コロナ禍で2輪車の需要が高まっている。日本自動車工業会(自工会)の調査によると、2021年の2輪車の国内出荷台数は前年比15・3%増の37万8720台で、4年ぶりにプラスとなった。購入者の平均年齢も若返り、裾野は広がりつつある。一方で課題となるのが安全面だ。メーカーは2輪車用先進運転支援システム(ARAS)を搭載するなど、交通事故を防いだり事故時の負傷を抑えたりするための取り組みを進めている。(江上佑美子)

【ARAS】搭載進み、世界市場35年3.8倍

ボッシュのARASを搭載した、カワサキモータースの「Ninja H2 SX」22年モデル

ARASは、センサーを用いて先行車との車間距離を制御するアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)、衝突予知警報、死角検知などで構成する。4輪車用先進運転支援システム(ADAS)と比べ、ARASの活用は進んでいないのが現状。特に中小型の2輪車は生活の足としての性格が強く、ARASの搭載は販売価格上昇につながるため難しいという背景がある。

一方で2輪車は4輪車以上に、交通事故の際に運転手が負傷するリスクが高い。課題解決に向け、2輪車メーカーの動きが活発化している。

川崎重工業子会社のカワサキモータース(兵庫県明石市)は、国内で4月に発売したスポーツバイク「Ninja H2 SX」に独ボッシュが開発したARASを採用した。日本の量販、スポーツタイプの2輪車で初となる。

ACCや衝突予知警報、死角検知といった機能を搭載している。停車時にブレーキ効力を維持したり、ブレーキランプを点滅して後続車に急減速を知らせたりといった機能も合わせて導入し、安全性を高めた。

富士経済(東京都中央区)はARASの世界市場について、35年には20年比3・8倍の4450億円に成長すると予測する。このうち、ARASのベースであるACCについては、伊ドゥカティ、オーストリアのKTM、独BMWモトラッドといった大手2輪車メーカーが20年以降に搭載車を投入している。

富士経済は、排気量400cc以上の大型2輪車におけるACC搭載率は35年には90%超になると見込む。24年ごろには交通標識認識アシスト、25年ごろには天候や走行状態に応じて照明を自動制御するインテリジェントヘッドライトも投入されると予想している。

【エアバッグ】ホンダ、4輪車ノウハウ展開

「我々は2輪車のトップメーカー。2輪車、4輪車を合わせると世界で最も多くの車両を提供している会社であり、安全には積極的に取り組まなければいけない」。ホンダの研究開発子会社、本田技術研究所の大津啓司社長はこう強調する。ホンダは「50年に世界でホンダの2輪車、4輪車が関与する交通事故死者ゼロ」を目標に掲げており、4輪に加え2輪車に関する安全技術の研究開発を加速している。

ホンダが開発中の2輪車用エアバッグ

「4輪車で培ったノウハウは2輪車にも展開していける」と、本田技研の高石秀明先進技術研究所エグゼクティブチーフエンジニアは意気込む。現在開発中なのが、2輪車用のエアバッグだ。事故時にエアバッグが、ライダーの頭部と衝突先の4輪車などの間で膨らむことで衝撃を低減する。

2輪車事故による死亡数の4割は頭部損傷が主な原因(交通事故総合分析センター調べ)である点に着目した。試作品を用いた性能実験では、エアバッグを用いることで頭部損傷係数(HIC)を94%減らせた。

2輪用の衝突被害軽減ブレーキも開発している。前方を走る4輪車などに気付くのが遅れ、減速が間に合わずに衝突するといった事故を防ぐのが目的だ。

2輪車に搭載したセンサーが前方の障害物を検知、衝突する可能性を判断する。ライダーに危険を知らせ、ライダーが回避動作をしない場合は自動で減速。事故回避や衝突エネルギー低減を図る。

“ホンダ車が関与する交通事故死者ゼロ”を達成するためには、新車だけでなく既に使われている車両も含めた取り組みが重要になる。2輪車の特徴は、新興国での普及率が高い点だ。タイの場合、交通死亡事故の70%以上に2輪車が関与している。

日本のように運転を教習所で学ぶ習慣がなく、家族や友人に教わったり自分で習得したりした人が多い点も背景にある。ホンダはスマートフォンで交通安全について学べる「ホンダセーフティーエドテック」も開発中だ。ハードとソフトの両面で歩みを進めている。

コロナ禍で再注目 免許取得が増加傾向

コロナ禍で「密」を避けて移動したり楽しんだりする手段として、2輪車が再注目されている。国内においては2輪車ユーザーの高齢化が課題となっていたが、若い世代にも裾野が広がりつつある。

自工会が4月に発表した2輪車市場動向調査によると、21年度の2輪車購入者の平均年齢は54・2歳と、前回比0・5歳若返った。「これまでは調査ごとに年齢が上がっており、(今回若返ったのは)まれな例」(自工会調査部会2輪車分科会)だとしている。30代以下の構成比は32%で、3ポイント増加した。また警察庁によると普通2輪や大型2輪、原付の免許取得者数も増加傾向にある。

「ライフスタイルの見直しなどを進める中で、新規に免許を取って2輪車に乗りたいと考える若い人が増えている」(同)と前向きに捉える。こうした傾向を一過性に終わらせないためにも、メーカーの技術開発や官民の啓発活動により安全を確保していくことが重要になる。