金属の繊細な編み目の中、よく目を凝らすと模様が浮かび上がる。手のひらサイズのおちょこに込められた技術は見る人を何度も驚かすが、大きな特徴は、「金属3Dプリンタ」のみを用いて作られていることだ。このおちょこ「Syuki(シュキ)」を製造するのは兵庫県神戸市にある伊福精密。45年にわたってBtoB向けの金属加工製品を手掛けてきた同社は、なぜこの製品を作り出したのだろうか。
 同社の伊福元彦代表取締役社長と、金属3Dプリンタメーカーであるソディックの工作機械事業本部事業企画統括部副統括部長の青木新一氏に話を伺った。

【金属3Dプリンタとは?】 材料である金属粉末を敷き詰め、造形したい部分にレーザーを当てて金属を溶かし、固めながら積み上げ造形する機械。

―早速ですが、なぜ金属3Dプリンタを導入することになったのでしょうか。

伊福元彦代表取締役社長(以下、伊福社長) 当社は金属の切削加工を中心に、自動車の試作部品や量産品を手掛けています。その中でも手のひらサイズの金属部品加工が得意です。お客様からの部材供給を受け加工するのですが、長年、いかにお客様の狙いを実現するかに注力してきました。
 しかしリーマンショックの時、仕事依頼がほとんどなくなってしまって。そこで「お客様から材料が届かなければ仕事ができない」という仕組みが(結果的に)経営危機を招くと気づいたんです。この状況をなんとか打破するために目をつけたのが、金属3Dプリンタでした。当時はまだ国内で利用例は少なく、ドイツに何度も足を運び勉強を重ねた上で、2016年にソディックの精密金属3Dプリンタ「OPM250L」を導入しました。

伊福精密の工場内

―その中で、金属3Dプリンタを使ったおちょこやゴルフパターなどの自社製品を作り始めたのはなぜですか。

伊福社長 金属3Dプリンタの特性をより分かりやすく説明するため、BtoC製品のブランド「OshO(オショウ)」を2年前にスタートしました。それぞれの商品がバズって売れればもちろん嬉しいんですが、それだけでなく、斬新なデザインなど金属3Dプリンタの可能性を異業種の方に見てもらい、新しいアイデアや取引につながればいいなと思っています。

OshOゴルフパターヘッド
 実際に、OshOのデザインを見て、海外の自動車メーカーからハンドルスイッチにデザインを入れてほしいという依頼や、メガネメーカーとのフレーム製造のテスト依頼など、工業製品の製造だけでなく新しいものづくりの発想が広がってきたのが一番の効果かなと思います。
 また、BtoC製品を作ったメリットは技術面だけではありません。購入者から感謝の手紙をもらうなど、BtoB製品を作っていただけでは得られなかったダイレクトな評価により、社内の背筋が伸びました。

伊福社長 「syuki」というおちょこの開発には約2年かかりました。デザインは京都の竹細工を参考にし、さらに網の内側に日本の伝統模様を造形しています。この内側の模様は金属3Dプリンタ以外では成しえないのではと思っています。
 そしてデザインだけでなく、機械の操作方法、材料の選定にもノウハウがあります。そのため、同じ加工データを用いて他社で製造しようとしても難しいんじゃないかと思いますね。また5個同時に製造して、コストを削減。これらはソディックさんの協力があってこそ実現できました。

網の内側に日本の伝統模様を造形
青木新一副統括部長(以下、青木副統括部長) いえ、伊福さんのトライアンドエラー、努力があってこその製品だと思っていますよ。特にこのトライアンドエラーの知見は、当社でも他のお客様に求められている部分です。
 伊福さんのBtoC製品を通じた発信は、技術力のPRだけでなくブランド力の向上にもつながっていますよね。

―パートナー企業であるソディックの青木さんから見て、伊福精密さんはどのような会社ですか。

青木副統括部長 アプローチの仕方がユニークな会社です。そのアプローチの仕方もインターネットやSNSが発達した現代に非常にマッチしていて、マーケットを自らの手で作り出すことができる会社だと思います。
 金属3Dプリンタに関して当社に寄せられる相談は、従来の工法の置き換えという案件が圧倒的に多いのですが、伊福精密さんはそれを先駆的に行っているだけでなく、(BtoCブランドなど)新しい要素を加える挑戦をしています。そういったメーカーはまだ少なく、フロンティア精神を感じるところです。

伊福社長 ありがとうございます。ただ、ソディックさんも同じだと思うのですが、金属3Dプリンタを始めた当初、もっとマーケットがあると思っていました。金属3Dプリンタに対するエンジニアの評価が厳しく、どう納得してもらうかに苦労しました。とにかく事例をたくさん作って、失敗を含めた経験談を多く語れるようにしていきました。
 金属3Dプリンタは大きな可能性を秘めていると思いますが、従来の機械加工の長い歴史と知見の積み重ねとの差が大きい。両者の特性を融合させていく必要があります。当社ではこれを実現することで技術の幅を広げ、お客様が何か困った時に頼りになる「金属加工の駆け込み寺」を目指しています。

―金属3Dプリンタの国内市場動向はいかがでしょうか。

青木副統括部長 特にこの2、3年は、米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染拡大などによる市況の悪化等もあり、導入コストを上回る利益が出るのか、見極めが難しいと感じていたお客様が多かったと感じています。ドイツでは産官学が手厚くバックアップして技術創成が盛んなのですが、それに比べ日本の支援規模は小さい。ただ21年に入って政府からの補助金が出てきたこともあり、ようやく機運が出てきたかなと思っています。

伊福社長 この機運が高まっているうちに、若い人に金属3Dプリンタを分かりやすく説明したり、接点を増やしたり認知を広げるような企画がしたいと思っています。そのためにも、メーカーや派閥の枠組みを超えて業界全体の活性化や技術の発展のために連携すると、社会的に意義のある取組みになるのではと思います。
 なぜそれをやるのかというと、日本の産業構造が基本的に下請け構造だからです。お客様に言われた通りのやり方で、ある意味「正しく」モノをつくることばかりに終始していると、変化に取り残されてしまう。それに対して新しい技術である金属3Dプリンタが発展していけば、下請けである我々から何かを提案したり、個人がものづくりをするような新しい仕組みができたりといったことにつながる可能性があります。

金属3Dプリンタ造形の様子

―今後力を入れていきたいところを教えてください。
伊福社長 「正しく」ではなく、「正しい」モノをつくる、つまり、必要な時に必要な量が必要な場所で手に入れられるということです。それを実現していく中で、デジタルの力や金属3Dプリンタといったツールを組み合わせることで、DXが実現できていくのではと思います。

青木副統括部長 金属3Dプリンタは材料ロスが少なく、省エネにつながるという研究結果もあります。金属加工では基本的に材料を削って製品をつくりますが、金属3Dプリンタは造形したい箇所にレーザーを照射しその部分のみを溶融凝固させていくため必要な部分しか材料を使いません。サステナブルなものづくりの実現にも貢献できます。また、加工形状の適用範囲も広く複雑な形状でも複数の工程を1台の機械でこなすことができるため、さまざまな用途別の機械を置いておく必要がなくなり、省エネ、省人化にもつながります。この点にも注目が集まっています。
 伊福社長とお会いするといつも「金属3Dプリンタに対する認知度、応用力は日本が一番遅れているよね」という話になるんです。ただ、その分成長が期待できると思っています。
(取材はオンラインで実施)

 

株式会社ソディック
 https://www.sodick.co.jp/

企業紹介

伊福精密株式会社 Ifukuseimitsu
所在:兵庫県神戸市西区伊川谷町潤和字西ノ口750-6 
従業員数:50名 
主な製造品:各種試作品・量産品の製作、冶工具・金型の設計製作、難加工材の工法開発、新素材の加工方法の研究、製品測定事業  、デジタル倉庫サービス

高度な放電加工技術と計測技術で、精密加工を得意とし精密部品、金型部品加工が中心だが、2016年には金属3Dプリンタを導入。他社に先駆け加工技術の確立に成功し、注目を集める。金属3Dプリンタはパソコンで作った3D(立体)データをもとに、金属のパウダーを少しずつ焼き固めながら立体に成形していく。中が空洞であったり、複雑に折れ曲がっていたりと従来の製造法では実現できなかった形状も製造可能。一見魔法のような技術に見えるが、成形に必要な3Dデータを作るには独自ノウハウが必要となり、企業の技術力が一目瞭然となる加工でもある。

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場所:東京ビッグサイト(国際展示場)(東京都江東区有明3-11-1)
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