“雲をつかむ”ようなとは、漠然としていて捉えどころがないさまであるが、雲レーダーを用いれば、その雲の分布がはっきりと計測できる。

レーダーの受信電力は雨や雲など降水粒子の直径の6乗に比例する。代表的な雨滴の直径を2ミリメートル、雲粒の直径を50マイクロメートル(マイクロは100万分の1)とすると、雲粒の受信電力は雨滴の40億分の1程度になるため、これまでの気象レーダーでは観測が難しかった。その一方で、レーダーの受信電力は、電波の波長の4乗に反比例するため、短い波長の電波を利用することで感度を改善できる。

しかしながら、短い波長の電波は、雨や雲などの水及び水蒸気による減衰が大きいというデメリットもある。トレードオフの結果、情報通信研究機構(NICT)では波長3・2ミリメートルの電波を使用した雲レーダーの開発を1996年頃より開始した。

雲の観測により、降雨前の積雲から積乱雲への発達過程の解明が期待されている。また、温暖化予測の観点からは、地球規模の雲分布の把握が必要とされており、米国は衛星搭載雲レーダーによる観測を06年に開始した。日本では、NICTと宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した鉛直速度計測ができる新たな雲レーダーを欧州と共同のEarthCARE(アースケア)衛星に搭載する計画で、23年に観測開始予定である。

NICTは、この衛星搭載雲レーダーの観測データを検証するため、十分な感度を有するレーダーを開発した。感度を上げるためには、長時間の積分が必要であり、観測方向は鉛直上向き固定である。図は21年5月27日の豪雨時の小金井市上空の様子で、断面図ではなく、横軸は時間経過を示している。

【約2日間の時間高度断面】 ㊤:受信電力(ただし、粒子の直径の6乗に比例する量に変換<デシベル表記>) ㊦:鉛直速度m/s(濃色・負数が降下を示す)(NICT提供)
 

最初は高度6キロメートルから12キロメートルの断片的な巻雲であったのが、連続して厚みを増し、降雨となっている様子が見て取れる。激しい降雨時には減衰のため上空まで観測することができないが、それ以外は雲頂・雲底、雲の厚さなどが観測できている。また、低層にある小さい粒径の積雲なども観測が可能となった。

NICTは、このほかにも雲の空間分布を一度に把握できるフェーズドアレイ雲レーダーを開発しており、その応用が期待されている。近い将来“雲をつかむ”ことが可能になるかもしれない。

◇電磁波研究所・電磁波伝搬研究センター リモートセンシング研究室 主任研究員 堀江宏昭
90年電気通信大学院卒、同年通信総合研究所(現NICT)入所。大学時代からレーダーリモートセンシングの研究を開始し、入所後も地球環境計測のための主に気象レーダーの研究・開発に従事する。