政府が物流の将来像として示す「フィジカルインターネット=用語参照」の構築に向けた議論が動き始めた。インターネット通信の概念を応用した新たな物流の仕組みで、深刻化する輸送コストの上昇やドライバー不足の解消が期待される。物流の停滞は国民生活や産業の基盤を揺るがす事態になりかねない。脱炭素化に並ぶ重要課題に対して、業界に変革を促す。(高田圭介、日下宗大)

用語:フィジカルインターネット
限られた通信回線を効率よく使うインターネットのように、回線をトラックなどの輸送網に、荷物をデータに置き換え、大幅な効率化を目指す物流の新たな仕組み。「究極の物流効率化」につながると期待され、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)技術などを活用し、モノや倉庫、車両などに関する情報の可視化や事業者間で物流資産をシェアする共同輸送システムを指す。

「荷物=データ」変革促す DXで共同システム構築

経済産業省や国土交通省が10月に立ち上げた有識者会議は、ドライバーの減少や物流コストの上昇を放置すれば20年代後半には物流危機に陥ると警鐘を鳴らす。両省はコスト上昇が続く理由を需要と供給の双方にあるとみる。多品種・小ロットの輸送はサービスの多様化につながった一方で積載効率低下の要因となった。

需要サイドでは電子商取引(EC)の普及による宅配需要の増加が背景にある。経産省によれば、20年のEC市場規模(物販)は前年比21・7%増の12兆2333億円に伸長。新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣ごもり消費の影響もあり、家電や衣類、食品・飲料など分野を問わずまんべんなく伸びている。

供給サイドに目を移すと、段階的に進んだ規制緩和が物流業界の潮目を変えた。業界内の競争激化とともにドライバーの労働環境が悪化し、新規就労者は減り続けている。27年に約27万人のドライバーが不足するとの試算もある。24年度には運送業を対象とする時間外労働規制が適用されるほか、23年度からは中小企業にもドライバーの時間外割増賃金の引き上げが求められる。制度改革は経営のさらなる制約となり、業界は「2024年問題」として構える。

経産省と国交省の有識者会議では、新たな物流の概念「フィジカルインターネット」をその打開策に掲げる。フィジカルインターネットの実現には、物流事業者の取り組みとともにメーカーや小売り事業者など荷主側の意識変革がカギを握る。「日本ではコストセンターとしか見なされてない」(経産省担当者)状況から、各企業による戦略的な物流体制の確立が求められる。

その上で政府が力点を置くのがメーカーから物流、小売りまで、業界の垣根を超えた物流データの連携だ。物流を「協調領域」とし、パレットや外装など物理的な標準化にとどまらず、販売計画や出荷計画、気象情報なども連携させることで徹底した効率化を指向。国際競争力のある物流基盤を構築し、最終的にはシステムとしての輸出も視野に入れる。有識者会議は21年度末をめどに、40年までのロードマップ策定に向けて議論を進める。

フィジカルインターネットの実現に向けた芽も出始めている。旭化成とJR東日本水戸支社は8月、鉄道網を活用した生鮮品物流システムを構築。貨客混載によりコストや環境負荷を抑えつつ、青果物の鮮度を保持して輸送する。水戸支社エリアで朝収穫された生鮮品を午後に都内で販売できるという。

JR九州は九州新幹線の博多―鹿児島中央間での貨客混載事業を始めた。両駅の「みどりの窓口」で荷物を受け渡す自社サービスを運用するほか、佐川急便と協業。自社事業に上下5便、協業向けに同2便を割り当てる。車内販売準備室だった空間を活用し、当日配送による生鮮品や速達貨物の需要創出につなげる。

小売り業界ではセブン―イレブン・ジャパンとファミリーマート、ローソンのコンビニ大手3社が20年8月に、店舗への配送に同じトラックを使う共同配送の実験を行った。

企業、業界を越えた連携をいかに促進できるかが、フィジカルインターネット構築の試金石となりそうだ。

商用車、課題解決へ一丸 「座組」で新技術実証

相模原市にある物流センター。そこに全長25メートル級のダブル連結トラックが出入りする。トラックの荷室はデータに基づく緻密な計算で、スペースに無駄なく荷物が積載されている。

日野自動車の子会社ネクスト・ロジスティクス・ジャパン(NLJ、東京都新宿区)は運送事業者や物流システム開発企業、荷主企業などと協業し、19年末から効率的な幹線輸送システムを目指す実証実験を開始。相模原市と兵庫県西宮市にある物流センターの間をダブル連結トラックがつないでいる。

実証実験は人手不足をはじめとした物流課題の解決がテーマ。運送側と荷主側の物流情報を連携させたり、重い荷物と軽い荷物を混載したりして積載率の最大化に取り組んでいる。トラックドライバーが不足する中、積載率を高められれば、輸送頻度を抑えられる。

従来の荷役は作業担当者の“勘・こつ・経験”に頼っていた。それを荷姿の形状など必要なデータを一点ずつ把握して、トラックの荷室内の理想的な姿をシュミレーションできるようにした。データの細かな積み上げで実証開始1年後には積載率平均56・9%、最大87・2%を達成した。一般的な積載率が40%前後と言われるなか、着実に成果を上げた。

NLJの梅村幸生社長は「データを蓄積すると(荷物の種類それぞれの)傾向が分かる」と話す。例えば飲料系ならどのパレットが最適かなどが把握できるという。

ただ、データを本当に活用するには泥臭い活動があってこそだ。段積みの補助治具の開発や荷物の養生方法の工夫など、データ以前の改善ポイントも多い。さらに今後は幹線輸送だけでなく「支線もトータルで効率化することが大事だ」と梅村社長は指摘する。

日野自系ネクスト・ロジスティクス・ジャパンのダブル連結トラック(相模原の物流拠点)

21年は商用車分野でCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)技術の実用化に向けた「座組」が結成された年だった。新技術による輸送効率化などを目的にトヨタ自動車、いすゞ自動車、日野自が共同出資する「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)」が設立された。さらに7月には軽商用車を手がけるスズキやダイハツ工業もCJPTに参画すると発表した。

CJPTはデータ活用に関して、トラックから顧客に荷物が届く手前の「ラストワンマイル」で活躍する軽商用車まで網羅したデータ基盤の構築を狙っている。異なるメーカーの商用車同士でもデータ基盤が同じなら、デジタルサービスを提供するアプリケーション(応用ソフト)の開発効果も高い。物流課題の解決に向けた大きな一歩として期待される。