人工知能(AI)がレシピをつくり、IoT(モノのインターネット)化した自動実験装置が自律的に材料探索を行う。そんなSFのような時代がすぐそこまで来ている。そのコア技術となるのが、AIと連動したスマートラボとよばれる自動装置群だ。製薬分野などへの導入が先行してきたが、マテリアルズインフォマティクス(MI)の浸透に呼応するように、ここ5年ほどでさまざまな材料分野に急速に広まりつつある。

筆者らは、科学技術振興機構(JST)CRESTプロジェクト「実験と理論・計算・データ科学を融合した材料開発の革新」(細野秀雄NIMS特別フェロー研究総括)の一環として、機能性樹脂にフォーカスした「ポリマースマートラボ」の開発を進めている。

材料開発の現場では、合成のみならず、物性・材料特性までを総合評価する必要がある。また、先端材料に求められる性能・特性は刻々と変化する。そのため、ポリマースマートラボには、臨機応変に対応できるロバスト性が求められる。

筆者らのポリマースマートラボでは、これらの課題解決のため、技術仕様をあらかじめ固めずに、さまざまなAIツールやデータサービスを組み合わせていくアジャイル的な開発手法を採っている。そのAIツールやデータベースとして、NIMSが整備を進める材料プラットフォーム「DICE」が提供する電子ラボノート、データ解析AI、IoT化ツール、データサーバなどの各種モジュールを利用できることも、システム開発の迅速化に大きなメリットとなっている。また、従来の材料評価は、サンプル作製や測定に多くの時間・労力・職人技などが求められ、材料開発のハイスループット化を困難にしてきた。

この問題に対し、本プロジェクトでは、MI駆動研究に特化した装置を開発することで、合成から材料評価までの一連の工程を自動化・高速化することに成功した。これにより年間1万以上のサンプル数を評価できるようになり、すでに接着材料や超撥水(はっすい)材料、また複数素材の特性を取り入れた傾斜材料などの新たな機能性樹脂材料の開発で威力を発揮している。課題解決の迅速化に、ポリマースマートラボが強力なツールとなることは間違いない。一方で、サーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルなど、高分子材料を取り巻く課題は多く、どう課題を攻略していくかは科学者の腕次第である。本プロジェクトでは、スマートラボをはじめとしたMIツールを駆使しながら、新規材料の開発のみならず、材料科学からの社会貢献も果たしていく。

物質・材料研究機構(NIMS) 統合型材料開発・情報基盤部門 データ駆動高分子設計グループ グループリーダー 内藤昌信 2001年東京工業大学大学院博士後期課程修了。奈良先端科学技術大学院大学特任准教授を経て、12年より物質・材料研究機構。17年より現職。専門は機能性コーティング・接着材料の開発。