青、緑、黄、赤とさまざまな発光が可能な材料である蛍光体は、テレビ、照明、白色発光ダイオード(白色LED)などで奇麗な色を作る成分として広く使われており、今後は8Kテレビやレーザー照明などへの応用が期待されている。8Kテレビは高精細・高音質に加え、色の表示範囲が広いことも特徴だが、現行の緑色では純度が低いため、さらに鮮やかな緑色蛍光体が必要である。また、レーザー照明では熱が大量に発生するため、蛍光現象特有の温度上昇による発光強度低下が生じない蛍光体が求められる。既存の蛍光体ではこれらの発光特性の実現は不可能なため、全くの新しい蛍光体の開発が必要である。

蛍光体は図左側に示すように、微量の発光元素をホスト結晶にドープ(添加)することで得られる。蛍光体の発光特性はどの物質をホスト結晶に使うかに大きく依存するため、その選択が重要である。これまでは研究者の経験や知見をもとにホスト結晶が選択されてきた。我々はデータ科学を利用したホスト結晶の選択とハイスループット実験を組み合わせた効率的な新蛍光体開発を、科学技術振興機構(JST)CRESTプロジェクト「実験と理論・計算・データ科学を融合した材料開発の革新」の中で進めている。

数百種類の既知蛍光体の化学組成、結晶構造、発光特性の情報を取得し、機械学習を用いて目的の発光特性を発現する可能性のある候補物質を何万件もの物質データベースから選択する。候補物質は粉末合成で実験実証する。ただし、従来の結晶構造解析法や発光特性評価法では粉末試料の不純物を減らす必要があり、多くの候補物質の実証には時間を要する。そこで、不純物を多量に含んだ混合粉末試料でも、その中に含まれる直径わずか10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の目的候補物1粒子を取り出し、結晶構造解析と特性評価を行えるハイスループット実験実証の手法を開発した(図右側)。この手法により既に多くの新蛍光体を見いだしている。

ただし、機械学習で提案される候補物質はデータベース上に存在する既知物質である。知財戦略面で重要な物質特許の取得には、世の中にまだ存在していない新物質を自ら見つけてホスト結晶に用いる必要がある。我々は機械学習を応用することで新物質を発見し、新蛍光体開発につなげるための研究も行っている。

これらの手法により、実用化レベルの発光特性を持つ新蛍光体を早期に実現していきたいと考えている。

物質・材料研究機構(NIMS) 機能性材料研究拠点 蛍光体グループ グループリーダー 武田隆史
 2000年神戸大学大学院博士(理学)取得。住友化学研究員、東北大学助手、北海道大学助教を経て、07年NIMS入所。20年より現職。