身の経験から算出したり、過去の類似部品から類推したりするが、このイラストを用いれば、社内の先輩や購買部の担当者、なじみの部品メーカーの人に相談もできる。その後イラストを参考にして部品表を作成し、見積もった部品コストを表にインプットして、製品全体のコストを計算する。そして、その値が企画でのコスト以下になるようコスト調整を行う。

 

2回目のコスト見積もりは、最初の試作のときに行う。このときは3次元データや2次元図面ができているので、部品メーカーに見積依頼をする。このときの部品コストが、その後の量産メーカーの選定につながる。

 

3回目のコスト見積もりは、量産と同等の部品を用いた試作のときに行う。このときは、ほぼ最終の3次元データや2次元図面ができているので、最終の部品コストが得られる。この見積依頼では、最終図面にしておくことが大切だ。例えば、印刷の正確な位置や色が決まっていないからと2次元図面に印刷内容を描いていなければ、もちろん印刷コストは見積もりに含まれない。よって、仮の印刷内容を描き、最終の2次元図面に近い状態にしておくことを忘れてはならない。ちなみに、形状データしかない3次元データのみでの見積依頼はできない。

 

ここまでは、過去の連載でも一部お伝えした。ここからは、3次元データや2次元図面で部品メーカーに正確かつ確実に見積依頼をする方法についてお伝えする。

見積依頼の基本

 

見積依頼は、次の3つが基本である。

 ①見積明細書を入手する
 ②複数の部品をまとめて1つの見積もりコストにしない
 ③日本に輸入する部品は、関税と輸送費が追加されるのを忘れない

 

①は、見積明細書を入手せず、部品コストの値だけを取得する人がいる。理由は「部品メーカーが見積明細書を出してくれない」とのことだが、よくよく聞くと明細書を依頼していない場合がほとんどである。部品メーカーは、明細書の提出依頼があれば出すが、依頼がなければ出さないものだ。部品メーカーとしては、コストの明細を知られるとコストダウンのネタにされるので、見せたくないものである。しかし、明細書のない見積もりは後からトラブルの元になる。図2の担当者のように、ぜひとも入手してもらいたい。

 

量産開始後にコストダウンのためにある部品の塗装をなくした事例で考えよう。その部品コストは500円。設計者の経験から塗装にかかるコストは約200円になるため、部品コストは約300円と想定した。しかし、再度見積依頼をしてみると400円にしかならないと言う。このような場合、明細書がないのでこの値で納得するしかない。納得いかなければ交渉もできるが、思ったようなコストにならないこともある。海外に見積依頼をする場合はなおさらだ。通訳をいちいち介した交渉は、通訳がただの伝言役でしかなく交渉にならない場合ばかりだ。その結果お互いの不信につながり、長期的に良好な関係を保てなくなってしまう。

 

②は、1つの部品メーカーに複数の部品の作製を依頼する場合に、その複数部品をまとめて1つのコストにしない、ということだ。複数の部品コストをまとめた方が管理上は簡単なのかもしれないが、それもお互いの不信につながりかねない。理由は①とほぼ同じで、例えばある1部品をコストダウンで削除して約200円は安くなるであろうと想定したのに、100円しか安くならなかったという場合だ。単品のコストは知らされていないので、納得するしかない。よって、見積依頼は1部品ごとにするべきである。

 

③の輸送費は、輸送方法(航空便、船便)や貿易取引条件(FOB、CIFなど)によって異なる。かなり専門的な内容なので、これは貿易の専門家に相談した方が良い。

コストの決定要素

 

コストの決定要素は次のとおりである。

 ④ロット(1回の生産個数、◯個/月)
 ⑤総生産個数もしくは生産期間
 ⑥金型での部品の取数
 ⑦保税

 

④のロットは「1度に何個部品を製造するか」という、最も重要な値である。金型で部品を製造する場合は、その準備に時間がかかる。例えば、今まで成形していた部品の金型を射出成形機から外して、これから成形する部品の金型を取り付ける。その後、金型取付具合や射出条件の微調整を行いつつ、前の部品で使用した樹脂を成形機内から排出しなければならない。このような作業で、満足できる部品が出来上がるまでにかかった時間に対する費用を、段取り費用という。段取り費用はロットで案分されるため、小ロットであればあるほど、部品1個の段取り費用は高くなる。

 

⑤のうち、総生産個数は、金型費を部品コストに含める場合は必要になってくる。金型費を別に支払う場合は部品コストに影響しない。生産期間は、部品コストではなく部品メーカーの選定にかかわってくるので重要だ。生産期間中に部品メーカーの経営に問題が生じる可能性はないか、汎用部品のメーカーであれば、購入部品が生産期間中に生産中止になることはないか、確認が必要なのだ。

 

企画時にこれら④、⑤の値を決めずに設計を進めると、量産開始後に痛い目を見るので注意したい。また、金型費は一般的に2年間で減価償却され、その期間の部品の生産個数で割った金額が製品コストに入るので、そのためにも④、⑤の値は重要になる。

 

⑥の金型での部品の取数とは、1つの金型で成形できる部品の個数である。取数が2個の場合は、1回の射出成形で同時に2個の部品が成形できるので、部品コストは半分近くになる。よって、見積依頼をするときには、取数をあらかじめ部品メーカーに伝えておく必要がある。

 

⑦の保税は、海外で部品を製造するときには知っておくべき知識である。例えば、日本製の樹脂ペレットを日本から中国に輸出して、中国の成形工場で部品を製造するとする(図3)。そして、その部品をまた日本に輸入した場合、樹脂だけを見ると、日本→中国→日本と中国を通過しただけであり、中国国内には入っていない。つまり、関税の対象にはならないのだ。見積明細書で、材料費の欄の樹脂ペレット代に関税が含まれていなければ、保税されていることになる。保税は認可された工場でしか行うことはできないので、事前に確認をしておきたい。

事前の取り決め

 

⑧MOQ(Minimum Order Quantity)
 ⑨マシンチャージ
 ⑩材料費

 

⑧のMOQとは最小発注数量である。在庫をなくすには、1回の生産に必要な個数だけ発注するのが最も良いが、例えば20個入りのカートンに1個だけ部品を入れて輸送するのは輸送費の無駄である。よって、部品の必要数とカートンの入数の両方を考えたMOQを部品メーカーと話し合って決める必要がある。また、ビスのような長期的に物性が変化せず在庫スペースを取らない部品は、MOQを大きくした方が部品コストは安い。ただし、接着剤などの化学モノや紙印刷モノは、長期保管ができないので注意したい。相見積もりで部品コストが別のメーカーと比較して安すぎる場合は、MOQを確認してほしい。

 

⑨のマシンチャージとは、射出成形機やプレス成形機、マシニングセンタなどの装置の時間当たりの使用料のことである。この費用はあらかじめ、部品メーカーから提示されているのが望ましい。この値は見積明細書の加工費の欄に、装置の使用時間にかけ合わせて計算されている。部品によってはマシンチャージの安い、精度が低く古い装置を使用してほしいと依頼しても良い。

 

⑩の材料費は、部品メーカーに材料を選定してもらう際、あらかじめ候補の材料費を聞いておくべきである。見積明細書を見てから材料費が高すぎると注文をつけるのは、見積もりのやり直しが発生し、2度手間となる。生産個数が多いもしくは部品が大きいなどで、ある程度大量に材料を使用する場合は、設計側が材料メーカーと直接交渉して材料費を決めることができる場合もある。

価格の提示条件

 

⑪通貨単位
 ⑫税込み、税別
 ⑬金型費、単品部品コスト、組立部品コスト

 

これらに関しては、主に海外に見積依頼をする際は明確な指示が必要である。例えば、中国の部品メーカーがドルで見積もりを提出してくることがある。円での情報が欲しい場合、ドルに換算した為替レートを後から教えてもらう必要がある。自社にコスト計算で使用する為替レートがあらかじめ設定されている場合は、その値を使う必要があるので、基本は部品メーカーのある国の通貨単位で見積もりを提出してもらうのが便利である。税込みにするかしないかについても、あらかじめこちらの要望を提示しておくことが望ましい。見積書にどちらかを表示していないこともあり、これもいちいちメールで問い合わせることになるからだ。

 

⑬は、設計側が何の見積もりが欲しいかである。金型費か、部品コストか、組み立てた部品のコストなのか、どれが必要なのかということだ。当たり前のように思うが、筆者に来る見積依頼には、何の見積もりが欲しいのかを明確に提示していないものを散見する。日本人同士ならば「あうんの呼吸」で理解したり、電話で確認したりするが、海外ではそう簡単にはいかないので、必要な見積もり情報を明確に提示する必要がある。

 

ここまでの④〜⑬は、部品の見積もりをするときに必ず決めておくべきである。これらを決めずに見積依頼をすると、その後お互いに問合せが頻発し、無駄な時間を要してしまう。

間違えのない見積依頼の仕方

 

このようなことを避けるため、筆者は表1のような資料を部品メーカーに提示して見積依頼をする。設計側の依頼条件や部品メーカーとの取り決めをあらかじめ記載しておくのだ。数値の欲しいセルには色を付け、そのすべてに記入してもらう。1つの数値(セル)に1つの見積明細書を提出してもらうことも忘れてはならない。

部品メーカーから本気の見積もりをもらう方法

 

⑭量産開始時期の提示
 ⑮希望価格の提示

 

部品メーカーにとっては見積もりを依頼されるばかりで、見積書を提出しても発注が来ないことは多い。そのため、多くの見積明細書の作成は労力の必要な仕事となる。設計側も単に価格調査のために見積依頼をすることもあり、見積依頼の仕方によっては部品メーカーにそれがわかり、お断りの意思表示でもある高値を提出されることもある。設計側が本気の見積もりが欲しい場合は、その意思を示すために⑭、⑮の2つの値を提示するのが良い。

 

⑭の量産開始時期の提示は、部品メーカーにとって量産を前提とした見積もりとわかり、またいつから現金が入ってくるかがわかる。さらに⑮の希望価格は、その価格以下であれば発注するという設計側の意思表示でもあるため、受注のために真剣に見積もりをする。この段階でもすでに価格交渉が始まっており、この本気度によって結果的にお互いの満足できる部品コストに落ち着かせられる(図4)。

見積明細書の確認

 

見積明細書の確認は、まずは設計側が上記の④〜⑫の値が正しく記載されているかを見る。部品メーカーが間違っている場合も当然あるので、しっかり確認をしてほしい。見積明細書には不良率と利益率がある。これらは、部品メーカーによって異なり、その率が部品メーカーの競争力となっている。不良率に関しては、相見積もりした他メーカーの値や過去の類似部品の値と比較して、あまりにも違っているようであれば修正の依頼が必要になる。そのほかにも、特別費のように不明確なコストが記載されていたら、しっかりと確認してほしい。

金型費と部品コストのバランス

 

設計側にとって、部品コストはとても重要である。1円でも安くなれば、その部品を使った製品の利益は1円増えるからだ。しかし、金型費に関しては無頓着な場合が多い。金型費は固定資産になるため、あらかじめ決めた予算内であれば問題ないと判断しがちなのだ。しかし、金型を自社内で作製する部品メーカーにとっては、金型費と「部品コスト×総生産個数」が総売上げとなるため、両方の合計の値が重要となる。よって、部品コストが安いと思っていたら、金型費が高くなっていることもある。設計側は金型費もしっかりと精査しなければならない。

見積明細書の理解は設計者のスキルアップ

 

見積明細書に書かれている、材料費・加工費・不良率・輸送費は設計内容によって変動する。物性の違いや材料メーカーによって材料費は変わり、部品形状の工夫によって加工費と輸送費を安くできる。また、品質基準や公差の変更で不良率を下げられる。自分の設計内容が部品コストにどのように影響しているか、見積明細書で把握するのは設計者のスキルアップにつながるため、設計者は見積明細書をぜひとも確認してほしい。

著者略歴


ロジ 小田 淳(おだ あつし)
製品化のイロハコンサルタント。上智大学理工学部機械工学科卒。ソニーに29年在籍し、プロジェクタなど15モデルを製品化。ベンチャーを支援する中で、材料費が高すぎ売っても損する、輸送中に壊れる、法規制がわからないなど、製品化のハードルを越えられない企業に出会う。企画から設計〜試作〜検証〜量産の全プロセスにおける、安全性(法規制)・信頼性・製造性・コスト管理などの手法をコンサルと研修で伝える。

雑誌紹介


雑誌名:機械設計2021年12月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円

内容紹介

機械設計 2021年12月号  Vol.65 No.13 【特集】減速機の最新技術と選定・活用法

減速機は、機械や装置など駆動するものの基礎をつくる機械要素の一つ。駆動モータとアクチュエータとの間に介在する中間装置で、回転運動を減速させることで、トルク増大による動力増加や、微細送りによる駆動制御といった役割を担います。近年需要増となる産ロボ用途などでは、高精度や耐久性、軽量化、低騒音、省エネルギー化などから求められる性能が年々高まっており、技術的にも高難易度化が進んでいます。本特集では製品・技術の最新動向や導入の際の選定ポイント、活用法などを解説するほか、ユーザー事例も紹介します。

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