日産自動車が福島県で電気自動車(EV)の普及に向けた技術開発を加速している。同社は2010年12月に世界に先駆け量産型EV「リーフ」を投入。持続可能な社会の実現を見据え、発売当初から蓄積してきた走行データや技術が、新たな価値を生み出そうとしている。EVのパイオニアを自負する同社が、今後の競争に自信を深める理由を探った。(西沢亮)

性能や寿命の効率的な測定技術確立

ブウォーン―。日産と住友商事が共同出資するフォーアールエナジー(4R、横浜市西区)の浪江事業所(福島県浪江町)では業務用掃除機の音が響く。ここではリーフの使用済み電池を国内外から回収し再生電池に加工して出荷している。

精密部品の電池はチリやホコリがご法度。綿棒などで丁寧に汚れを取り除く。清掃した電池は充放電を繰り返して性能を測る。測定結果は電池の温度に左右されるため、温度を約25度Cに落ち着かせる時間を含め測定には12時間程度かかる。

リーフの電池は48個のモジュールで構成される。モジュール単位で性能を測定し、劣化が激しいモジュールと優良なモジュールを交換するなどして再生電池を生産する。生産能力は測定能力と同等で、現在は約3000台の年産能力を持つ。

日産経営戦略本部の牧野英治部長は「日産はリーフ発売後、お客さまの走り方や電池の使用状況に関するビッグデータ(大量データ)を蓄積。これと4Rの処理実績データを一つひとつつなぎ合わせ、現状の使用済み電池の性能と、10年後の性能を正確に推定する技術を両社で開発している」と指摘。大幅な効率化を実現する独自の測定手法を確立し、22年度内に年産能力約5000台への引き上げを目指す。

電池の性能や寿命を正確に測る技術は、再生電池の品質保証や販路開拓のカギを握る。4Rはこれまでリーフの交換用電池向けなどに再生電池を販売してきた。4月から浪江事業所でリーフ84台分の再生電池を組み合わせた大型蓄電池の実証を住商と始めた。電力系統につなげる「系統用蓄電所」としての活用も見込み販路拡大につなげる。

こうした再生電池の販売が軌道に乗り、価格が安定すれば、EVの下取り価格やリースの残価設定の上昇などが期待される。4Rは設立当初から使用済み電池の測定技術を磨き、再生電池の用途開拓を進めてきた。日産の中畔邦雄副社長は「4Rは単なるビジネス会社ではなくテクノジー会社」と強調する。

リーフ投入から11年が経過し、今後は使用済み電池の本格的な回収が見込まれる。中畔副社長は「11年の間に世界で総計約96億キロメートル分のリーフの走行データを集めてきた」と指摘。こうした日産だけが持ち得るビッグデータなどを活用し、EV用電池の循環型ビジネスの進化を図る。EVは現在も高額な価格帯が購入をためらう一因となっている。同社は残価の引き上げなど多面的な仕組みでEVを購入しやすくし、販売の拡大につなげる。

再生エネ、EVで充放電

福島県浪江町の「道の駅なみえ」。日産はここで人工知能(AI)を使いEVの充放電を制御するエネルギーマネジメントシステム(VGI)の世界初の実用化検証を行う。

道の駅なみえでEVを活用したエネルギーマネジメントシステムの実用化検証を行う(福島県浪江町)

道の駅では太陽光や風力、水素燃料電池で再生可能エネルギー由来の電力を発電している。この電力を使うEV用充電器とリーフをそれぞれ5台ずつ導入し、浪江町の職員が公用車として利用しながらVGIを検証する。

職員はスマートフォン向け専用アプリケーション(応用ソフト)で公用車の利用日時などを入力し、各リーフの使用状況を見ながら1台を選択して予約する。後はVGIを組み込んだ充電器が、各車両の充電や予約状況を考慮しながら、再生エネの発電量に応じ、優先して充電すべき車両を選んで充電していく。実証ではEVを充電する際の再生エネ利用率100%と月4万円の電気代削減効果を想定。データの蓄積と使い勝手の検証などを進める。

今後はリーフに充電した電力を道の駅で利用するため、放電もVGIで制御する検証を計画。季節や天候により発電量が変わる再生エネを、EVを使い効率的に充放電することで、リーフと道の駅で使う電力も100%再生エネでまかなうことを目指す。VGIでは充放電する車両を的確に判断するため、EVの使い方を理解することが重要になる。日産の鈴木健太氏は「リーフ発売から車の使用状況に関するデータを収集、分析してきたことが、EVの使われ方の正しい理解やVGI技術の開発に役立っている」と振り返る。

また道の駅での取り組みは、例えば太陽光発電をしているビルのオーナーが、数台のリーフを使いビルの電力を再生エネでまかなうといった応用も見込まれる。日産の土井三浩常務執行役員は「固まりとして電気を使っている所があるのでそこにVGIを広げ、例えば町役場をまとめて制御するなど統一化につなげていきたい」とした。

非常用電源、自治体の脱炭素支援

日産は災害時にEVを電力源として活用する連携協定を自治体と締結している。例えば役場の非常用電源として、リーフの再生電池で構成する蓄電池を4Rから調達して設置。停電時に公用車として使うリーフから蓄電池に電力を供給するといった使い方などを実現している。この活動を「ブルー・スイッチ」として18年から開始し、連携はこれまでに約170件を超えた。

一方、全国で50年までに二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」を宣言する自治体が増加している。ただ実現する手段が乏しいのが現状。日産はEVを非常用電源としてだけでなく、VGIと組み合わせて電力を100%再生エネでまかなう手段としての活用も目指す。土井常務執行役員はブルー・スイッチの活動などを基盤に「VGIを自治体の課題を解決するシステムとして提案し、EVの普及や拡販につなげたい」とした。