農業機械メーカーが環境事業を強化している。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向けたプラントや製品、資源循環サイクルなど事業領域は多岐にわたる。主力の農機の電動化にとどまらない全方位の環境対応で、企業価値向上を図る狙いだ。国内農機大手2社、クボタとヤンマーホールディングス(HD)の環境関連の取り組みを探った。(編集委員・林武志)

【クボタ】ESGを経営の中心に

2030年までの長期ビジョンで、豊かな社会と自然の循環にコミットする「命を支えるプラットフォーマー」を目指すことを掲げるクボタ。2兆円超の連結売上高のうちで農機など機械部門が約85%を占めるが、北尾裕一社長は「ESG(環境・社会・企業統治)を経営の中心に置く」と強調する。

知られざる領域だがクボタの環境事業は幅広い。90年に発覚した産業廃棄物不法投棄の舞台となった香川県・豊島の産廃処理では同社の溶融炉が活躍した。また20年稼働した福島県双葉町の減容化施設(中間貯蔵施設)のプロジェクトにも参画。同プロジェクトは環境省福島地方環境事務所からの受注で、放射性物質に汚染された廃棄物を減容化する。クボタは溶融施設の運営にも携わる。

廃棄物処理関連では破砕・分別・焼却・溶融の技術を持ち、し尿処理なども環境関連事業で手がける。

21年に中部電力と共に、廃棄物処理業の市川環境ホールディングス(HD、千葉県市川市)に出資した。「ビジネスとしてのパフォーマンス向上には“全体のループ”を構築する必要がある」(クボタの吉川正人副社長)とし、出資により廃棄物の収集・運搬(入り口)、再資源・エネルギー化(出口)で資源循環できるノウハウを得て、環境事業の成長を目指す。

【ヤンマーHD】生ゴミ資源循環サイクル

食品廃棄物を資源循環するヤンマーeスターのバイオコンポスター

ヤンマーHDも食とエネルギーの領域を中心に顧客の課題解決を支える。子会社のヤンマーeスター(滋賀県米原市)が食品残さをリサイクルできる装置を発売した。菌(微生物)の働きを生かし、生ゴミの処理時に「好気性発酵」という悪臭が発生しにくいバイオ式を採用。生ゴミは処理後に堆肥や土壌活性剤に活用し、資源循環サイクルにつなげる。

大手2社にとっては農機の電動化とともに、社会課題解決に直結する環境への貢献が全社的な成長に向けた試金石となりそうだ。

【環境産業】50年136・4兆円成長

環境省によると、19年の国内環境産業の市場規模(推計値)は、110兆2708億円と00年比約1・9倍で過去最大となった。全産業に占める環境産業の市場規模の割合は00年の6・1%から19年には10・5%に増加した。分野別の市場規模では、「廃棄物処理・資源有効利用分野」が4分類の中で最も占める割合が大きく、緩やかに増加を続けている。

国内環境産業の市場規模は50年に向けても上昇傾向を続け、約136兆4000億円まで成長するとの推計。50年の構成比率で、廃棄物処理・資源有効利用分野の市場規模は約54兆9000億円と見込まれている。

◆クボタ執行役員・福原真一氏 廃棄物処理、実績生かす

廃棄物処理や資源循環など環境領域を次代の成長ドライバーの一つに据えるクボタとヤンマーHD。同領域での両社それぞれの強みや今後の方向性について、クボタの福原真一執行役員、ヤンマーHD子会社のヤンマーeスターの赤沢輝行社長に聞いた。

―環境プラント事業の特徴や強みは。

「上下水施設やポンプ設備、排水機場などの技術を有する。ゴミ処理に関しては焼却炉や埋め立て関連でノウハウを持つ。環境エンジニアリングの力を生かせるキーとなる主要製品を持つことも強みだ」

―30年までの長期ビジョンで廃棄物循環の促進も掲げています。

「(農地で活用できる)メタン発酵技術を持ち、廃棄物処理に関してはさまざまな実績がある。事業部は違うが鉄管なども手がける。(主要顧客となる行政側は人手不足などにより)現在は市場からも複合的な要望が多い。知見を集めて、ソリューション提案できるようにしている」

―今後の方向性については。

「我々自身はメーカーだが、今後は製品を回収し、再度製品化することも求められる。コストと品質の面でバージン材を使うことが多かったが、これから変わるだろう。リサイクル活用でも、コストを下げて品質を高める開発に積極的に取り組んでいきたい」

◆ヤンマーeスター社長・赤沢輝行氏 循環型ビジネス構築

―バイオ式コンポスター(生ゴミ処置装置)の特徴は。

「発生するにおいが少なく、生ゴミ撹拌時にトラクターのノウハウを生かしたことが特徴だ。商品化の着手は19年。効率良く生ゴミを分解でき、通常、3カ月程度かかる堆肥化の短縮にもつながる」

―農家が使いやすい点も特徴としています。

「1日当たりの減容化が分かるように重量計を備えているため、日々の管理に役立つ。農家側が堆肥を自らつくる際もガレージ分のスペースがあれば設置可能で、お客さまの状況に応じた提案ができる。農家への本格提案はこれからだが、すでに北海道のスーパーなどで納入実績がある」

―今後の展望は。

「当社にとっても初めての製品でヤンマーの資源循環事業の軸になる。現在、モニターを含めて約20台の納入実績がある。循環型のビジネスモデルを早期に構築し、堆肥化まで農家をサポートしたい。当面国内向け中心だが、将来的に海外展開も見据えたい」

私はこう見る

内部での意識改革課題
近畿大学産業理工学部経営ビジネス学科教授・坂田裕輔氏

現代では企業活動の環境対応は必須の活動だ。農業機械の省エネルギー・省資源化の推進だけでは十分な評価は得られない。農機各社の環境対応全般が社会に評価されるかという観点が重要だ。

企業の環境対応は既存の製品を環境に対応させることが本筋。農機各社はいずれもこの点には取り組んでいる。ただし、農機市場に関しては国内市場の飽和と海外市場では海外メーカーとの競争で厳しい環境にある。

こうしたなか、環境分野を成長分野と見極め、強化することは理解できる。しかも農機各社はエネルギー・廃棄物処理といった環境事業で長年の蓄積があり、順調な成長が期待できる。

今後は環境事業の拡大とともに、主要事業が変化していく可能性も考えられる。新しい体制にスムーズに移行できるか、各社の内部での意識改革が課題となりそうだ。(談)