金融機関がESG(環境・社会・企業統治)投資に力を入れる中、それに似た手法であるインパクト投資の存在感が高まっている。経済的リターンを得るだけでなく、投資先が変化を生み出すことにより、環境・社会問題解決を目指すもので、22の金融機関が参加する推進活動も始まった。自社のサステナブルファイナンス(持続可能な社会を目指す投融資)の長期目標の主軸に、インパクト投資を据える金融機関も出ている。(戸村智幸)

金融機関に明確な目的必要

2021年11月末、東京・有楽町で、金融機関21社(当初)がインパクト投資を推進する活動「インパクト志向金融宣言」に署名した。投資を通じて生み出すインパクトの測定手法といった実践例や課題を各社で共有する。海外への情報発信も狙う。

「インパクト志向金融宣言」には金融機関22社が参加(昨年11月)

インパクト投資はESG投資と似ているが、変化を促す意図を持って投資する点や、インパクトの測定が必須な点が異なる。各社は宣言の活動を通じてインパクト投資の知見を深め、実績拡大を目指す。3カ月ごとにワーキンググループを開き、情報共有や意見交換を実施する。年1回代表者総会も開く。

インパクト志向金融宣言の発足には、三井住友トラスト・ホールディングス(HD)、りそなHD、第一生命保険が中心的役割を担った。

三井住友トラストHDの中核会社である三井住友信託銀行の金井司フェロー役員は「ポジティブなインパクトを伸ばし、ネガティブなインパクトを抑える」とインパクト投資の特徴を説明する。りそなHDの資産運用会社りそなアセットマネジメント(AM、東京都江東区)の松原稔執行役員責任投資部長は、ESG投資との違いに意図があることを挙げた上で、「金融機関に明確な目的があるかが重要」と指摘する。

世界的なカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への流れを受け、国内金融機関がサステナブルファイナンスの長期目標を公表する動きが相次ぐ。三井住友トラストHD、りそなHDも長期目標を定め、インパクト投資をその中核に位置付ける。

【三井住友信託、脱炭素に5000億円】理系専門家が“目利き”

三井住友信託銀は30年度までに、脱炭素につながる事業などに累計5000億円投資する。三井住友トラストHDは政策保有株式を将来ゼロにする計画を掲げており、政策保有株の売却で得る資金をサステナブルファイナンスに充てる。銀行が自己資金で同規模の投資をするのは珍しい。この投資のほぼ全てをインパクト投資で実行する。同時に機関投資家など外部から、同年度までに2兆円の投資を募るのも特徴だ。

脱炭素事業への投資が加速する(川崎重工業の液化水素運搬船)

三井住友信託銀の大山一也社長は「政策保有株の削減で投資余力が生まれる。5000億円を呼び水に、投資の連鎖を起こしたい」と狙いを説く。三井住友トラストHDは政策保有株の削減目標を21年5月に策定。保有銘柄の資産計上額は9月末時点で、約1兆4000億円(時価ベース)に上る。

投資先は再生可能エネルギーや水素、アンモニアなど脱炭素につながる事業やファンドを想定する。インパクトの測定・評価などインパクト投資の要件を満たすようにする。外部の投資の測定・評価や管理業務も請け負う計画だ。

三井住友信託銀の本気度がうかがえるのは、7人の理系専門人材チームを抱え、投資先の選定の目利き役にすることだ。メンバーは水素分野などの博士号を持ち、企業で活躍した人材を中途採用した。彼らが候補案件を技術面から分析し、投資判断に生かす。

大山社長はチームについて「14人ほどに増やしたい」と体制強化の意向を示す。機械工学やシステム工学の知見を持つ人材を追加採用し、カバー範囲を広げる。順次採用するため、目標時期は定めていない。

【りそなの取り組み】30年度まで3兆円販売 地銀との連携強化

りそなHDはインパクト投資やESGの公募投資信託を今後本格的に販売し、30年度までに累計2兆―3兆円販売することを目指す。個人のESGなどを意識した投資需要の高まりを受け、要件を満たす投信を運用・販売する。地方銀行などに商品提供し、外部を通じた販売拡大も図る。

同社はサステナブルな社会や企業へのトランジション(移行)に向けた投融資を30年度までに累計10兆円実行する長期目標を21年6月に公表しており、その一部として今回の方針を定めた。

りそなHDの南昌宏社長は「個人のお客さまはESGなどを今後さらに意識する。その流れを先取りする」と意気込む。インパクト投資については「大事な考え方だ。プラスの効果を出すだけでなく、マイナスの効果を減らすことが重要だ」と強調する。

インパクト投資やESG投信は、りそなAMが運用する。インパクト投資については、6月に国内株式を対象とする投信の運用を始めた。12月には、日本を含む世界株式が対象の投信の運用に乗り出した。どちらも、りそな銀行などグループの銀行が今後発売する見込み。ESG投信は既にグループ内外で複数を販売中だ。

今後はインパクト投資やESG投信を地銀に提供し、外部を通じた販売も強化する。21年4月に横浜銀行に投資一任型の資産運用商品「ファンドラップ」を供給しており、地銀への商品提供は重点戦略だ。インパクト投資でも、地銀との連携強化を目指す。

【世界で成長】関連金融商品、増加の一途

インパクト投資の調査研究などを手がけるGSG国内諮問委員会によると、19年のインパクト投資の世界市場は前年比42・4%増の7150億ドル(約83兆円)と推計され、関連する金融商品は増加の一途にある。インパクト投資に取り組む組織の約6割が米国とカナダに、約2割が欧州に立地するという。

日本市場も成長が加速。19年のインパクト投資残高は同61・2%増の約5126億円となり、保険会社や大手銀行などの参入で底上げされた。ここ1年では日本生命保険が米国の脱炭素ファンドに約2000万ドルを投資したほか、第一生命が宇宙用汎用作業ロボットを開発するベンチャーに出資した。

判断指標の定量化など必要 大和証券・サステナビリティ・ソリューション推進部部長・清水一滴氏

インパクト投資は、投資先が経済価値だけでなく社会的な価値ももたらすと見込み、意志を持って投資するのが特徴だ。ただ、機関投資家は資金の出し手にインパクト投資する理由を説明しなければならない。個別の事業ならわかりやすいが、企業全体がもたらすインパクトを測定する難しさがある。 投資の判断指標の定量化などルール作りも欠かせない。ESG投資と考え方は違うが、結果として脱炭素などESG投資との差が無くなることもある。とはいえ、まだ始まったばかりだ。カーボンニュートラルに向けた投資手段として広がることを期待する。(談)